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新参者 [日本の作家 東野圭吾]


新参者 (講談社文庫)

新参者 (講談社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/08/09
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
日本橋の片隅で一人の女性が絞殺された。着任したばかりの刑事・加賀恭一郎の前に立ちはだかるのは、人情という名の謎。手掛かりをくれるのは江戸情緒残る街に暮らす普通の人びと。「事件で傷ついた人がいるなら、救い出すのも私の仕事です」。大切な人を守るために生まれた謎が、犯人へと繋がっていく。


自分でも意外に思ったのですが、加賀恭一郎ものの感想を書くのは初めてなんですね...
「このミステリーがすごい! 2010年版」第1位、2009年週刊文春ミステリーベスト10 第1位です。
ちなみに、「2010 本格ミステリ・ベスト10」 では第5位です。

長編という体裁ですが、
第一章 煎餅屋の娘
第二章 料亭の小僧
第三章 瀬戸物屋の嫁
第四章 時計屋の犬
第五章 洋菓子屋の店員
第六章 翻訳家の友
第七章 掃除屋の社長
第八章 民芸品屋の客
第九章 日本橋の刑事
という章立てになっており、全体で一つの事件の捜査でありながら、個々の章ではそれぞれ章のタイトルになっている人物にまつわる「日常の謎」的な小さな謎を解いていく、という構成になっています。各章が緩やかに繋がって、ラストで事件を解きほぐす、というかたち。

日本橋警察署に練馬署から異動してきたばかりの加賀が事件を解決するわけですが、事件を解決していくと同時に、実は9章かけて、細切れに、じっくりと加賀を描いた作品というかたちにもなっています。
つまり主人公は加賀。
いや、探偵役なんだから主人公に決まっているだろう、というツッコミをもらいそうですが、ミステリにおける探偵役って、傍観者というかメインの人物じゃないことが結構ありますよね。
事件を描くのが主目的であって、主人公の人物像は、まあ、おまけ。
でも、この作品は違います。
読後感は、事件の方がおまけみたい。(おまけ、というには贅沢に趣向が凝らされていますけど)
加賀をどう描くか、を考えたときに、東野圭吾はこの作品の構成を思いついたんじゃないかなぁ、なんて思ったりしました。
だからこそ、タイトルは「新参者」なんだよな、と一人で納得したりして。

その意味では、一般に褒められている日本橋・人形町界隈の下町情緒も、加賀を描くための道具なんですよ。ふふふふふ。


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野良猫

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真夏の方程式 [日本の作家 東野圭吾]


真夏の方程式 (文春文庫)

真夏の方程式 (文春文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/05/10
  • メディア: ペーパーバック


<裏表紙あらすじ>
夏休みを玻璃ヶ浦にある伯母一家経営の旅館で過ごすことになった少年・恭平。一方、仕事で訪れた湯川も、その宿に宿泊することになった。翌朝、もう1人の宿泊客が死体で見つかった。その客は元刑事で、かつて玻璃ヶ浦に縁のある男を逮捕したことがあったという。これは事故か、殺人か。湯川が気づいてしまった真相とは――。


ガリレオ・シリーズ第6弾。長編としては第3長編となります。
ガリレオ・シリーズというと、これまでトリックに比重があるように思われることが多かったのですが、本作品はトリックそのものは単純なものにして、その分いろいろなもの(人物含め)の配置に重点を移した感があります。
この方向性そのものはよいと思うのですが、正直、ミステリとしての側面をみるとあまり高く評価はできない作品なんじゃないかなと思います。
人物の配置と舞台設定を見ただけで、事件直後に犯人や事件の構図の見当がついてしまう読者、かなりいると思うんですよね。
さらに、事件への決着のつけ方も、これでいいのかな、と考えてしまいます。
犯人側に同情の余地があるとしても、ちょっとねぇ。

しかし、この作品は、恭平と湯川の交流がメインテーマなんだろうな、と。
114ページくらいからの、船が嫌いな恭平に百メートル以上先の海底を見せるための、ペットボトルロケットのシーンが印象的です。

恭平がこの作品で果たす役割から湯川の立ち位置を考えると、先程指摘した決着のつけ方も、あり、ということなのかもしれませんね。






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カッコウの卵は誰のもの [日本の作家 東野圭吾]


