SSブログ

人間のように泣いたのか? [日本の作家 森博嗣]

人間のように泣いたのか? Did She Cry Humanly? (講談社タイガ)

人間のように泣いたのか? Did She Cry Humanly? (講談社タイガ)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/10/24
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
生殖に関する新しい医療技術。キョートで行われる国際会議の席上、ウォーカロン・メーカの連合組織WHITEは、人口増加に資する研究成果を発表しようとしていた。実用化されれば、多くの利権がWHITEにもたらされる。実行委員であるハギリは、発表を阻止するために武力介入が行われるという情報を得るのだが。すべての生命への慈愛に満ちた予言。知性が導く受容の物語。


Wシリーズの第10作で、最終作です。
今回の舞台は京都です(キョートと書かれています)。
国際会議をめぐって事件が起こりますが、いままでで一番派手な戦闘がありますし、いままでで一番ハギリが危険な目に遭います。

「これまでの僕は、もっと静かな世界で生きてきた。情報局に所属し、デボラやアミラがいろいろと教えてくれるようになったから、初めて関わるようになったこと、といえるだろう。かつて僕の研究室で爆弾騒ぎがあったり、武力集団に襲われたり、理由のわからないことが勃発したのだ。」(91ページ)
ハギリ博士の回顧ですが、まったくその通りですね。ハギリ博士もこのシリーズで大変な目に遭ってきています。

離れたはずのウグイが、ハギリ博士と共に行動するところがポイントでしょうか(笑)。
今回のエピローグなんて、そのためだけにあるようなもんですよね(笑)。
長い長い、ボーイ・ミーツ・ガール物語だった、ということでしょうか、このシリーズは。
ただ、このタイトル「人間のように泣いたのか? Did She Cry Humanly?」というのは、英語タイトルからしても、ウグイのことを指すんだろうな、と思えるのですが、それだとちょっとウグイに失礼ですよねぇ。
ウグイって、人間ですよね? 
人間のウグイに「人間のように」というのは少々可哀そうです。
このシリーズ、ならびにハギリはウグイにキツいことが多かったですけど、最後もそうなんですか!?
人間とウォーカロンを分けているこういう考え方自体が時代遅れかも!?
シリーズ注目の、というより森ミステリでは注目のマガタ博士についても、ハギリが考察を進めています。
「マガタ博士はきっと、ずっと遊んでいるだけなんだよ。もう、若いときに仕事はやり尽くしてしまったから。ただ、周囲はそうは見ない。マガタ博士が遊んでいても、きっとあれはなにか意図があるはずだ、博士は次は何をするつもりだろう、と憶測しようとする。これまでの博士を見てきたから、そう考えてしまう。でも、そこが天才ではない凡人の思考というものだ。もともと天才は、遊び半分で、偉業を成し遂げるものだ。本人には、偉大な仕事をしようなんて気は最初からない。遊んでいるにすぎない。子供のときからの延長で、ただ興味の向くまま、好きなことをしているだけなんだ。」(158ページ)
遊んでてあれかよ、という気もしますが、それこそが天才の所以なのでしょうねぇ。

そのマガタ博士に対して、ハギリが最後に質問を投げます。(277ページ)
「あの、失礼を覚悟でおききしますが、博士は、人間でしょうか?」
それに対するマガタ博士の返事は伏字にして(色をかえて)おきます
それは、失礼な質問ではありません。誰にしても、また、自分に対しても、いつでもそれを問うことが、人間というもの
それ以外にも示唆的な会話になっています。いつも通り。
厨房から料理を出してしまった後、一流の料理人にできること、という問いもおもしろいですよね。
「ただ、ぼんやりと、月夜の空でも眺めましょうか」(276ページ)
これまた、天才ならではと言うか、なんと言うか......

シリーズは完結しましたが(森ミステリではいつものことながら、数多くの謎や余韻を残して)、新しいシリーズが立ち上がっています。題してWWシリーズ。
第一作は「それでもデミアンは一人なのか? Still Does Demian Have Only One Brain?」 (講談社タイガ)。楽しみです。

いつものように英語タイトルと章題も記録しておきます。
Did She Cry Humanly?
第1章 非人道的に Against humanity
第2章 彼らの人間性 The humanity of them
第3章 人類全体 All humanity
第4章 慈悲をもって With humanity
今回引用されているのは、アーシュラ・K・ル・グィンの「闇の左手」 (ハヤカワ文庫 SF)です。



<蛇足1>
「世の中というものは、ままならないものだ。誰もが恐れる方向へ、じわじわと近づくことだってある」(41ページ)
ポスト・インストール(一種のトラブル防止プログラム)しないウォーカロンを作るかどうか、という議論でヴォッシュ博士の言うセリフなのですが、怖いですね.....

<蛇足2>
「ロビィに、黒い板が並んでいて、そこに〈ハギリ様ご一行〉とあったので」(44ぺージ)
未来でも日本のホテルにはこういうのがあるんですね(笑)。
しかし、この作品のような状況でハギリ様ご一行って書きますかねぇ?? とは思いますが。

<蛇足3>
『こちらは、要約すると「よろしく」になる。だいたい、社会の会話の半分はこれだし、日本の書類の半分は、要約するとこれになる。」(45ページ)
ハギリが届いたメッセージへの返信について述べた文章ですが、なるほどと思いました。
「よろしく」
書類の半分がそうかはわかりませんが、かなりの割合を占めることは確かですね.....

<蛇足4>
第3章冒頭の「闇の左手」 からの引用ですが...
氷の像の一つが言った。「われは血を流す」もう一つの像が言った。「われは泣く」また三つ目の像が言った。「われは汗を流す」(155ページ)
この2番目、どうして「われは涙を流す」ではないのでしょうか?
~を流す、でそろえたほうがよいように思います。巻末によると小尾芙佐さんの訳のようですが。



nice!(21)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 21

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。