SSブログ

鐘楼の蝙蝠 [海外の作家 E・C・R・ロラック]

鐘楼の蝙蝠 (創元推理文庫)

鐘楼の蝙蝠 (創元推理文庫)

  • 作者: E・C・R・ロラック
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/03/22
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
作家ブルースは、ドブレットと名乗る謎の男に身辺に付きまとわれて神経をとがらせていた。彼を心配する友人の頼みを受けて、新聞記者グレンヴィルはドブレットの住みかを突き止めるが、件の人物は翌日行方をくらませ、空き家からはパリに出立したはずのブルースのスーツケースが発見される。そして部屋からは首と両手首のない遺体が……。謎に次ぐ謎、黄金期本格の妙味溢れる傑作。


「悪魔と警視庁」 (創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に続いて邦訳されたロラックの作品で、マクドナルド主席警部が探偵役をつとめますが、原書は「鐘楼の蝙蝠」の方が先なんですね。

最初の数十ページはちょっと読みづらかったですが、そのあとは快調。事件の様相が二転三転するところが大きな読みどころかな、と思いました。
また、あっさり扱われているのですが、首なし死体の使いかた(首の使いかた、というべきか?)が斬新で、ちょっと同じような例が思いつきません。これはおもしろいなぁ、と。
ミステリとしてとらえた場合、うまく(犯人を)隠したな、というよりはむしろ、ずるいな、騙しやがったな、という感想になってしまうところが残念ですが、非常にバランスの取れた、ウェルメイドなミステリになっていると思います。
短い中にも、それぞれの登場人物のキャラクターがしっかり際立っていることも、この時代のミステリからするととても立派なことだと感じます。


タイトルの「鐘楼の蝙蝠」というのは、正気を逸していることを意味する口語表現「鐘楼で蝙蝠を飼う」から来ているようです。(36ページ)
本作品の場合は、舞台となる隠れ家(?)であるアトリエ (死体安置所(モルグ)と名付けた人もいるくらいの奇妙な場所)には塔があり、蝙蝠もいるということですが。
(ところで、このアトリエ、作中でもアトリエとかモルグとか呼ばれているのですが、71ページになって突然マクドナルド警部が「ベルフリー・スタジオ」と呼びます。ベルフリーというのが鐘楼なので、鐘楼スタジオ、ということでしょうけれど、何の説明もないのでびっくりします。)

残る邦訳「曲がり角の死体」 (創元推理文庫)にも期待します。



<蛇足1>
かなり最初の方に、アトリエ探索に出かけたグレンヴィルがパブ〈テンプル騎士団員亭〉に行くシーンがあります。
「いったん店にはいると、グレンヴィルはすぐさま、ここはパブとしてはいい店だと結論を下した。そして、ダブルのウィスキーが腹に収まると~」(34ページ)
とあります。
パブというとどうしてもビールを連想してしまいがちですが、アルコールはいろいろと豊富に取り揃えてあるところが多いので、グレンヴィルのようにウィスキーを飲む人もいますね。

<蛇足2>
死体の発見されるアトリエのある場所は、ノッティング・ヒル駅の近くのようなんですが、
「ウェストエンドのネオンの明かりを受けて空は明るく、低く垂れこめる雲を背景に不気味な塔が浮かびあがっている」(37ページ)
というのです。ウェストエンドのネオンの明かりが届きますでしょうか? 距離的に厳しいのではないかと思うんですが。
また、
「もの思いにふけっているうちに、遠くで深夜零時の鐘が鳴った。ビッグベンかもしれないとフラーは思ったーー直線距離で五キロ近く離れているが、たぶん南風なのだろう」(120ページ)
というシーンもあります。
これも、聞こえませんよねぇ...きっと。もっと近くに教会があるんじゃないでしょうか...


<蛇足3>
アトルトンの足取りとして、まずヴィクトリア駅へタクシーで行って、そのあとさらに別のタクシーでチャリング・クロス(駅)かどこかへ向かった、とされているのですが(73ページ)、ちょっと理解できませんでした。駅から駅へタクシーを変えて向かうでしょうか? 一気にチャリング・クロスへ行けばいいのに...

<蛇足4>
「わたしも推理小説は好きです。笑わせてくれますから」(96ページ)
とマクドナルド警部が言うシーンがあります。
推理小説は、笑わせてくれるもの、なんですね。

<蛇足5>
「完璧に釣りあう椅子と書きもの机はシェラトン式の紫檀製で」(141ページ)
とありまして、シェラトン式?。知らなかったので調べました。
検索するとホテルのページばかりが出てきて閉口しましたが、
『「チッペンデール様式」「ヘップルホワイト様式」と並ぶ、18世紀イギリス家具の3大流行様式の1つをさします。18世紀後半から19世紀前半にかけて、イギリスの家具デザイナーであるトーマス・シェラトン(1751年~1806年)に代表される家具様式のことです。』と書いてあるページを見つけました。なるほどー。

<蛇足6>
前にも何かの作品で突っ込んだと思うんですが、この作品にも「法定紙幣」(166ページ)という訳がありました。時代背景的にはひょっとしてまだ兌換紙幣も流通していたのでしょうか? それでなければわざわざ「法定」とつけなくてもよいと思うのですが。

<蛇足7>
「彼は少しためらってからもう一度受話器を取りあげ、ロンドン市警察に電話した」(215ページ)
とマクドナルド警部がロンドン市警察に連絡するシーンに少しにやりとしました。
スコットランドヤード=ロンドン警視庁なので、ロンドン市警察って? と思われるかもしれませんが、いわゆる ”シティ” は自治が認められている独自の地域なのでロンドン市警察がスコットランドヤードとは別の組織として存在しただろうなぁ、と思えたからです。

<蛇足8>
「くびすを返して大急ぎで走り去った」(217ページ)
とあって、あれれと思ったんですが、きびす、とも、くびす、とも言うんですね。勉強になりました。







原題:Bats in the Belfry
作者:E.C.R. Lorac
刊行:1937年
翻訳:藤村裕美


nice!(24)  コメント(0) 
共通テーマ: