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ジョージ・サンダース殺人事件 [海外の作家 ら行]

ジョージ・サンダース殺人事件 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

ジョージ・サンダース殺人事件 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2015/07/23
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
幌馬車隊の襲撃シーンが終わっても起き上がらないエキストラは、額に銃弾を受けて死んでいた。殺人なのか、事故なのか。名優ジョージ・サンダースは「殺人だ」と断定、スクリーン同様に殺人捜しにのめり込んでいく。だが件の銃弾は、ほかならぬサンダースの銃から発射されたものだった。こうして無実の証明もしなくてはならなくなったサンダースに第二の殺人が知らされる…


単行本です。
映画俳優であるジョージ・サンダースを作者として出版されたもので、クレイグ・ライスは代作、ゴーストライターですね。
でも、森英俊さんの解説をみるとSF作家のクリーヴ・カートミルとの共作みたいですね。ミステリということで、日本ではライスのみを推したということでしょうか? なんとなく不公平な感じがしますね。

ジョージ・サンダースが書いた「ジョージ・サンダース殺人事件」というのはおもしろいなー、と思っていたのですが、原題は「Crime on My Hands」なんですね。
「本書は、物語の作者兼語り手であり、映画で探偵を演じたこともある実在の俳優ジョージ・サンダースが主人公兼探偵という、前代未聞の構成の、極めてユニークなミステリである。」と解説で書かれている通りです。

映画撮影中に発生した殺人事件というキャッチ―で、興味深い事件を取り扱っています。
事件そのものは単純(なはず)なのに、愉快な(?) 登場人物たちのおかげでどんどん複雑に混乱していく、といういかにもクレイグ・ライス風展開で楽しめます。
凶器を隠しちゃって右往左往する、とか、ジョージ・サンダースが犯人を罠にかけようとしたら、次から次へと容疑者がやってきてハチャメチャ、とか、楽しいですよね。
それでいて、ちゃんと意外な犯人を演出しているのも立派ですよね。
SF作家のクリーヴ・カートミルとの共作とのことながら、クレイグ・ライスが主導していたのでしょうね。
ジョージ・サンダースという名前に寄りかかっているのではなく、クレイグ・ライス印としても、十分おもしろい作品だったな、と思います!


ところで最後に、この本、翻訳がひどいです。
訳者の森村たまきさんって、ジーヴスシリーズを訳されている方ですよね。そちらは読んだことないのですが、こんなひどい翻訳で出版されているのでしょうか?
この「ジョージ・サンダース殺人事件」は、下訳の人の原稿をそのまま見直さずに使われたんでしょうか? 不思議です。
いくつかひどいな、と思ったものを挙げてみます。
「俺自身の福祉についてひとこと言わせてもらいたい」(93ページ)
サンダースを警察に連行するしないという話をしているときに、サンダース自身が言うセリフです。
福祉!? なんのことでしょうか?
原文の想像もつきませんね......

「あの人、前は偉大なエンジニアになりたかったの。その次は偉大なパイロットになりたがった。そのあとは偉大な金融家で、花形セールスマンで、それで最後に、偉大な俳優ね。」(125ページ)
間違いではないのでしょうけれど、ここの「偉大な」というのは違和感ありませんでしょうか?
せいぜい「立派な」程度にしておくべきではなかろうかと。まあ、この程度の変な日本語なら可愛いものですが。

「元々持っていたものは、持ち続けた--スリムなヒップ、豊かな胸、そしてきれいな顔。」(126ページ)
わけのわからない表現にびっくりです。こう日本語がでたらめだと、「一生懸命」と同じ長セリフの中に出てきてもなんとも思いませんね。

「髪をつかんで引き戻してやるぞ」俺は脅迫したし、またそうするつもりだった。(133ページ)
これまたひどい日本語ですね。
「わからん、サミー。だがわかるつもりだ」(146ページ)
またもや変な日本語です。「わかるつもり」なんて「気づくつもり」と言わないのと同様日本人は言わないですね。

「俺がセヴランス・フリン殺害で告発され有罪判決を下されるのは、信じられない話ではない。」(153ページ)
おそらく原文は believe を使っているのでしょうが、日本語に直す際には「信じられない」ではなく「考えられない」を使うべきではないかと。

「俺は一瞬のバカげた愚かさゆえに、彼の言うとおり俺が知っていることを全部話して『クリーン』になろうと決意した。」(181ページ)
「一瞬のバカげた愚かさゆえに」という言い回しの愚かさにびっくりします。

「シェフは、彼の料理人としての感受性のどん底の底まで傷つき、」(200ページ)
感受性、ですか......

「俺はにっこり笑わなきゃならなかったが、俺の意志力がそのにっこり笑いを一瞬で拭い去った。」(288ページ)
意志力が拭い去る、ですか......
まったくできの悪い中学生の英文和訳みたいですね。


<蛇足>
134ページに、声を出せば、電話のレシーバーを持ち上げ、マイクから送話機につながる仕組みをサンダースが作った、というところがあるのですが、この作品の当時、そんなこと可能だったのでしょうか? 副業が発明というハリウッドスターというのは、すごいんですね。


原題:Crime on My Hands
作者:George Sanders / Craig Rice
刊行:1944年
訳者:森村たまき





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