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眠れる森の惨劇 [海外の作家 ら行]


眠れる森の惨劇―ウェクスフォード警部シリーズ (角川文庫)

眠れる森の惨劇―ウェクスフォード警部シリーズ (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2022/11/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
五月十三日の月曜日はその年、もっとも不吉な日だった。ウェクスフォード警部の部下マーティンが、銀行強盗に殺されたのだ。そして同じ日の夜、高名な社会学者が住む森の奥の豪奢な館から緊急通報が入った。「助けて、早く来て、早くしないとみんな殺されてしまう」
強盗殺人と森の奥での一家惨殺。二つの事件に何らかのつながりがあることを確信したウェクスフォードは鬱蒼たる森に潜む狂気に近づいていく。が、不可解な出来事の連続で、謎はどんどん深まりゆくばかりだった……。待望のウェクスフォード警部シリーズ。本格サスペンス。


2022年5月に読んだ6冊目の本です。
「ジェノサイド」(上) (下) (角川文庫)(感想ページはこちら)と
「空白の叫び」(上)(中)(下) (文春文庫)(感想ページはこちら
の間に読んでいたのですが、感想を飛ばしていました。

ルース・レンデルの作品を読むのはすごく久しぶりです。
手元の記録によると2009年にバーバラ・ヴァイン名義の「哀しきギャロウグラス」 (角川文庫)を読んで以来で、12年ぶりですか。
ルース・レンデルは、一時期恐ろしい勢いで翻訳が進みましたが、ばったり訳されなくなりましたね。
訳されなくなったどころか、訳書のほとんどが今や入手困難ですから、時代の移り変わりを感じます。

さて、この「眠れる森の惨劇」 (角川文庫)はウェクスフォード警部シリーズの一作です。
じっくり楽しめましたね。
ウェクスフォードの私生活に筆が費やされ、特に娘であるシーラが変な男にひっかかってしまって、ウェクスフォードが振り回される状況が可笑しかったです。
そのせいか? ウェクスフォードは一家惨殺事件の生き残りである娘デイジーに親身な姿勢。


事件の方は銀行強盗と一家惨殺事件という、豪華二本立て?で、派手なところはないものの、レンデルには珍しく意外性も狙った作品のように感じられました。


原題は、”Kissing The Gunner’s Daughter”。
直訳すると、砲手(ガンナー)の娘にキスをする。
このままの表現が二度ほど出てきます。
「ガンナーの娘にキスをするというあの言い回しをご存じですか、警部?」
「なにかが全然ちがうという意味のフレーズなんですが、ただ、それがなんだったのか思い出せなくて」(345ページ)
バーデンが部下?同僚?のバリー・ヴァイン部長刑事に言われるセリフですが、このバリーの説明は間違っていますね。
後にウェクスフォードが
「どういう意味かって? 鞭でうたれるって意味だ。英国海軍では水兵を鞭うつとき、まず甲板の大砲にそいつをしばりつけてからやる。だから ”ガンナーの娘にキスをする” のは危険なくわだてだったわけだ。」(514ページ)
と解説します。

プレミアリーグのアーセナルの別名がガンナーであることも出てきますし、主要登場人物の一人であるデイジーの実の父親がアーセナルでプレイしていたこともあってガンナーと呼ばれているということも関係していますね。
ひょっとしてレンデル、語呂合わせでこのストーリーを思いついて作品に仕立て上げた?

久しぶりのレンデル、おもしろかったですね。
積読本がまだまだあるので、ゆっくりではありますが、読んでいこうかと思います。


<蛇足1>
「どこかに暗証番号を書き留めたのは確かだ。彼は記憶の糸をたぐった──50503? 50305?」
キャッシュカードの暗証番号が5桁ということはないと思うのですが(イギリスも同様です)。

<蛇足2>
「小切手の確認のためにクレジットカードの提示を求められることはなかった。」(8ページ)
小切手の確認のために提示を求められることがあるのは、クレジットカードではなくキャッシュカードかと思います。

<蛇足3>
「ドアマットの上の郵便受けに、シーラからの絵はがきがはいっていた。四日前にヴェニスで投函されたもので、彼女はあの男とそこへ行っていたのだ。」(66ページ)
ヴェニスからイギリスまで5日で到着するとは、イタリアとイギリスの郵便事情はよいのですね。
今や日本では到底望めない迅速な配達ぶりです。
(考えてみれば、何もかもスローなイギリスでも郵便だけは──だけと言っては失礼ですが──しっかりしていたなと思えます)

<蛇足4>
「ダヴィナはそこのメンバーだか友達だかなんだかで、年に三回はでかけているの──いたの」(132ページ)
ここの友達は「friend」の訳だと思いますが、ここは友達ではなく、会員のことを指すのだと思われます。メンバーと同じ意味ですね。

<蛇足5>
「したがって、<ナメクジとレタス>というミリンガムのパブにはいり」(214ページ)
<ナメクジとレタス>で思い出しましたが、”Slug and Lettuce” というバーのチェーンがロンドンにありました。
一般的なパブのイメージよりは明るい内装でした。
ここに出てくる<ナメクジとレタス>は、チェーンの ”Slug and Lettuce” ではなさそうですが。

<蛇足6>
「ウェクスフォードはイギリス中のすべての銀行のすべての支店で現金が引き出せるトランセンド・カードをもっていた。」(418ページ)
イギリスでは、自行他行関わらず、どこのATMでも銀行のキャッシュカードで現金が引き出せ、かつ手数料も無料ですが、ここを読むと以前はそうではなかったようですね......
トランセンド・カードというものを見たこと、聞いたことはありません。



原題:Kissing The Gunner’s Daughter
著者:Ruth Rendell
刊行:1992年
訳者:宇佐川晶子




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