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大会を知らず [海外の作家 ジル・チャーチル]

大会を知らず (創元推理文庫)

大会を知らず (創元推理文庫)

  • 作者: ジル・チャーチル
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/09/20
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
自分たちの町で作家や出版関係者が集まるミステリ大会が開かれると知り、ジェーンは喜び勇んで親友のシェリイと参加することに。大会では憧れの作家に会え、自作の小説を持ち込む機会に恵まれた一方で、新人作家や名物編集者の振る舞いに眉をひそめることにもなる。そして、批評家の失踪を皮切りに事件が続発し……主婦探偵がイベントで起きた現実の事件に挑むシリーズ第14弾。


「キング&クイーン」 (講談社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)で一休みしましたが、
「新聞王がボストンにやってきた」 (創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら)、
「シナモンロールは追跡する」 (ヴィレッジブックス)(感想ページへのリンクはこちら
とコージー・ミステリを続けて読んだので、個人的なコージー・ミステリの元祖、ジル・チャーチルを読もうと思って手に取りました。

「眺めのいいヘマ」 (創元推理文庫)感想に書きましたが、もう一度。
コージー・ミステリを読むようになったのはこのシリーズがきっかけです。コージー・ミステリは謎の部分=ミステリの部分に手を抜いたもの、という勝手なイメージを当時持っていたのですが、「ゴミと罰」 はそのイメージを一掃してくれました。主婦探偵ならではの手がかりなどミステリ部分でも満足させてくれました。その後の作品でもミステリの要素がきちんと押さえられていて、安定したシリーズだと思います。今でもコージー・ミステリのなかで最高のシリーズだと考えています。
個人的には、意外な動機、に強いシリーズだと思っています。主婦が探偵をつとめるようなシチュエーションを考えてみると、誰が殺したのか?、ということはすなわち、なぜ殺したのか? を問うことにつながるケースが多いのではないかと思われ、その点でも手堅いシリーズです。

シリーズ第14弾の本書は、ミステリ大会が舞台です!
「新聞王がボストンにやってきた」の舞台が新聞協会の年次総会だったので、似通っていますね。原書の刊行年が、この「大会を知らず」が2003年、「新聞王がボストンにやってきた」が2004年なので、当時なにかそういう流行りでもあったのでしょうか?

ミステリ大会の中身も興味深く思えたのですが、そのうちの一つ、「雑学コンテスト」(135ページ~)っていうのがすごいですよ。
あるミステリ作品から短い文章を暗唱して、作者名と作品名、さらには出版年を当てる、というもの。
こんなのわかるんですか!?
超トリヴィアですね。

こういうミステリ大会の雰囲気がまず楽しい作品で、そこを楽しめばよいです。
事件の方は、殺人はなく、名物編集者を狙ったチョコレート異物混入事件?と評論家(批評家?)襲撃事件? です。
大会の喧騒や雰囲気を壊さない形の事件になっていて好感度大。

ただ、この作品にはとても大きな問題があって、ネタバレになってしまうんですが、編集者が新人の作品を読まない、なんてことがあるとは思えないんですよね。しかもかなりの前渡金を払うような作品だとしたら。(ネタバレにつき、文字の色を変えておきます)
言い訳は用意してあるのですが、これはさすがに無理があると思いました。

あと一つ。
ジェーンのミステリ観には異議を唱えておきたいです。
「優れた小説はみんなミステリだと思ってる。そういう小説には解き明かすべき謎の要素がなんらかの形で欠かせないから。たとえ犯罪がからむものではなくてもね。彼女はその男に、自ら態度を改める機会を与えるのかどうか、とか、裕福な祖父の遺言状に、彼の名前が載っている可能性はあるのか、とか。その子供ははたして意識を取り戻すのか、って具合に」(8ページ)
と説明されているのですが、後半の例に出されているものは、いくらなんでもミステリとは言い難いと思います。
ここまでミステリの枠を拡げることはちょっと考えられません。

シリーズ的には、メルの活躍が楽しかったです。
さておき、事件は無事解決し、ジェーンも作家デビューできそうだし(たぶん)、めでたし、めでたし、ですね!

今回の原題「Bell, Book, and Scandal」は、「Bell, Book, and Candle」のもじりのようです。
「Bell, Book, and Candle」は邦題「媚薬」という映画のようです(もとは戯曲とも)。ジェームズ・スチュワート、キム・ノヴァクが出ているのですね。知らない映画です。

このあと翻訳が途絶えています。
こちらのHPによると本国であと2冊出ているようなので、なんとか翻訳してください。できれば翻訳者を変更して。


<蛇足>
本書、ミステリ大会を舞台にしているだけあって、ミステリ作家の名前がいくつか出てきます。
「アガサ・クリスティ、マージェリー・アリンガム、ナイオ・マーシュ」(48ページ)
はさすがに知っていますが、
「エマ・レイサン、ドロシー・シンプソン、グウェンドリン・バトラー、それからルース・レンデル」(同)
ドロシー・シンプソン、グウェンドリン・バトラーの名前は128ページにも出てきます(128ページにはデボラ・クロンビーの名前も)。
でも、ドロシー・シンプソン、グウェンドリン・バトラーを知りません。
と思って調べてみると、グウェンドリン・バトラーの方は翻訳がないようですが、ドロシー・シンプソンは翻訳があります。「アリシア故郷に帰る」 (扶桑社ミステリー)
あれ? これ、読んでいるはずだ...



原題:Bell, Book, and Scandal
作者:Jill Churchill
刊行:2003年
翻訳:新谷寿美香


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