カッコウの卵は誰のもの (光文社文庫)

カッコウの卵は誰のもの (光文社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/02/13
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
往年のトップスキーヤー緋田宏昌は、妻の死を機に驚くべきことを知る。一人娘の風美は彼の実の娘ではなかったのだ。苦悩しつつも愛情を注いだ娘は、彼をも凌ぐスキーヤーに成長した。そんな二人の前に才能と遺伝子の関係を研究する科学者が現れる。彼への協力を拒みつつ、娘の出生の秘密を探ろうとする緋田。そんな中、風美の大会出場を妨害する脅迫者が現れる――。


印象的なのはタイトルですね。
カッコウで、卵、ときたら、托卵、ですね。
世界大百科事典 第2版の解説によると、
「自分では巣をつくらずに,ほかの種の鳥の巣に卵を産みこみ,その後の世話をその巣の親鳥にまかせてしまう鳥の習性。ホトトギス科,ミツオシエ科,ムクドリモドキ科,ハタオリドリ科,ガンカモ科の鳥に見られる。この習性について最もよく調べられているのは,ホトトギス科のホトトギス属の鳥,特にカッコウである。これらの鳥では,雌は自分の卵を1個産みこむと同時に,巣の中の卵を1個くわえとり,飲みこむか捨てるかしてしまう。 」
あらすじにも主人公緋田と娘風美には血がつながっていないことが示されています。
とすると、実の親がカッコウで、風美が托卵された卵、緋田は託された親鳥、という構図ですね。
で、タイトルが問いかけているのは、「風美は誰のものか」。

風美は、スキーヤーとして図抜けて素晴らしい才能を発揮していきます。ワールドカップ云々というレベルですから、まさにトップレベルの才能。
本書には同様に才能を持つ若者が描かれます。鳥越伸吾。才能はあるけれど、ほかにやりたいこと(ギター)があるので練習に身が入らない。クロスカントリーの練習中に、彼がこう思うシーンがあります。
「全く暗いスポーツだ、と伸吾は思う。競技人口が増えないのもわかる。これならマラソンの方がましだ。もっとも俺はマラソンだってやりたくないけど――」(163ページ)
そんな彼が遭遇する地元の高校のスキー部員フジイ、クロサワとのやりとりも、味があります。
まさに「スポーツへの姿勢も人それぞれだ」(384ページ)です。
スポーツシーンは、いつもながら楽しく読めましたし。

つまり、親子とは、才能とは、という2つのテーマが取り上げられているわけです。贅沢...

終盤
「才能の遺伝ってのはさ、いわばカッコウの卵みたいなもんだと思う。本人の知らないうちに、こっそりと潜まされているわけだ。」(366ページ)
というセリフもあり、とすると、ここで2つのテーマが一つに結ばれた、ということができます。

すっきり割り切れるようなテーマではないので、賛否はひとそれぞれだと思いますが、この2つのテーマに、東野圭吾は一つの答えを提示した、ということでしょうか?

一方でミステリの方は、とっちらかった感じです。
ミステリ、サスペンスとしては、東野圭吾にはもっと切れ味を求めたいところ。

動機も犯行手段も、いまひとつ説得力に欠けるように思いました。
また事件の遠因となる(起点となる?)、緋田の妻の自殺のエピソードも、まったくあり得ないとまでは思わないけれど、もうすこし丁寧に説明してほしいところです。



<蛇足>
339ページ、「早急」にちゃんと「さっきゅう」とルビが振ってあって、うれしくなりました。
もう、「そうきゅう」と間違って読む人の方が多数派のようで悲しく思っていたので、まだまだ大丈夫かな、と。

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プラチナデータ [日本の作家 東野圭吾]


プラチナデータ (幻冬舎文庫)

プラチナデータ (幻冬舎文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2012/07/05
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
国民の遺伝子情報から犯人を特定するDNA捜査システム。その開発者が殺害された。神楽龍平はシステムを使って犯人を突き止めようとするが、コンピュータが示したのは何と彼の名前だった。革命的システムの裏に隠された陰謀とは? 鍵を握るのは謎のプログラムと、もう一人の“彼”。果たして神楽は警察の包囲網をかわし、真相に辿り着けるのか。


