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夜の床屋 [日本の作家 さ行]


夜の床屋 (創元推理文庫)

夜の床屋 (創元推理文庫)

  • 作者: 沢村 浩輔
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/06/28
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
慣れない山道に迷い、無人駅での一泊を余儀なくされた大学生の佐倉と高瀬。だが深夜、高瀬は駅前の理髪店に明かりがともっていることに気がつく。好奇心に駆られた高瀬が、佐倉の制止も聞かず店の扉を開けると…。第4回ミステリーズ!新人賞受賞作の「夜の床屋」をはじめ、奇妙な事件に予想外の結末が待ち受ける全7編を収録。新鋭による不可思議でチャーミングな連作短篇集。


裏表紙のあらすじに、チャーミングな連作短編集とありますが、目次を見てみると

夜の床屋
空飛ぶ絨毯
ドッペルゲンガーを捜しにいこう
葡萄荘のミラージュⅠ
葡萄荘のミラージュⅡ
『眠り姫』を売る男
 エピローグ

となっていまして、純粋な(単なる寄せ集めの)短編集ではないですね。
創元からデビューした新人の方々には多い作風ではありますが、この「夜の床屋」 (創元推理文庫)は、中でも異色の着地を見せる作品だと思いました。
解説で、千街晶之が
「本書『夜の床屋』(二〇一一年三月に東京創元社から刊行された『インディアン・サマー騒動記』を改題)は、単に多彩な小説を楽しめるというだけの短編集ではない。エピローグまで到達したとき、読者は『今、自分が読み終えた小説は一体何だったのか』と茫然とするに違いないのだ。こんな途轍もないことを思いついた発想力とと、それを成立させた構想力への感嘆とともに」
と書いていますが、まったくその通りで、へんなことを考える作家ですね。気に入りました!

「夜の床屋」「空飛ぶ絨毯」「ドッペルゲンガーを捜しにいこう」
この3編は、日常の謎、とは言い難いけれど、ふとしたきっかけから、予想外の犯罪や裏に秘められた謎が明らかになる、というかたちの、割と小味なミステリなんですね。
でも、小味とはいえ、それぞれ独特の味わいがあって楽しい。
「葡萄荘のミラージュⅠ」は、まだその範囲の続きという感じなのが、幕間的な「葡萄荘のミラージュⅡ」とそのあとの作中作「『眠り姫』を売る男」で大きく様相を変えていき、ラストのエピローグで主人公がたどり着く境地は、いやはや、すごくおもしろいです。
好みがわかれる着地かとも思いますが、支持します!


<蛇足1>
「背筋をきちんと伸ばし、落ち着いた所作でスプーンを口に運ぶクインを見ているうちに、ダンはアップタウンのレストランにいるような気がしてきた。」(237ページ)
とあります。
イギリスの監獄でのシーンなのですが、アップタウンという表現に違和感を覚えました。
アップタウン、ダウンタウンという表現は日本でもかなりおなじみになっていますが、基本的にアメリカの表現で、イギリスではあまり使わないような気がします。
また階級意識の強固だったイギリスで、監獄にいるような(ことをしでかす)ダンが高級レストランに行ったことがあるかな? こんな感想抱くかな? とも思いましたが、ダンは「ロンドンの大富豪の遺産を掠め取ろうとしてあっさり御用となり」(232ページ)ということなので、そういうことも可能な育ちだったのかもしれませんね。

<蛇足2>
「だとすれば、いったい女はどこに消えてしまったのか?
『彼女に足はあったのか?』
 それまで黙って聞いていたクインが奇妙な質問を投げかけた。
『おいおい。まさか幽霊が犯人だったなんて言い出すんじゃないだろうな』」(255ページ)
密室状況から消えた女についての会話で、おもしろい展開だとは思うのですが、幽霊に足がないのは日本だけのような気がします。イギリスの幽霊には足がついていると思うので、このような会話は成立しないはずです。
もっとも、この部分は、パーカー博士が持ってきた小説で、それを読んでいる人物(僕)が訳をつけていることになりますから、日本人にわかりやすいように意訳したと考えることはできますが...

<蛇足3>
それにしても、「インディアン・サマー騒動記」が改題されて『夜の床屋』になる、というのはかなりの落差ですね。
まったく受ける印象が違います。どちらかというと、個人的には「インディアン・サマー騒動記」の方が好みですが...

実は沢村浩輔、第2作である「北半球の南十字星」 (ミステリ・フロンティア)も文庫になる際に「海賊島の殺人」 (創元推理文庫)と全然違うタイトルに改題されているのですよね。
その点でもおもしろい作家ですね...

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