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紙一重 陸の孤島の司法書士事件簿 [日本の作家 ま行]


陸の孤島の司法書士事件簿 紙一重 (双葉文庫)

陸の孤島の司法書士事件簿 紙一重 (双葉文庫)

  • 作者: 深山 亮
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2018/02/14
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
日本一の過疎の村へ訳あって落ちてきた司法書士の久我原。村唯一の法律家となった彼のもとを、遺産相続や家庭問題を抱えた依頼人が訪れる。ところが田舎ならではの因習や濃密な人間関係に翻弄され―はたして人々の苦悩を解決できるのか!?人情味あふれる連作ミステリー。


同じ作者の「読めない遺言書」 (双葉文庫)が評判よさそうだったので読んでみようかな、と思ったら品切(絶版)。
代わりにこちらを。
(しかし、帯に好評既刊と「読めない遺言書」を紹介しておいて、絶版にするなんて! この「紙一重 陸の孤島の司法書士事件簿」が文庫化された2018年2月にはまだ残っていたのかもしれませんが、絶版にするようなら紹介しなけりゃいいのに)
作者の深山亮は、本書「紙一重 陸の孤島の司法書士事件簿」に収録されている「遠田の蛙」で第32回小説推理新人賞を受賞してデビューしています。本書の主人公同様、司法書士をされているようですね。
個人的な印象ですが、小説推理新人賞という賞は、”推理”の部分よりも”小説”の部分に重きをおいた作品が受賞してきているような感じがしています。
帯に「人情ミステリーの傑作」と書いてあるように、本書も、ミステリとしての切れ味で勝負するのではなく、”人情”に比重をおいて勝負する作品です。

第一章、第二章と章立てになっていますが、
「遠田の蛙」
「深淵」
「マドンナの後ろ髪」
「孤島の港」
「境界」
「紙一重」
の6編収録の短編集です。

単行本の時のタイトルは「ゼロワン 陸の孤島の司法書士事件簿」で、ゼロワンというタイトルの作品はありませんが、
「法律家が一人もいないか、いても一人だけの司法過疎地を『ゼロワン地域』と呼んだりする」(12ページ)
と書かれているところからきています。
「この場合の『法律家』に司法書士が含まれるかどうかは微妙なところだ」
と続けて書かれているあたりに、司法書士の置かれている状況がうかがわれます。

しかし、どういう事情があったのか詳しくはわかりませんが、要するに町の事務所で疲れてしまった、という感じで、司法書士はここまでの過疎地には来ないでしょうねぇ。収入が途絶えてしまいますから。
ましてや連作にするほどの事件が起こるとは...いくら因習の田舎といってもねぇ...(もっとも第一話を新人賞に応募した段階ではシリーズにしようとは思っていなかったでしょうけれど)
過疎地に司法書士ということなので、なにか事務所の義理があって、とか特段の事情があって主人公の久我原流されてきたのか、とあらすじを読んで思っていたのですが、そうではなく自分で選んでということだったので、読みだした段階で、あまりの非現実的な設定に正直ちょっと期待がしぼんでしまったんですよね。

小説推理新人賞受賞作である第一話「遠田の蛙」を読み終わっての感想は、ミステリとしては期待通りしょぼい(失礼)。一方、人情話としては、まずまずなのかな、と思いました。
ミステリ的にはあまりにも手垢のついた真相に嫌気がさしてもおかしくないところですが、一方で、こういう事件(?) はかなり決着をつけるのが難しい題材なのに、見事な着地といってもいいところにたどり着きます。
言ってみれば、今までのミステリが置き去りにしていたところに光をあてているとも言えますね。なかなか狙いはおもしろい。

第二話(目次に従えば第二章)「深淵」は、あまりにも世知辛くてどっきりしますが、よくある話といえばよくある話ですし、人情の裏には(横には?)こういう世界がある、ということですよね。

第三話「マドンナの後ろ髪」は、さすがに過疎地舞台を続けるのは無理があったのか、主人公が切り替わり、町の話となります。
この話がいちばんお気に入りですね、本書の中では。
群馬司法書士青年会に所属する女性司法書士の視点で、彼女自身の事件ともいえる題材です。

第四話「孤島の港」は、久我山に視点が戻って、過疎の村・南鹿村に道の港ができることになり、土地買収で久我山のところに仕事が。
陸の孤島である過疎の村に道の港ができるので「孤島の港」というタイトルなんですが、いや、それは「道の駅」でしょ。無理してつけたタイトルには感心できないなぁ...
久我山の幼少期の記憶を重ねて工夫はしてありますが、ううん、回想の殺人としてはやはり平凡と言わないといけないのでしょうねぇ。

第五話「境界」は文庫化にあたって新規収録されたようですが、視点がまた久我山を離れて、町の司法書士会の重鎮(元群馬司法書士会会長)の視点となります。息子の葬式で幕を開けます。
息子・賢二は15年かけても司法書士試験に合格できておらず、自殺で人生を閉じた。息子の机にあった、19723という数字。
司法書士ならではの事件の方は、まさに司法書士ならではの解決のきっかけを経て、面白く感じました。一方で、19723という数字がそれに絡むのはすごいなぁ、と思ったものの、あまりすっきりした感じはしませんでしたね...このようなケースで、19723と書きますかねぇ...書かないとは言い切れませんが。
ただ、これまた人情話としては難しそうなところを親子関係と夫婦関係を交差させ、うまく処理していて感心しました。

最後の「紙一重」では、久我山は法律相談のために町までやってきています!
なるほどなぁ、と感心できるトリックがつかわれていますが、地味なトリックなので小説にするのがすごく難しそうです。さすが司法書士、という仕上がりですね。
第三話「マドンナの後ろ髪」に出てきた印象的な司法書士さんが出てくるのも〇です。

全体として、やはり地味、ですねぇ。司法書士だから、というわけではないでしょうが...
だから「読めない遺言書」も絶版になっちゃったのでしょうか。
この作品自体ではミステリとして取り立てていうほどの部分はないように思われますが、それでもおやっと思えるところは何か所もあり、人情話に落とし込む手腕は優れていますので、ミステリの比重を大きくしてくれると、すごく楽しみな作家になるような気がするのですが...
でも、こういう作家は、さらっと時代小説とか、普通の小説に行ってしまったりするんですよね...



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