嵐の二宮和也と豊川悦司の共演で映画化もされた、東野圭吾の作品です。
楽しく読めますが、東野圭吾の作品としては上位に来ない--はっきり言ってしまえば、下位に来る出来栄えではなかろうかと思います。

あらすじを見て、アレ? トム・クルーズ主演の映画「マイノリティ・リポート」みたいだなぁ、と思いました。
近未来を描いた作品としても、ミステリとしても、中途半端というか、読者の想定の範囲内にとどまっているようです。

あらすじに書かれている程度のことが読み取れた段階で、読者は一定の想定を持ちます。
1. 本人の記憶にないだけで、神楽が犯人である。
2. 神楽以外が犯人である。
1.は、まずないだろうな、と考えるでしょう。
早い段階(90ページ)で明かされているので、書いてしまいますが、神楽は多重人格だ、という設定になっており、神楽本人の意識のないところで、多重人格サイドの人格が犯行を行ったのでは? という可能性が出てくるようにはなっていますが、類似のアイデアの先行作があまりに多く、つまらさすぎる。
すると、2だろうな、ということになり、すると必然的に、システムには欠陥がある、という結論で、たまたまそういう欠陥が発生してしまった、というのはミステリ的には厳しいので、人為的に欠陥を作った、ということが導き出される。このシステムは国家的なもの、という位置づけですから、必然的に、国家レベルの、あるいは少なくともシステムを企画立案した相当上位レベルの人が関与している、ということとなる。プラチナデータ、というのはそうすると...
このあたりまでは、普通に考えつくと思われますので、このことを念頭に読み進めて、さてこの作品が読者の期待を上回るかというと、さてどうでしょうか?

文庫本の帯の裏表紙側に
「合理性を徹底的に重視した捜査手法を駆使する人物がいたとして、その方法によって彼が彼自身を犯人だと断定せざるをえない状況に陥ったらどうなるか。
今回の私の挑戦は、そんな難問を自分に課すことから始まりました。
ハードルをクリアしているかどうかは、読者の皆さんに判断していただきたいと思います。」
という作者のことばが書かれているのですが、ハードルは低めに設定されたようですね。
映画化がもともと決まっていたので、ひょっとしたら複雑にしすぎないよう、あえてそういう路線を採用したのかもしれませんが、ミステリファンとしては喰い足りない内容になっています。

ただ、そこはベテラン作家、常套的でも手堅い人物配置で神楽を追い込んでからのサスペンスは十分ありますし、ハラハラして読み進めます。
はじめて東野圭吾を読むのには向かないかな、と思いますが、楽しめる作品だとはいえると思います。

<蛇足1>
90ページに「一生懸命」という記載があります。セリフの中なので、登場人物が「いっしょう」と発音したことを示すため、かもしれませんが、小説にはふさわしくないように思います。
ひょっとして、もう教科書レベルでも、一所懸命とは書かず、一生懸命と書くようになっているのでしょうか!?
301ページには、「脳刺激を勧めたり、強要した場合だけだ」という記述。これも、「~たり、~たり」という定型を崩してしまっています。
東野圭吾さん、多作で書き飛ばした?? 校正した出版社も手抜きした??

<蛇足2>
310ページに「券売機の記録を調べたところ、先程買ったのと全く同じ行き先の切符を購入しています。しかも席は隣同士です」とあります。
現在の券売機だと、特定の座席を指定した買い方はできないと思います。
この作品の舞台となった近未来では、きっとできるようになっているのでしょうね。







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聖女の救済 [日本の作家 東野圭吾]


聖女の救済 (文春文庫)

聖女の救済 (文春文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/04/10
  • メディア: ペーパーバック


<裏表紙あらすじ>
資産家の男が自宅で毒殺された。毒物混入方法は不明、男から一方的に離婚を切り出されていた妻には鉄壁のアリバイがあった。難航する捜査のさなか、草薙刑事が美貌の妻に魅かれていることを察した内海刑事は、独断でガリレオこと湯川学に協力を依頼するが……。驚愕のトリックで世界を揺るがせた、東野ミステリー屈指の傑作!


