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殺さずにはいられない [日本の作家 か行]


殺さずにはいられない - 小泉喜美子傑作短篇集 (中公文庫)

殺さずにはいられない - 小泉喜美子傑作短篇集 (中公文庫)

  • 作者: 小泉 喜美子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/08/22
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
推理作家が親友に古今東西の「殺し方」を話したその晩、人が殺された。驚きの方法で……(「冷たいのがお好き」)。昔の恋人を消す計画を練っていた男が落ちた陥穽(「殺さずにはいられない」)。幻のショートショートを含む傑作短篇集第二弾。著者選「ミステリーひねくれベスト10」も収録する。


イギリス読書第2弾は、「殺さずにはいられない」 (中公文庫)です。
「痛みかたみ妬み」 (中公文庫)に続く、小泉喜美子傑作短篇集の第2弾です。「痛みかたみ妬み」は買ってあるんですが未読で、ゆっくり船便でイギリスにやってくるはずです(笑)。
シャーロック・ホームズの次が、小泉喜美子かい、と言われそうですが...このところ復刊著しい作者ですから、気になっていまして。
収録作品は
「尾行報告書」
「冷たいのがお好き」
「血筋」
「犯人のお気に入り」
「子供の情景」
「突然、氷のごとく」
「殺人者と踊れば」
「髪ーーかみーー」
「被告は無罪」
「殺さずにはいられない」
「客にはやさしく」
「投書」
「ボーナスを倍にする方法」
「御案内しましょう」
「ありのまま」
「プロの心得教えます」
で、これに加えてエッセイ「ミステリーひねくれベスト10」が収められています。
「客にはやさしく」以降の6作は、ボーナストラックともいうべきショートショートとのことです。

まず率直に言って、いかんせん古いですね。今の感覚で読むと、古めかしい。冒頭の「尾行報告書」をちょっと読むだけでそのことがわかります。
なので、時代色を楽しむ感じで読むのが吉だと思います。逆に、古めかしいところが味わい深かったりして。
閉店に「かんばん」とルビがふってある(20ページ)とか「小型の早撮りカメラ」(30ページ)なんてものが出てきたりとか(いったい、どんなカメラのことを言うんでしょうか?)...
「呼ばわる」(30ページ)や「飾り窓」(32ページ)、「けぶりにも見せず」(271ページ)というのも最近はあまり目にしない表現ですね。
エッセイ「ミステリーひねくれベスト10」にも「彫心鏤骨」(348ページ)なんて素敵な表現が出てきます。
このあたりも楽しみどころといえるのではないでしょうか?

古めかしいことを別にしますと、いずれの作品でも、ツイスト(ひねり)が効かせてあることが特徴だと思います。
それぞれのツイスト自体は他愛もないというか、よくあるパターンのものなのですが、よくあるパターンといっても、そこは編者解説にも書かれているように
「洗練されていなくては、ミステリーとは言えないわ」
「メイン・ディッシュはミステリー」 (新潮文庫)で言い、
『「何を」より「いかに」書くかに重きをおくタイプの作家』
とされていた小泉喜美子ですから、細かな配慮が行き届いているように見受けられましたので、さらっと読んでしまってはもったいない作品集なのかもしれません。

気になった作品について触れておきます。ってほとんどの作品ですが。
「冷たいのがお好き」はあらすじにも触れられていますが特異な殺人方法が取り上げられています。ただしそれは実際には実現不可能な方法なんです(この方法では人は死なない)。その意味ではあらすじが殺人方法に焦点を当てているのは間違いだと思います。とはいえ、だからダメな作品ということはなく、わたしと司まゆみの関係や振る舞いに焦点を当ててみると、(たとえ作中で殺人が起こらなくても。つまり例のトリックで被害者が死ななくても)ツイストはきちんと成立しているんですよね。殺人を中心に奥行きがあるというか、広がりがあるというか、おもしろい狙いの作品だと思いました。

「血筋」は、うーん、わかりやすすぎ? ただ、ラストははっきりと書かずに思わせぶりなところが〇だな、と感じました。

「犯人のお気に入り」は、かなりツイストがうまく効いていると思いましたね。読んでいてなんかおかしいな、と思っていたんですけど...同じ趣向を西澤保彦が長編でやっていますね。(← amazon にリンクを貼っておいたのでネタバレが気になる方はクリックなさいませんよう)西澤保彦の作品も好きな作品です。

「子供の情景」は、タイトルからしてオチが読めてしまうという方がいらっしゃってもおかしくない話であまり高くは評価できない気がしますが、きっかけが皮肉な感じに出来上がっているのがポイントでしょうか(そうでなければお話しにならないかも、ですが)。

