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彼女は一人で歩くのか? [日本の作家 森博嗣]


彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone? (講談社タイガ)

彼女は一人で歩くのか? Does She Walk Alone? (講談社タイガ)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/10/20
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ウォーカロン(walk-alone)。「単独歩行者」と呼ばれる人工細胞で作られた生命体。人間との差はほとんどなく、容易に違いは識別できない。
研究者のハギリは、何者かに命を狙われた。心当たりはなかった。彼を保護しに来たウグイによると、ウォーカロンと人間を識別するためのハギリの研究成果が襲撃理由ではないかとのことだが。
人間性とは命とは何か問いかける、知性が予見する未来の物語。


森博嗣の新シリーズ、Wシリーズの第1作です。
新シリーズとはいっても、本書が刊行されたのは2015年10月で、既に
「魔法の色を知っているか? What Color is the Magic?」 (講談社タイガ)
「風は青海を渡るのか? The Wind Across Qinghai Lake?」 (講談社タイガ)
「デボラ、眠っているのか? Deborah, Are You Sleeping?」 (講談社タイガ)
「私たちは生きているのか? Are We Under the Biofeedback?」 (講談社タイガ)
とシリーズ第5作まで出ています。
感想もかけずに溜まっているなぁ。

未来が舞台ですが、つらつらと設定が説明されないところがよいですね。
次第、次第に、どういう世界かが明らかになってくる。
研究者であるハギリの一人称で語られますが、未来で暮らすハギリが、現在の私たちに向って背景を説明するのは不自然で興ざめです。
67ページからざっと説明されるところはあるのですが、ハギリが人類の歴史を振り返るちゃんとした理由付けがなされています。さすが。こういうところ、結構重要ですよね。

人工細胞の発達で、肉体を機械ではなく、生きた細胞、生きた機関で補うことが可能となり、人間の寿命が半永久的に長くなった。
一方、自律型のウォーカロンと呼ばれたロボット(機械)が、その人工細胞のおかげで人間に近づいた。
ところが同時に、人口減少に見舞われた。子供が生まれなくなったからだ。人口が四分の一以下になった。寿命はどんどん延びているのに。代わりに(?) ウォーカロンは増えている。
このウォーカロンは「完全に生きている。有機質の細胞を持ち、人間と同じ肉体を持っている。どこにも違いがない。意識もあり、学習もするし、癖もあり、失敗もし、感情も持っている。ただ、その生い立ちが違うだけだ。」(71ページ)

こういう世界でハギリが研究しているのは、自然に考えているか、考えていないかが、測定できる手法(35ページ)。
これで、ウォーカロンなのか、人間なのかが判定できる、と。
で、こういう背景のもとにハギリが狙われて...というストーリーなんですね。

面白いのは、そういう研究をしていても、ハギリが決して、人間とウォーカロンは見分けがつかないといけないと考えているわけでも、人間至上主義でもない、というところでしょう。
「もう完全に区別がつかないことになっても、大した問題はない。」「おそらく宗教上の問題しかない。」(94ページ)
「自分は、両者を見分ける方法を研究しているが、こんな研究をしなければならないことが、両者の差がいかに微々たるものかを証明しているのだ」(170ページ)

折々事件を挟みながら、思索を重ねていくハギリを読者は追いかけることになるわけですが、このWシリーズでも森博嗣独特のレトリックとか、話の流れが楽しめて、ああ、新シリーズ開始よかったなぁ、と感じました。


<2017.05追記>
①英語タイトルを書いておきます。
Does She Walk ALone?

②今後のシリーズ展開で重要と思ったところ-人類が生まれにくくなった理由-を自分のメモとして写しておきます。
ある種ネタバレかもしれないと思うところは、色を変えておきます。
「パラサイドが犯人だと覆いこんでいるから見つからない。そうではない。いかなるパラサイトも加害者ではない。一つあるいは複数のパラサイトが、加害者ではなく、被害者なんだ」(アリチ博士のせりふ 56ページ)
「同じ人格がこんなに長い時間存在することは、過去に例がない。多くの哲学者がその点について考えているはずだ。精神科の医者も、また心理学者、社会学者も議論を重ねている。答えは見出せないけれど、なにか宗教的な拠り所が必要になるのではないか、という予測はかなり多くに支持されているところだ。それは、おそらく『神』のようなものだろう。ただし、この『神』は、ただの概念ではなく、実在のテクノロジィが実現する装置になるだろう、と観測される」(ハギリの考察 170ページ)
「機構については、アリチ博士が迫っていました。発想は正しい。何故なら、ほかの理由は悉く消去されたからです。ただ、発想を確かめる実験的な再現には、まだ時間がかかるでしょう。しかし、いずれは発見されます。問題は、そこがスタート地点だということ。おそらくは、微小なパラサイトでしょう。それが見つかったとしても、どうやって元に戻せば良いのか。ここが難しい。なにしろ、もう人間の細胞は昔とは違います。パラサイトが生きられる環境に戻すことが、人工的に可能かどうか。複雑な環境の再現です。短時間では無理。そこで、もし人口環境を用いるとすれば、それはもう、ウォーカロンを培養することと変わりありません。それを人間が許容するでしょうか? 理屈を捏ねることはできても、両者の差は、科学的に同じものになります」(ミチルの保護者と名乗る女性のセリフ 178ページ)


<2017.05追記その2>
章題も記録しておきます。
第1章 絶望の機関 Hopeless engine
第2章 希望の機関 Wishful engine
第3章 願望の機関 Desirable engine
第4章 展望の機関 Obsevational engine

<2018.10追記>
このシリーズでは、全体と各章の冒頭に引用が置かれています。
この第1巻で引用されているのは、フィリップ・K・ディック「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」 (ハヤカワ文庫 SF (229))です。


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