世間で大評判の、そして売れて売れて仕方のない(?) ガリレオシリーズです。
2008年週刊文春ミステリーベスト10 第5位、「本格ミステリベスト10 2009」第4位です。
「容疑者Xの献身」 (文春文庫)とはまた違った意味で、この「聖女の救済」 もトリックが議論になるのでしょうね。
トリックが作品の中心となって出来上がっている作品です。
「あれほど合理性のない、矛盾に満ちたトリックを考えつくんだから」
とラストで湯川に言わせていますが、確かに強烈なトリックですね。
正直、どうなんでしょうか。最後に明かされるトリックを読んで、怒り出す読者、結構いるのではないかと思います。
怒るまではいかなくても、無理だ、とか、現実味がない、とか、成立しない、とか、そういう感想を抱く人多いのではないでしょうか。
東野圭吾ほど売れていると、普段ミステリを読みつけない人も読むでしょうから、余計心配です。

文庫についている帯の惹句が印象的です。
「ガリレオが迎えた新たな敵、それは女。」
「おそらく君たちは負ける。僕も勝てない。これは完全犯罪だ」

しかし、なによりすごいのは、犯人じゃなく、それを明かしたガリレオでもなく、やはり東野圭吾だと思います。
こんなトリック、思いついても作品にはしませんよ! きっと普通の作家なら。
作者は無理を承知で、あちこち相当配慮した書き方や構成をしているのがわかります。

一方でこのトリック、いくら無理でも、ミステリ魂をくすぐるというか、ミステリファンに訴えかけてくるものがあります。
「そんなの無茶だよ」と思うよりも先に、「うーん、そう来たか! 」とか「ああ! そういうひっくり返し方があったんだ」とか、そういう感想を抱いてしまいそう。
そして、それを一編の長編に仕立てあげた作者に敬意を表するというか...
毒殺トリックの幅を広げた意欲作、として支持したいです。




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歪笑小説 [日本の作家 東野圭吾]


歪笑小説 (集英社文庫)

歪笑小説 (集英社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/01/20
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
新人編集者が目の当たりにした、常識破りのあの手この手を連発する伝説の編集者。自作のドラマ化話に舞い上がり、美人担当者に恋心を抱く、全く売れない若手作家。出版社のゴルフコンペに初参加して大物作家に翻弄されるヒット作症候群の新鋭……俳優、読者、書店、家族を巻き込んで作家の身近は事件がいっぱい。ブラックな笑い満載! 小説業界の内幕を描く連続ドラマ。とっておきの文庫オリジナル。

「怪笑小説」 (集英社文庫)
「毒笑小説」 (集英社文庫)
「黒笑小説」 (集英社文庫)
に続く、シリーズ第4巻にして、シリーズ最終巻です。
連続して登場し、レギュラー化する人物も出てきて、文壇の裏話的興味も満載です。

中で強烈なのは、小説雑誌の編集部に中学生が職場見学に訪れる「小説誌」でしょうか。
それだけ小説誌を取り巻く環境が厳しいということなのかもしれません。
この作品に出てくる中学生に限らず、自分は安全圏にいて、まわりに文句ばかり言う人って、厭な奴ですねぇ。

この本は、巻末に既刊案内のページが作ってあって、作中に出てくる作家や作品が、灸英社文庫の既刊として紹介されています。遊び心満載ですね。
あまりにとんでもない内容だと思われるので、実際に出版されたとしても読む気にはならないでしょうが、なんだか気になりますね。「撃鉄のポエム」とか「虚無僧探偵ゾフィー」とか、ひょっとして面白いのでしょうか?

売れっ子作家だからこそ書ける作品、という気もどこかしますが、珍しい作風のシリーズだったので、終わってしまうのがちょっと残念です。
タグ:東野圭吾
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流星の絆 [日本の作家 東野圭吾]


流星の絆 (講談社文庫)

流星の絆 (講談社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/04/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
何者かに両親を惨殺された三兄妹は、流れ星に仇討ちを誓う。14年後、互いのことだけを信じ、世間を敵視しながら生きる彼らの前に、犯人を突き止める最初で最後の機会が訪れる。三人で完璧に仕掛けはずの復讐計画。その最大の誤算は、妹の恋心だった。涙があふれる衝撃の真相。著者会心の新たな代表作。

最近の東野圭吾といえば、日本を代表するベストセラー作家ですが、文庫本の帯の裏表紙側に、
「東野作品史上、売り上げNo.1」
とあります。
そんなに売れたんですね、この「流星の絆」 。嵐の二宮くん主演でドラマ化された効果もあったのでしょう。

