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出口のない部屋 [日本の作家 か行]


出口のない部屋 (角川文庫)

出口のない部屋 (角川文庫)

  • 作者: 岸田 るり子
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/04/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
赤いドアの小さな部屋に誘われるように入り込んだ3人の男女。自信あふれる免疫学専門の大学講師・夏木祐子、善良そうな開業医の妻・船出鏡子、そして若く傲慢な売れっ子作家・佐島響。見ず知らずの彼らは、なぜ一緒にこの部屋に閉じ込められたのか?それぞれが語りだした身の上話にちりばめられた謎。そして全ての物語が終わったとき浮かび上がる驚くべき真実――。鮎川哲也賞作家が鮮やかな手法で贈る、傑作ミステリー!


2022年3月に読んだ2作目(3冊目)の本です。
岸田るり子らしい、凝った作品です。
こういう凝った作品は好きなので、いいぞいいぞ、というところなのですが、ちょっと苦しいかな、と。

出版社の社員がホラー作家の家に訪れ原稿を受け取るシーンから幕を開けます。
なにやら因縁がありそうな二人。
「読ませていただいてよろしいですか?」
というセリフを受け、そのあと作中作が展開します。

引用したカバー裏のあらすじは、この作中作をメインにしていますね。
意図せず小さい部屋に閉じ込められた三人の男女、とホラー映画でよくある設定です。
そしてそれぞれの物語が交互に語られます。
それらを繋ぐのが、作中作の外の、(因縁があるらしい)編集者と作家。

非常に凝った意欲的なプロットではあるのですが、これ、破綻していませんでしょうか?
まず、作中作が実名で綴られている、というのが不自然です。
もちろん実在の人物が登場する小説というのもあり、なのですが、この作中作をそういう形で書く必然性が物語として感じられません。
そしてその中身は、編集者と作家の関係性にもかかわるもの、なのですが、この編集者が原稿を取りに行く段取りが偶然なのです。
担当でもないのに編集長に無理を言って取りに行くということなので、それは編集者サイドで作家との関係性をはっきりさせようという意図があったものではあるのですが、その時の原稿がたまたま実名入りの、二人の関係性にかかわる物語だった、というのは、ちょっといただけない。

千街晶之の解説によれば、本書の大前提として、サルトルの「出口なし」という戯曲の影響を受けたもの、ということで、この戯曲を読んでも観てもいないため、大きな読み違い、勘違いをしている可能性がありますが、この不自然さにはがっかりました。

一方で、紡ぎ出される物語は面白かったですね。
イヤミスにはなっていませんが、三者三様の物語は濃密だったと思います。
それを受けての、編集者と作家自身のエピソードも、薄々想像がついたので驚いた、というのとは違いますが、いざ明らかになると衝撃を受けました。
大学の実験室で発見される首だけの死体とか、焼身で死を遂げるシーンとか、むごたらしく美しい感じで、夢に出そうです。
トリックも、奇を衒ったものではないですが、納得感のあるものが使われていて、無理なく伏線が敷かれています。
もうちょっと繋ぎの部分がうまくいっていればなぁ、と残念です。
非常に期待が持てる作家さんなので、また別の作品を読みたいです。


<蛇足>
「牡蠣を白ワインで蒸して、水菜、チシャ、レタス、赤ピーマンの細切りをバルサミコ酢であえた前菜を皿に盛り、バジルを上にちらす。」(170ページ)
あれ? チシャってレタスのことではありませんでしたか?



タグ:岸田るり子
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