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死のチェックメイト [海外の作家 E・C・R・ロラック]

死のチェックメイト (海外ミステリGem Collection)

死のチェックメイト (海外ミステリGem Collection)

  • 出版社/メーカー: 長崎出版
  • 発売日: 2007/01/11
  • メディア: 単行本

<帯あらすじ>
英国本格派ロラックが奏でる〈謎解き〉ミステリ
灯火管制が敷かれている大戦下のロンドン。守銭奴と噂される老人に死が訪れる。自殺か他殺か、怨恨か強奪か―マクドナルド警部たちの丹念な捜査に導かれる、真相とは。


単行本です。
この作品から9月に読んだ本の感想です。
「悪魔と警視庁」 (創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら
「鐘楼の蝙蝠」(創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら
「曲がり角の死体 」(創元推理文庫)(感想ページへのリンクはこちら
と読んできたE・C・R・ロラックの作品です。

実はこの作品、Amazon で検索するとき、間違えて日本の Amazon ではなく、イギリスの Amazon で検索してしまったんです。
検索ボタンを押してから気づきましたが、もう遅し。日本語で入力しましたし、出てこないだろうな。そう思っていたら、なんと出てきました。
日本の古書店さんが海外の Amazon にも出品されているのですね。
通常だと古本は買わないのですが、ちょっと興味深かったので購入してみました。
わざわざ日本から運ばれてきました! とてもきれいな本でしたね。

さておき、内容です。
戦時中の灯火管制下のロンドンで起こった殺人事件を扱っています。
画家のアトリエで、ポーズをとる役者、絵を描く画家。
アトリエの反対側では、二人の男がチェスで対決中。アトリエの隣の台所では画家の姉が料理を作っていた。
そこへ特別警察官が若い兵隊を、隣家で起きた殺人の犯人だとして逮捕したと連れてきた。応援を要請する間兵隊を閉じ込めておいてほしい、と。
(知らなかったのですが、非常時などに、任務につくボランティアの警察官、と特別警察官に説明が付されています。そういう制度があったんですね、イギリスには。)
マクドナルド警部の丁寧な捜査が描かれていきます。
これだけ、です。

地味といえば地味なのですが、退屈はまったくしませんでした。
それぞれの登場人物のキャラクターがしっかり際立っているからだと思います。

難点は、この犯行は無理じゃないかなぁ、と思える点。
そういうことが起こりえることは認めますし、実は似たような経験は何度もしています。みなさんも似た経験はあるのでは、と思います。
しかし、犯人の側に立ってみると、その可能性に賭けた犯行というのはちょっと立てづらいと思います。だって、ほんの一瞬でおじゃんになってしまうんですよ、犯行計画が。
もちろん、そのことは作者も十分承知の上。
「ああいう特殊な状況下では、十分可能だったということがこれでおわかりですね。」(252ページ)
とマクドナルド警部に言わせていますが、無理だなぁ、という印象はぬぐえませんでした。

とはいえ、ミステリとしてはこの程度の無理は十分許容範囲かと思われます。
本格ミステリとしてすっきりしたいい作品だと思いました。

E・C・R・ロラックの作品、また訳してもらいたいです!


<蛇足1>
「近ごろの腕時計がどんなものかご存知でしょう。買ってきて半年以内では修理に出せませんし、新しいのを買うわけにもいきません。」(79ページ)
意味がわかりませんでした。
買って半年以内だと修理に出せない? 当時イギリスにはそういう制限があったのでしょうか?

<蛇足2>
「リーヴズ警部補はフォリナー事件がらみで細々とした仕事をごっそり与えられ、彼を犯罪捜査部の貴重な一員たらしめている熱意をもってその任に当たった。」(110ページ)
なんとも言い難い表現で、思わず笑ってしまいました。
もうちょっとまともな日本語に訳せなかったものか??

<蛇足3>
「文学的スタイルを好むゆえにマイケル・イネスを読み、博学さを賞賛するがゆえにドロシー・セイヤーズを読むのかい?」(180ページ)
マイケル・イネスとドロシー・セイヤーズが当時本国イギリスでどう受け止められていたのか端的に示すセリフですね。

<蛇足4>
勘の良い方だとネタバレになってしまうので、以下は飛ばしてください。
「ぼくらがカモだったことは認めてるんですよ--ただのぼんくらのカモです。信用詐欺にしてやられたわけです。」(248ページ)
原語がどうなっているかわからないのでなんともいえませんが、この状況は「信用詐欺」ではないと思います。


原題:Checkmate to Murder
作者:E.C.R. Lorac
刊行:1944年
翻訳:中島あすか




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