「突然、氷のごとく」は、倦怠期の有閑夫人(!)が陥る罠、という話で、これまた予想通りの展開といえるかもしれませんが、ラストの有閑夫人の行く末が個人的にはパンチが効いているというか、小泉さん意地悪だなぁ、というところ。

「殺人者と踊れば」も、うっかりすると気づかずに作者の罠にはまるかも、ですね。さらっとさらっと書かれています。丘(山)の上の館といういかにもな舞台をこういう風に使うんですね。導入部というラストといい、雰囲気のある作品です。

「髪ーーかみーー」は、個人的には割とあっさりオチが読めたんですが、主人公の思惑をひっくり返すところのキーポイントは気づきませんでした。

「被告は無罪」は、むかーし、図書館で借りた日本推理作家協会の年鑑(今でいうと、「ザ・ベストミステリーズ」ですね)で読んだことがあるはずだと記憶しており、実はストーリーもかなり覚えているつもりだったんですが、今回読んだら、あれっ? となりました。ラストが記憶と違う。そして、記憶よりもずっとずっと気の効いたエンディングでした。小泉さん、失礼いたしました。これこそツイストをうまく利用している作品の例ですよね。

「殺さずにいられない」は、出世に役立ちそうな縁談がある若い男が、昔の恋人が邪魔になって、というストーリーで大方の予想通りといった方向に話が進むんですが、ラストの急展開はかなり皮肉が効いています。あらすじには、男が落ちた陥穽、とありますが、そこから先の「殺さずにいられない」というのが急所ですよね。

最後の「プロの心得教えます」には作者の分身みたいな作家が出てきて興味深かったです。

そしてエッセイの「ミステリーひねくれベスト10」ですが、いやあひねくれにもほどがあるというか、すごいラインナップですね。ミステリーかどうか疑わしそうなのも混じっているようですが、それでも小泉喜美子が推すんなら読んでみたいと強く思いますね。ほとんど絶版やらで手に入らないみたいですが...


<蛇足>
「エスパアハンの園の薔薇茶」(13ページ)とありましたが、今風にいうとイスパハンでしょうね。薔薇の名前というよりは、どちらかというとお菓子も名前として知られているような気がしますが。



タグ:小泉喜美子
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シャーロック・ホームズ 絹の家 [海外の作家 アンソニー・ホロヴィッツ]

シャーロック・ホームズ 絹の家 (角川文庫)

シャーロック・ホームズ 絹の家 (角川文庫)

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2015/10/24
  • メディア: ペーパーバック

<裏表紙あらすじ>
ホームズの下を相談に訪れた美術商の男。アメリカである事件に巻きこれまて以来、不審な男の影に怯えていると言う。ホームズは、ベイカー街別働隊の少年達に捜査を手伝わせるが、その中の1人が惨殺死体となって発見される。手がかりは、死体の手首に巻き付けられた絹のリボンと、捜査のうちに浮上する「絹の家」という言葉……。ワトスンが残した新たなホームズの活躍と、戦慄の事件の真相とは?


ロンドン暮らしとなって、最初に読んだ本が、これ。
日本を出るときに、道中(電車の中や飛行機の中)に読もうと思って買った4冊の中の1冊です。
結局、電車や飛行機では読まずに、4冊ともそのままイギリスに持ち込むことになってしまいました。

ロンドンといったらやっぱりシャーロック・ホームズですよねぇ、ということで選びました。
正典じゃないですけどね、でも、このシリーズはパスティーシュといっても続編としてコナン・ドイル財団の許諾を得たものなので、準正典とでもいうものでしょうか。
訳者付記によれば、正典の精神を尊重するため、作者のホロヴィッツは十箇条のルールを自らに課したそうです。

日本語訳で読んでいますので、訳者の功績も大きいのだと思いますが、しっかりと懐かしのホームズの雰囲気は味わえました。
だから、めでたしめでたし、といえればいいのですが、うーん、どうでしょうこの作品は。
「活字にするにはあまりにおぞましい、身の毛もよだつような事柄が含まれている」
「いま読んでも戦慄を禁じ得ないだろう」(14ページ)
とワトソンが振り返って書いているのですが、こちらの勝手な思い込みかもしれませんが、正典の品位を損なっていないでしょうか? だからこそ「当時は公表するのがはばかられた」ということなんでしょうけど。
あとやはり、ベーカー街別動隊(不正規隊と呼ぶときもある、と書かれています。ベーカーストリートイレギュラーズですね)やその関係者を真の意味で危険な目に合わせる、というのも気になりますね。
いい意味での、おとなのおとぎ話、といった雰囲気を保っていてほしいというのは、わがままでしょうか。

