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少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語 [日本の作家 な行]

少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語 (角川文庫)

少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語 (角川文庫)

  • 作者: 一 肇
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
2浪の果てに中堅お坊ちゃん私大に入学した、十倉和成20歳。ある日、彼のボロ下宿の天袋からセーラー服姿の少女が這いおりてきた。少女・さちは5年前から天井裏を住処にしてきたという。九州男児的使命感に燃えた十倉はさちを庇護すべく動きだした。そしていつしか、自らの停滞の原因―高校時代の親友であり、映画に憑かれて死んだ男・才条の死の謎に迫っていく。映画と、少女と、青春と。熱狂と暴想が止まらない新ミステリー。


ずいぶん更新に間が空きました。なんか「ただいま」気分です。
何度もブログに感想を書いたタイ・ドラマ「2gether」が終わってしまた後(あ、そういえば、前回の投稿の段階ではまだでしたが、日本語の字幕がちゃんと最終エピソードEP13にも完成しています。ありがとうございます。)、あれこれタイ・ドラマに嵌りまして、本をちっとも読んでいませんでした。感想もかけていません。
タイ・ドラマ、ずいぶん観ましたよ。たぶん、ボーイズラブにもそれなりに適応してきていると思います。

今回感想を書く一肇の「少女キネマ 或は暴想王と屋根裏姫の物語」 (角川文庫)は、今更ながらという感じもしますが、4月に最後に読んだ本です。

作者の苗字、「一」と書いて、ニノマエ。なんかカッコいいですね。

プロローグはやや時代がかった女性の語り口ですが、その後主人公十倉和成が話者となります。
第一章の冒頭を読んでみていただくとわかるのですが、ここもちょっとクラシカルな語り口で、でもそれがすんなり入ってくる心地よいリズムがあります。
「人間すべからく単純に生きるべし」(9ページ)と、最近誤用されることの多い「すべからく」も正しく使われているようで、安心して読めます。

あらすじに「新ミステリー」とありますが、印象はミステリではないですね。
「映画に憑かれて死んだ男・才条の死の謎に迫っていく」ともあって、確かにその謎が扱われますが、ミステリ的に解かれるわけではない、ミステリの手法がかなり効果的に使われているにしても、着地はミステリが目指しているものとは違うように感じました。

ここに出てくる才条は、主人公十倉和成の友人で、才能あふれると同時に、非常に癖の強い人物であったことが語られていきます。

このためか、才能、天才という語が大事に使われているようです。
「彼は自分の技量がたいしたものではないと理解していて、それを褒めそやす人間の審美眼を軽蔑していたのだと思う。」(89ページ)
褒めても謙遜するのではなく、むしろ嫌がる人がいますが、その理由を端的に表しているな、と。才能ある人独特の見方なのかもしれませんが。
「天才などこの世にいない。己の理解出来ぬものを有象無象がそう呼ぶだけだ」(183ページ)
印象的なセリフですよね。
なんでも誉めておけばよい、といった感じの強い世の風潮に背を向ける、爽快なコメントです。
「天才は努力などしないと思いますが。天才にもの創りの苦しみがないと思うのですか」
「天才という言葉は、天才と呼ばれる人々に対する最大の侮辱なのです」(230ページ)
これまた印象的です。

物語は、男子寮(?) の天井裏に住む少女さちが主演として映画にかかわっていく物語と、才条の作りかけの映画に関する物語がキーとなって進みます。
上で述べた、才能・天才ということとも関連しますが、作る苦しみ、創造の深さがテーマ。
同時に、十倉和成とさちとのボーイ・ミーツ・ガールでもあります。
ボーイ・ミーツ・ガールという要素については、もう一つ織り込まれていますが、それはネタバレになるので書くのを控えておきます。

「乙一が感涙し、綾辻行人が嘆息した」と帯に書かれていますが、読めてよかったな、と心から思える作品でした。
副題に「暴想王」とありますが、主人公十倉の"暴想"と同時に、作者の"暴想"でもありまして、ぜひ同じ作者の別の作品を読んでみたいな、と思いました。


<蛇足1>
僕はもうすでにマフラーとハサミをひとつずつ無くしていた。(9ページ)
間違い、というわけではないと思いますが、「無くしていた」というのに違和感がありました。個人的に「失くしていた」という書き方を好みます。

<蛇足2>
「やらせて頂こうと思います」
「一生懸命、その本好きの女子高生を演じきりたいと思います」(67ページ)
やらせて頂く、一生懸命。続けて気になる表現が出てきて、おやっと思ってしまいました。
文章がしっかりしていると思っていただけに、余計。



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