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片思いレシピ [日本の作家 樋口有介]

片思いレシピ (創元推理文庫)

片思いレシピ (創元推理文庫)

  • 作者: 樋口 有介
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/05/11
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
ママが取材旅行に行っている間に、親友の妻沼柚子ちゃんと通う学習塾の先生が殺されちゃった。人形のような柚子ちゃんを贔屓して、こっそりお菓子をあげていた先生。どういうわけか柚子ちゃんのご家族が事件の捜査にのり出しちゃって、って、パパ聞いてる!? あの柚木草平の愛娘・加奈子の、はじめての事件と淡い恋を瑞々しい筆致で描いた〈柚木草平シリーズ〉、待望の文庫化。


「捨て猫という名前の猫」 (創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら)に続く柚木草平ものの1冊、なんですが、これは番外編のような趣きです。
なんといっても、柚木草平の娘、加奈子が主人公で主たる語り手をつとめるのですから。

樋口有介の青春ミステリ、というか、青少年を主人公に据えた作品群は大好きですが、この「片思いレシピ」は少しテイストが違います。
主人公が女の子だからか、それとも柚木シリーズのスピンオフだからか...

創元推理文庫版あとがきで作者も
「女房も子供もいないから当然孫もおらず、甥や姪のたぐいも一切なし。友人がいないから『知人の子供』すら存在せず、そんな私が小学生を主人公に、それも男の子ではなく、女の子なんですよ。」
と書いている通り、正直、無理がある設定ですね。
読んでみると、小学生女子が書いたとは思えないところがあちらこちらに(笑)。やっぱり、ちょっと無理がある設定でしたか。
でも、樋口有介ファンの贔屓の引き倒しなのでしょうが、これがまた悪くない。むしろイケるんですね。楽しかったですよ。
少々爺くさい小学生女子、いいではないですか(笑)。
まあ、爺くさい、というのは言い過ぎですが、
「わたしもそうだけど、女性っていうのは妙なところに勘が働くから」(143ページ)
なんてさらりと言ってのけるのは楽しいです。

塾の先生が殺される、という大事件なわけですが、先生といってもアルバイト。
話を転がすのが難しそうな設定だなぁ、と思いましたが、そこは樋口有介のこと、しっかり転がっていきます。
塾講師陣の人間関係、塾の拡張、ビルのテナント・商店街との関係。素人探偵(加奈子たち)の性格に合わせて、地元密着型(?) のような事件になっているところがポイントでしょう。

タイトルの「片思いレシピ」というのは、
「男と女の問題にレシピはない。」(205ページ)
と柚木が加奈子に言うセリフあたりを念頭につけられたものだと思いますが、なにしろ片思い、ですから...あ~。
初恋レシピってタイトルにしておいたほうがいいような気もするけど、片思いの方がレシピは必要かもしれませんね。


<蛇足1>
「お夕飯を一人でいただくことも週の半分くらい。」(13ページ)
こういう文章を小学生が書くというのはどうかということはスルーするとして、こういうかたちに使われる「いただく」って嫌いなんですよね。
どうして「食べる」ではなく「いただく」なんでしょうか?
「お祖母さんの親戚が新潟で大きいお煎餅会社をやっているとかで、いついただいても香ばしくて、おいしいこと」(23ページ)
という文脈の「いただく」は、他人様からもらって食べるわけで「いただく」でよい、と思いますが、自分で作ったり買ったりしたものを「いただく」というのは過剰だと思います。
ネットやSNS上でレシピやレストラン体験などで「いただく」と書いてあると、「けっ」と思ってしまいます。丁寧にしておけばいい、というものではないし、敬意のない敬語はあまりにも空疎だと思うので。

<蛇足2>
「浅間山荘事件とか日航機ハイジャック事件とか、機動隊とデモ隊がどうとか、昔の大学生は元気がよかったね」
「お祖父さんもデモを?」
「うん、お祖父ちゃんは学生運動のリーダーで、お祖母ちゃんもそのときの同志なんだったさ」
「すごいね、SF映画みたいだね」(74ページ)
お祖父さん、お祖母さんが学生運動華やかなりし頃の学生だったという設定で、それを孫世代が振り返るシーンですが、最後のSF映画みたい、というのに、なるほどなぁ、と思いました。
確かに、今となってはSF映画あたりにある設定と言えますね...

<蛇足3>
「坂本龍馬なんぞというバカは、本来大罪人。あいつがあのとき余計な画策をしたばかりに今も日本が苦しんでいる」
「徳川幕政下の二百六十年、日本は対外戦争なんぞ、一度もしなかった。それが明治の薩長政府になってからは、たった百年のうちに四回もの戦争だよ。」(210ページ)
とお祖父さんが意見を述べるくだりがあって、おもしろいなと思いました。
お祖父さんのように、大罪人とまでは言いませんが、幕末から明治にかけての人物たちは持ち上げられすぎだとは思っているので。



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