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君たちは絶滅危惧種なのか? [日本の作家 森博嗣]


君たちは絶滅危惧種なのか? Are You Endangered Species? (講談社タイガ)

君たちは絶滅危惧種なのか? Are You Endangered Species? (講談社タイガ)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/04/15
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
触れ合うことも、声を聞くことも、姿を見ることすら出来ない男女の亡霊。許されぬ恋を悲観して心中した二人は、今なお互いを求めて、小高い丘の上にある古い城跡を彷徨っているという。
城跡で言い伝えの幽霊を思わせる男女と遭遇したグアトとロジの許を、幽霊になった男性の弟だという老人が訪ねてきた。彼は、兄・ロベルトが、生存している可能性を探っているというのだが。


2023年1月に読んだ7冊目の本です。
森博嗣のWWシリーズの、
「それでもデミアンは一人なのか?」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら
「神はいつ問われるのか?」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら
「キャサリンはどのように子供を産んだのか?」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら
「幽霊を創出したのは誰か?」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら
に続く第5作です。

君たちはというのは人類を指すのでしょうから、絶滅危惧種と言われるとちょっとドキッとしますね。
前作では幽霊が出てきましたが、今回は恐竜などが登場します。
舞台はドイツの自然公園。なかには動物園も水族館もあります。

前作からさらに時代が進んでいるのか、
「しかし、今や肉体は再生できる。致命的な傷を負っても、さらに肉体が完全に消滅しても、もう一度、ボディを作り直すことができる。だからこそ、ヴァーチャルへ人格をシフトさせることが現実となり、今後の人類の大移動がじわじわと始まろうとしている。」(29ページ)
とさらっと書いてあります。

この点をめぐって思索が続くわけですが、
「現在の記憶と、頭脳の計算能力をデジタルで移植したとき、たしかに、そこに同等の機能が再現できる。生きている感覚もたしかに得られるだろう。人間の心、スピリッツは、ヴァーチャルでも遜色なく活動するし、むしろより活発に機能するだろう。
 しかし、本当にそれが生きていることになるのだろうか?
 この思考が行き着くところは、生きていることの価値は何か、である。」(200ページ)
というのは理解できますし、
「人は、死を想うものです」「死を想うからこそ、優しくなれる。正義の根源はそこにありました。死を想像できない者は、もはや人間ではないかもしれませんね」(207ページ)
というのはなるほどと思えなくもないのですが、
「我々は、かなり高い環境適用能力を持っています。理屈で考える思考能力を有しているからです。本能的なもの、感情的なものは、やがては消滅するか、少なくとも薄らいでいくのではないでしょうか」
「なるほど、人間の感情というものが、絶滅するということですね」
「既に、何世紀もまえに絶滅していた、ともいえます」(296ページ)
となってしまうと、ちょっと怖いな、という印象を持ってしまいます。
これはグアトとクーパ博士の会話で、
「宗教や神のために人が殺され、人種が違うというだけで暴動や戦争になった時代が過去にある。そういった野蛮な思想は、まちがいなく感情的な心理から発していたものだろう。たしかに、人類はそれを克服したかに見えるが、実は、感情そのものが生きる場を失い、人知れず衰退していったのかもしれない。もしそうなら、原因は科学だ。」(296ページ)
とグアトにより敷衍されていますが、どうなのでしょうか?
感情を失った人間(というよりは人類というべきかもですが)は、それはそれで恐怖の対象のように思えます。
まあ、もはや人間ではないとまで議論は進んでいるのですが。

最後に、今ではすっかりおなじみになったトランスファですが、さらっと定義(?) されていたので写しておきます。ついでにウォーカロンも。
「トランスファは、ネット環境に生息する分散型の人工知能の総称だが、その存在が初めて確認されたのが、当のデボラだった。」(27ページ)
「さて、では、ウォーカロンとは何なのか。
 簡単に言ってしまえば、人工的に生まれた人間である。肉体的には、人間とほとんど違いがないので、見分けはつきにくい」(28ページ)
  
いつものように英語タイトルと章題も記録しておきます。
Are You Endangered Species?
第1章 なにかが生きている Something is alive
第2章 死ぬまでは生きている Alive until death
第3章 長く死ぬものはない Nothing dies long
第4章 長く生きるものもない Nothing lives long
今回引用されているのは、コナン・ドイルの「失われた世界」(創元SF文庫)です。
同書は伏見威蕃の訳バージョンもあるんですね。
「失われた世界」 (光文社古典新訳文庫)
子ども時代に子ども向けで読んだだけだし、コナン・ドイルだし、読み返してみようかな?


<蛇足1>
「 セリンが、両手をテーブルの上に出し、ホログラムを投映させた。」(27ページ)
投映? 投影ではないの? と思いましたが、今では投映という表記もあるのですね。

<蛇足2>
「人間というのは、じわじわと同胞が死んでいっても、それは自然の摂理だと諦める図太さを持っているのだ。自分が死ななければ、それで良い、自分の家族さえ生きていればかまわない、と考える。数十年後にはこんな世界になる、と科学者が提示しても、そのときには、どうせ自分は生きていない、と受け合わない。」(146ページ)
知能を獲得したところで、そうでもなければ種として存続できないのかもしれませんね。

<蛇足3>
「キリンもいた。無駄に首が長いように思える。ゾウの鼻のようなものかもしれないが、ほかに類似の動物がいないことが、不思議である。やはり、デメリットが多く、自然界では失敗作だったのではないだろう、かと僕は考えた。」(225ページ)
失敗作ですか......キリンがかわいそう。
僕はゾウの鼻は失敗作と考えているのでしょうか? ゾウも類似の動物がいないように思います。

<蛇足4>
「『たまには、これくらいの刺激がないと、躰が鈍りますよね』
では、あのシャチとか恐竜とかミサイルとか黒ヒョウとかは、たいした刺激ではなかったということだろうか。」(276ページ)
相変わらずグアトのユーモアの回りくどさには笑ってしまいますが、あれ? ひょっとしてここは真面目なのでしょうか?

<蛇足5>
「地元の警官が来ていて、日本からの要人が来る、と聞いている、と話した。その要人が僕だと勘違いしたようだが、そのまま正さなかった。僕だけが男性で若くなかったからだろう。」(277ページ)
この物語の背景となる年代でも、ある意味男性優位な部分が残っているということですね。



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