子どもの頃に両親を殺された洋食屋「アリアケ」の三兄妹(功一、泰輔、静奈)が、犯人を捜して、復讐しようとする、というストーリーです。
この主人公格である三兄妹の生業が、詐欺師、というのが、こちら(読者)をなんとも不安にさせてくれます。
最後の詐欺の相手と狙い定めた男・戸神行成の父親政行が、どうやら両親を殺した犯人らしい、となったときに、静奈が行成に惚れてしまったらしい。本人は認めたがらないが、傍から見ている兄ふたりには明らかなこと...
作り過ぎ、という批判を浴びそうな設定ではありますが、いやいや、これくらいの困難がなければ、サスペンスは、いや恋愛小説も、面白くないでしょう。
このことに限らず、ミステリとしての仕掛けも含めて、非常によく考えられた、作り込まれたストーリーになっています。さすがは東野圭吾。
東野圭吾の作品を読んでいて、いつも感心するのは、非常によく考えて作品が作られている、設計図がきちんとしている、ということなのですが、なにより登場人物たちもきちんと考えて行動しているという点がすごいと思います。非常に理知的な印象、あえて言えば冷たい印象を抱く読者もいることでしょう。
この印象を払拭するには、理知的であることを吹き飛ばすくらいの感情の爆発を用意するか(「容疑者Xの献身」 (文春文庫)がその例です)、そもそも理知的であることを要請されるようなストーリー展開にするか(昔ながらの本格ミステリがこのパターンです)、しないといけないのかもしれません。
みんな理知的、抑制的にふるまうのに、普通のサスペンス(変な表現ですが、うまい言い方が見つかりません)が成立しているところは、やはり大きな長所なのではないでしょうか?
この作品に対しても、真犯人追求の展開が不自然だとか、ラストがちょっとムリヤリっぽいとか、批判は想定されなくもないですが、ラストにしても、理知的に振る舞う人物であるからこその選択となっていて、違和感ないと思います。
東野圭吾らしい、充実した読書の時間を過ごせました。

<蛇足>
ああ、でも「アリアケ」のハヤシライスって、どんなハヤシライスだったんだろう。
食べてみたい!
タグ:東野圭吾
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あの頃の誰か [日本の作家 東野圭吾]


あの頃の誰か (光文社文庫 ひ 6-12)

あの頃の誰か (光文社文庫 ひ 6-12)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2011/01/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
メッシー、アッシー、ミツグ君、長方形の箱のような携帯電話、クリスマスイブのホテル争奪戦。  あの頃、誰もが騒がしくも華やかな好景気に躍っていました。時が経ち、歳を取った今こそ振り返ってみませんか-。  東野圭吾が多彩な技巧を駆使して描く、あなただったかもしれれない誰かの物語。名作『秘密』の原型(プロトタイプ)となった「さよなら『お父さん』」ほか全8篇収録。

文庫オリジナルの短編集で、発表されながらどの短編集にも収録されてこなかった、作者の言う「わけあり物件」を集めたもの。
こういう短編集が出版されるのも、ひとえに、東野圭吾がとびっきりの売れっ子作家だから、ですね。素晴らしい。
内容のほうも、傑作、とはいえませんが、十分楽しめましたよ。さすがは東野圭吾、というところでしょうか。いわば二軍落ちの作品でもOKです。
もっとも、東野圭吾の作品の中では、当然ながらレベルが落ちるので、東野圭吾の作品をはじめて読むという人向けではなく、ある程度東野圭吾ファンとなってから読むのが吉、だと思います。

タグ:東野圭吾
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白銀ジャック [日本の作家 東野圭吾]


白銀ジャック (実業之日本社文庫)

白銀ジャック (実業之日本社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2010/10/05
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
「我々は、いつ、どこからでも爆破できる」。年の瀬のスキー場に脅迫状が届いた。警察に通報できない状況を嘲笑うかのように繰り返される、山中でのトリッキーな身代金奪取。雪上を乗っ取った犯人の動機は金目当てか、それとも復讐か。すべての鍵は、一年前に血に染まった禁断のゲレンデにあり。今、犯人との命を賭けたレースが始まる。圧倒的な疾走感で読者を翻弄する、痛快サスペンス!

