15歳のテロリスト [日本の作家 ま行]
<カバー裏あらすじ>
「すべて、吹き飛んでしまえ」突然の犯行予告のあとに起きた新宿駅爆破事件。容疑者は渡辺篤人。たった15歳の少年の犯行は、世間を震撼させた。
少年犯罪を追う記者・安藤は、渡辺篤人を知っていた。かつて少年犯罪被害者の会で出会った孤独な少年。何が、彼を凶行に駆り立てたのか? 進展しない捜査を傍目に、安藤は、行方をくらませた少年の足取りを追う。
事件の裏に隠された驚愕の真実に安藤が辿り着いたとき、15歳のテロリストの最後の闘いが始まろうとしていた――。
「死香探偵-連なる死たちは狂おしく香る」 (中公文庫)(感想ページはこちら)に続いて5月に読んだ本で、5月に読んだ最後の本です。
そう、5月は2冊しか読めなかった......
カバー裏には引用したあらすじの上に「衝撃と感動が突き刺さる慟哭のミステリー」と、いかにも下品な惹句が書かれていてげんなりしますが、それは編集者の責任で、作者の責任ではないので責めてはかわいそうです。
あちらこちらで評判がよかったので、手に取りました。
読み終わった感想は、大変失礼な物言いで恐縮ですが「悪くないな」というものでした。
下品な惹句に負けず、いっぱい売れるといいな、と思いました。
テロ事件を追う記者のシーンと、ぼくと少女との交流を描くシーンが交互に描かれます。
いわゆるラノベのレーベルですし、250ページほどの薄い本なので、非常にせわしなく、筋を追うのに精いっぱいな感じがします。
あらすじで「驚愕の真実」と言われている真相も、さほど意外ではなく、大方の読者が早い段階で射程に入れるようなものだと思います。
最後の対決シーンも、少々安っぽい。
と、こう感想を書くと、ネガティブな感じを受けるかと思いますが、冒頭にも書いたように「悪くないな」と思いましたし、支持したいと思いました。
作者の松村涼哉には、ラノベを離れて、一般小説の枠?で、十分な枚数で作品を書いてみてもらいたいな、と。
松村涼哉には、物語る力があると思うのです。
少年法、犯罪被害者の扱い、といった、すでに手垢のついたようなテーマですが、大きな物語に仕立てくれましたし、実名入りの犯行予告やその狙いとか、大きな物語を支えるディテールもきちんと効果的に機能しています。
15歳という設定も、考えられて選ばれたんだろうなと思います。
物語の構成上リスキーではありますが、登場人物の心情にもう少し分け入ってくれたら、より説得力が増したかも、と思え、十分な枚数で存分に書いてもらえたら、と感じました。
楽しめたし、期待も高まっていますので、ほかの作品も読んでみたいと思います。
<蛇足>
「渡辺篤人がいまだ逮捕されない現状を鑑みれば」(97ページ)
言っても詮無いこととわかっていても、やはり気になりますね。~を鑑みれば。気持ち悪い。
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