家政婦は名探偵 [海外の作家 は行]
<カバー裏あらすじ>
とびきり善人だが、刑事としての才能はほぼ皆無なウィザースプーン警部補。事件のたび困りはてる主人を放っておけない“名探偵”の家政婦ジェフリーズ夫人をはじめ、彼を慕う屋敷の使用人一同は、秘かに探偵団を結成する。今回警部補が担当するのは、毒キノコによるらしき殺人事件。探偵団は先回りして解決し、主人の手柄にできるのか? 痛快ヴィクトリア朝ミステリ新シリーズ。
落穂拾いを続けます。
第2作 「消えたメイドと空家の死体」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)
第3作 「幽霊はお見通し」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)
第4作 「節約は災いのもと」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)
と感想を書いてきたシリーズの第1作です。
ぼんくら刑事である主人ウィザースプーン警部補を、ジェフリー夫人たち使用人探偵団がヘルプする、という建付けのシリーズですが、ウィザースプーン警部補が「刑事としての才能はほぼ皆無」とあらすじに書かれているのには笑ってしまいました。皆無......
まあ、実際皆無と言われても仕方のない活躍ぶりではありますが、それでも
「捜査中のウィザースプーンは途方に暮れているように見えることがしばしばあるが、ここぞというときにはとても有能だ。」(259~260ページ)
と言われるくらいには、頭を使えるんですよ。
殺人事件の捜査ですが、なんともほのぼのした雰囲気で話が進むのがいいですね。
また、ミステリ的にはさほど取り立てて言うほどのこともないのかもしれませんが、犯人とその犯行手段、そしてその犯行手段に至る道筋がナチュラルに組み立てられているのがよかったです。
邦訳はこのあと途絶えているようですね......
原作のほうは、こちらのサイトを見ると40作(!)まで出ているようなので、なんとか翻訳も続けてほしいですね。
<蛇足1>
「厳しい雇い主を使用人がしょっちゅう殺していたら、貴族の半分はいなくなっている。」(50ページ)
当時の、雇用者・被雇用者の関係性がうかがえますね。身分という重しがうっすらとではありますが、伝わってきます。
<蛇足2>
「朝食はポリッジ粥と紅茶だったそうです。」(50ページ)
一瞬、ん?と思いました。
ポリッジが粥だからです。
おそらく日本語に移す際、ポリッジでは通じにくく、かといって粥と言ってしまうと東洋風のお粥をイメージしてしまうでしょうから、あえてポリッジ粥とされたのでしょうね。
おもしろいです。
<蛇足3>
「あいつはまったく味がわからないんだから。雄ヤギ程度の味覚しかないんだもの。」(168ページ)
雄ヤギって、味オンチの代名詞になっているのでしょうか?
こういう表現おもしろいですね。
<蛇足4>
「旦那さまは本当に頭がいいんですね」
「それほどでもない」ウィザースプーンは謙遜して笑った。(259ページ)
普通の人たちの会話であれば「謙遜」でいいのでしょうが、ウィザースプーンの場合は、謙遜ではないような...(笑)
原題:The Inspector and Mrs. Jeffries
作者:Emily Brightwell
刊行:1993年
訳者:田辺千幸