当代一流の人気作家東野圭吾の作品です。
2010年に実業之日本社文庫が創刊されたときの、創刊ラインナップの1冊で、文庫オリジナルで刊行されました。いわば目玉商品ですね。
その後、単行本版があとから出版されました。うーん、すごい。
読み終わって振り返ると、さまざまなパーツを組み合わせて、とても入り組んだプロットを作ってあることがわかります。スピード感もあり、読んでいて楽しかったですね。

ただ、この作品が、東野圭吾の中で上位に来るかというと、決してそうではないと思います。
ただただ思わせぶりなだけの登場人物がいたりするのは、作者のちょっとした手抜き? 
また、それぞれの人物が、どうも安っぽい感じを受けてしまいました。
特に最後に明かされる趣向(?)は、チープすぎて、たちの悪い冗談のようです。
これだけ複雑なプロットだと、もっと枚数を使って、それぞれの人物を膨らませて書き込まないといけないのかもしれませんね。
凝ったプロットを支える個々のアイデアがとても素晴らしいと思えるだけに、ちょっともったいなかったかな。

東野圭吾のウィンター・スポーツ物だと、「鳥人計画」 (角川文庫)が好きです。
タグ:東野圭吾
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ガリレオの苦悩 [日本の作家 東野圭吾]

ガリレオの苦悩 (文春文庫)

ガリレオの苦悩 (文春文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/10/07
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
悪魔の手”と名のる人物から、警視庁に送りつけられた怪文書。そこには、連続殺人の犯行予告と、帝都大学准教授・湯川学を名指して挑発する文面が記されていた。湯川を標的とする犯人の狙いは何か? 常識を超えた恐るべき殺人方法とは? 邪悪な犯罪者と天才物理学者の対決を圧倒的スケールで描く、大人気シリーズ第四弾。

「探偵ガリレオ」 (文春文庫)
「予知夢」 (文春文庫)
「容疑者Xの献身」 (文春文庫)
と続いているガリレオ・シリーズの第4弾。
福山雅治と柴崎コウによるドラマと映画のおかげで、ミステリ・ファン以外にも広く親しまれているシリーズだと思います。
この作品の後も、
「聖女の救済」 (文春文庫)
「真夏の方程式」(文藝春秋)
と快調に書き進められています。
このシリーズ、長編だった「容疑者Xの献身」 は別にして、「探偵ガリレオ」「予知夢」 については、東野圭吾の作品ですからつまならいということはないものの、どことなくピンとこないというか、すっきりしないものを感じていました。
科学トリックを扱っていて、一見不可能とか無理な事態を引き起こしてくれるわけですが、そうだったのか! と膝を打つなんてことはなく、あーそーですか、とか、ふーんそんなこともできるんですねー、とかちょっぴり冷めた感想になってしまいがちでした。一般的でない知識に重きを置いたトリックやミステリは、それだけでは(目新しい知識を披露するだけでは)共感を得るのが難しい。その意味では、福山雅治という非常に女性に人気のタレントが演じたドラマでは、視覚的にトリックが理解しやすかったことに加え、「さすが福山さん、こんなことも知ってるんだ! ステキ」という方向からの理解が得やすかったので、むしろ映像化に向いているのかもしれません。
と、そんなもやもやを抱えながら読んでいたシリーズなのですが、この「ガリレオの苦悩」はちょっと様子が変わっています。
タイトル通り、ガリレオが苦悩し、人間らしくなった(前作の長編「容疑者Xの献身」 でもその傾向はでていましたが)、ということもありますが、科学トリックの扱い方が変わってきてるように思います。科学で不思議な現象を実現するという演出で中心が科学トリック、すなわち科学トリックを見せることが目的だったのが、この作品では科学トリックが捨て石だったり、見せ球だったりと、科学トリックを出発点にし、その奥へ進む作品が出てきています。第一章「落下る(おちる)」や第二章「操縦る(あやつる)」に特に顕著です(どうでもいいことですがこのシリーズでは、短編集でも、第一話、第二話ではなく、第一章、第二章になっています)。
こうなってくると、今までのような感想ではなく、素直に面白かったなぁ、と思えます。今後のシリーズを読むのがとても楽しみになりました。
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