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折れた竜骨 [日本の作家 や行]


折れた竜骨 上 (創元推理文庫)折れた竜骨 下 (創元推理文庫)

折れた竜骨 上 (創元推理文庫)
折れた竜骨 下 (創元推理文庫)

  • 作者: 米澤 穂信
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/07/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ロンドンから出帆し、北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナは、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。いま最も注目を集める俊英が渾身の力で放ち絶賛を浴びた、魔術と剣と謎解きの巨編!<上巻>
自然の要塞であったはずの島で、偉大なるソロンの領主は暗殺騎士の魔術に斃れた。〈走狗〉候補の八人の容疑者、沈められた封印の鐘、塔上の牢から忽然と消えた不死の青年──そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ? 魔術や呪いが跋扈する世界の中で、推理の力は果たして真相に辿り着くことができるのか? 第64回日本推理作家協会賞を受賞した、瞠目の本格推理巨編。<下巻>

2023年1月に読んだ8作目の本です。
日本推理作家協会賞受賞作。
「このミステリーがすごい! 2012年版」第2位
「本格ミステリ・ベスト10〈2012〉」第1位
2011年週刊文春ミステリーベスト10 第2位

「剣と魔法の世界を舞台とした特殊設定ミステリ」(巻末の単行本版あとがきより)です。背景は「十二世紀末の欧州」。
このあとがきの中に「ハイファンタジー」という語が出てきます。森谷明子による解説にも「ハイ・ファンタジー」(両者で表記が違うのがおもしろいですね)が出てきます。
ファンタジーはあまり読まないので調べたところ、異世界を舞台とするものがハイ・ファンタジーで、現実的な世界を舞台とするものがロー・ファンタジーということのようです。現実世界との飛翔度の高低によりハイ、ローと分けているようですね。
この「折れた竜骨」 (創元推理文庫)の作品世界は、十二世紀末の欧州とのことながら、魔法・魔術が存在し、眠ることも死ぬこともない呪われたデーン人がいる世界なので、ハイ・ファンタジーですね、きっと。

事件は領主が殺されるというもの。
暗殺騎士に魔術で操られた<走狗(ミニオン)>が実行犯で、<走狗>は「己の知識と力量を用い、当然のごとく標的を殺すのです。そしてそれを忘れてしまう」(上巻130ページ)とされている。
探偵役をつとめるのは、暗殺騎士を追ってやってきたトリポリの聖アンブロジウス病院兄弟団の騎士ファルクとその従士ニコラ。

デーン人が襲来するのに備えて傭兵を雇おうとしている状況下、ミステリとしては当然のことながら、特殊設定であるファンタジー世界のルールや魔法の様子はしっかり説明されます。
舞台となるソロン諸島の様子もとても趣深い。北海の厳しい自然環境にあるものの、位置を活かして活気のあるソロン諸島という設定がしっかり伝わってきます。

本格ミステリの尋問シーンというのは、とかく退屈なものになりやすいところなのですが、本書の場合は傭兵たちのキャラクターと異世界ものならではの異国情緒(と言うんでしょうか、こういう場合も)のおかげで、とても楽しく読めます。
そのなかに抜かりなく伏線が張り巡らされ、いよいよやって来たデーン人の襲来シーンのあとに(いうまでもないことですが、この戦闘シーンにも伏線が忍んでいます)、解決編が待っています。
この解決編がすばらしい。
聖アンブロジウス病院兄弟団の作法に則った儀式(セレモニー)として、名探偵が関係者を一堂に集めての犯人限定ロジックを駆使した謎解きシーンがあるのです。
このワクワク感、本格ミステリ好きの方ならわかっていただけるのではないかと。

突き止められる真犯人は、それほど意外なものではないのですが、ミステリの世界ではある定型を踏まえたものである点は注目だと思いますし、異世界設定そのものがこの犯人を成り立たせるために役立っている点が美点だと思います。

このあと異世界ものは書かれていないようですが、また書いてほしいです。


<蛇足1>
「ぼくはここから出たら、泳いででもデンマークに帰ろうとするでしょう。あの懐かしいフィヨルドに。」(上巻91ページ)
囚われの呪われたデーン人のセリフですが、デンマークにフィヨルド?と思ってしまいました。
ついフィヨルドというとノルウェーを想ってしまうからです。
われながら認識不足も甚だしいですね。デンマークにも有名なフィヨルドはあります。

<蛇足2>
「真実と偽りを見分けるのに、決闘という手段が選ばれることがある。」「口で偽りを並べ立てる卑劣な男は、武器を取っても卑劣な戦いしかできない。そして神は正しき者の味方をしてくださる。決闘は神聖な裁判で、勝者の言こそが真実なのだ。」(上巻262ページ)
いわゆる決闘裁判ですね。
「しかしだからといって、壮健な男と腰の曲がった老人が戦うことまでも公正だとは言えない。決闘ではしばしば、訴人の親族が代わりに戦う。
 さらに、ときには血の繋がりのない人間を雇って戦わせることさえあるという。この、金を受け取って決闘を行う戦士が、決闘士と呼ばれる。」
と続くのですが、こちらは知りませんでした。すごいシステムですね。



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