ただし、この点を除くと、すこぶる快調です。
アメリカから復讐を誓って追いかけてくるギャング、とか、謎に満ちたアヘン窟、ロンドンから馬車で1時間ほどのところにある男子学校にグロースターシャーのマナーハウスとか雰囲気を楽しめますし、レストレイド警部に、マイクロフト、さらにはあの人物まで出てきて話を盛り上げてくれます。ホームズもホームズらしく(肝心の推理の部分が、ホームズらしくなくどたばたしますけど)、ワトソンもワトソンらしく、動きます。
事件のほうも、毒を盛られている形跡がないのに衰弱していく老婆の謎、とか小粒ながら意外とトリッキーでいいですよね。
なによりも、美術商の話が、いつのまにか絹の家の話へと展開していって、そのまま一方通行的話の流れなのかな、と思いきや、きちんと美術商の話も続いていく構成が素晴らしいと思いました。
続編のタイトルが、「モリアーティ」 (角川文庫)
このシリーズ、気になるところもあるんですが、楽しみです。



<蛇足>
「辻馬車をつかまえてサザーク橋を渡った。チープサイドからテムズ川をまたぐ、三つの大きな鋳鉄のアーチが支える橋だ」(137ページ)
チープサイドは知っていたのですが、サザーク橋は知らなかった(意識していなかった)ので、せっかくロンドンにいることだし、今泊っているサービスアパートメントからもほど近くなので、見に行ってきました。チープサイドとつながっている感じはしませんが...
DSC_0186_.jpg
ぼろい携帯で撮ったので、画像は悪いですが、雰囲気をつかんでいただければ。
ミレニアムブリッジから撮りました。遠くにタワーブリッジが見えます。余談ですが、あのタワーブリッジを、「ロンドンブリッジ」だと勘違いしている人が多いですよね。
近寄ってみるとこうなります。
DSC_0190_.jpg
ちなみに
DSC_0192_.jpg
ですので、知らずに見ると「サウスウォーク」と読んでしまいそうですね(5月23日追記:サウスウォークよりはサウスワークと読みそうですね、このスペルだと)。ちょっとイギリス人の発音を確かめてみたいところ。

蛇足ついでに、時間的には18:30くらいだったのですが、まだまだ明るくセントポール寺院の敷地(?)にある広場っぽいところは、こんな感じでした。
DSC_0196_.jpg
ちなみにセントポール寺院も藤(ですよね?)といっしょに撮ってみました。
DSC_0200_.jpg

あと、ホームズの兄マイクロフトが通っている<ディオゲネス・クラブ>があるというペルメル街。
スペルは、Paul Mall なんですよね。これ、ポールモールって読みますよね、普通。早く読んでもポルモル。これもイギリス人に発音を確かめてみたい。(5月23日追記:Mall はマルと読むかもしれません)
トラファルガー広場、ピカデリーサーカスに近いわりと大きな通りです。
DSC_0206_.jpg
写真右側の建物の左のほう、高さで言うと画面真ん中くらいの高さのところに、通りの名前が掲示してあります。拡大すると見えるでしょうか??

原題:The House of Silk
作者:Anthony Horowitz
刊行:2011年
訳者:駒月雅子




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すっかりご無沙汰しております [折々の報告ほか]

前回ブログを更新したのが3月10日でしたので、2ヶ月以上間が空いてしまいました。
決算期末ということで3月が忙しかった、というのが3月更新できなかった言い訳で、その後実は転勤を命じられ、その対応にあたふた、ドタバタしておりました。
転勤先が、ロンドン...こういうのって、急に命じるもんじゃないでしょ...と思いつつ準備を進めておりました。
東京での仕事の引継ぎ、VISA取得に、家を引き払う手配、いろいろとやることが山積み。また、ありがたいことにいろんな形で送別会・壮行会も開いていただき、とても忙しい、充実した日々を過ごしました。
このブログは仕事関係者は見ていないと思いますが(見ていたとしてもぼくのブログだとはわからないでしょう)、みなさま、ありがとうございました。
5月のゴールデンウィーク明けに無事(?)ロンドンに到着しました。

ということで本も読めていませんが、未読だった本はある程度船便で送っているので、そのうちロンドンに到着するのですが、まだまだ先だし、読み終わって感想をまだ書いていない本もみーんな日本に置いてきたので、このブログどうしようかなぁ、と考えています。完全に記憶ベースで感想を書くのもなんだかなぁ、ですし、書くことがない...

ロンドン暮らしのスタートをつれづれ書いてみるのもいいかも、と思いましたが、するとブログのテーマがねぇ...
新しいブログでも作っちゃうかな...

ちなみに、ロンドンはまだ寒い日が多いです。
日本から到着した日は暑かったんですけどね。
とりあえずの近況報告です。

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