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光媒の花 [日本の作家 道尾秀介]


光媒の花 (集英社文庫)

光媒の花 (集英社文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/10/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
匹の白い蝶がそっと見守るのは、光と影に満ちた人間の世界──。認知症の母とひっそり暮らす男の、遠い夏の秘密。幼い兄妹が、小さな手で犯した闇夜の罪。心通わせた少女のため、少年が口にした淡い約束……。心の奥に押し込めた、冷たい哀しみの風景を、やがて暖かな光が包み込んでいく。すべてが繋がり合うような、儚くも美しい世界を描いた全6章の連作群像劇。第23回山本周五郎賞受賞作。


2022年12月に読んだ6冊目の本です。
山本周五郎賞受賞作とのことですが、山本周五郎賞って地味ですよね......あまり知られていない気がします。

目次を見ると、第一章、第二章とあるので、長編として捉えられることを企図していると思われますが、読んでみた印象は連作短編集です。
登場人物の一部が重なっていく形の連作ですが、ピュアなリレー形式というわけでもなく、また輪になって閉じるというかたちでもありません。ただ、最終章ではいままで出てきた人物たちが顔を出します。
ああ、そこを繋げるのか、あるいは、次はその人物の物語を紡ぐのか、とさすが道尾秀介と言いたくなるようなつながり方をしていく物語になってはいるのですが、非常に緩やかなつながりのため、少々不安定な作品世界のようにも思えました。
これは、この連作長編を貫くアイデアが、「光媒」とタイトルにもあるように、かそけきつながりであるから、だと思えます。なにしろ、虫媒や風媒よりも遥かにはかなそうな「光媒」ですから。
それであるがゆえに最終章の仕上がりは、解説で玄侑宗久が指摘しているように「強引な円環づくり」にも思われます。

「光ったり翳ったりしながら動いているこの世界を、わたしもあの蝶のように、高い場所から見てみたい気がした。すべてが流れ、つながり合い、いつも新しいこの世界を。どんな景色が見られるだろう。泣いている人、笑っている人、唇を嚙んでいる人、大きな声で叫んでいる人――誰かの手を強く握っていた李、何かを大切に抱えていたり、空を見上げていたり、地面を真っ直ぐに睨んでいたり。」(284ページ)
最終章におけるある登場人物の感想(感慨?)ですが、ここで、光媒ではなく蝶媒でよかったのでは?と思ってしまったりもしました。
玄侑宗久による見事な解説を読んだ今では、光媒である意味を理解したつもりではありますが。

ミステリ好きの立場からいうと、第一章からどんどん(わかりやすい)ミステリ味が薄くなっていくことが少々残念ではありますが、この点もテーマに寄り添った物語展開故なのだと思います。




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