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神々の座を越えて [日本の作家 た行]


神々の座を越えて〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)神々の座を越えて〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)神々の座を越えて〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)
  • 作者: 谷 甲州
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1999/10/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
スイスに滞在していた登山家の滝沢は、自らのミスで遭難事故を起こし、苦しい立場に立たされる。そんな折り、旧友でありかつてともにヒマラヤを駆けたチベット独立運動の闘士ニマの窮地を告げる手紙を受け取り、滝沢はヒマラヤへ向かう。手紙を出したのは、ニマが自分の父親ではないかと疑う日本人女性、摩耶。滝沢は彼女とともに政治の罠が待ち受ける苛酷な山々へ踏みこんでゆく。雄渾の筆致で描く迫力の山岳冒険小説。<上巻>
独立運動に揺れるチベットで、滝沢は摩耶に再会した。そして独立運動の指導者であるチュデン・リンポチェと行動をともにしていたニマとも再会する。しかし滝沢と接触したことが原因で、リンポチェたちは中国軍に逮捕されてしまう。彼らを救うため滝沢はチベット・ゲリラ「テムジン師団」に協力を仰ぎ、彼自身も、重要な工作に携わることになる。厳寒のヒマラヤに、政治の横暴とクライマーの誇りが、熱く激しく衝突する。<下巻>


2022年1月に読んだ8作目の本です。
谷甲州はSF作家で、日頃の守備範囲ではないのですが、山岳冒険小説、山岳ミステリーを書いておられまして、この「神々の座を越えて」〈上〉 〈下〉 (ハヤカワ文庫JA)の前編である
「遙かなり神々の座」 (ハヤカワ文庫JA)

「天を越える旅人」 (ハヤカワ文庫JA)
は読んでいます。

神々の座、ヒマラヤを舞台にしているはずが、上巻オープニングはアルプスで、あれれ? と思いました。
おそらくは前作とのつなぎに当たるのだと思うのですが、前作を覚えていないので......いつか読み返します。
ただ、このエピソード、あまり愉快なものではありません。
主人公が窮地に陥るのは、小説としては王道で、そのことでヒマラヤへ向かうことになるので必要なステップなのでしょうが、もっと早くヒマラヤに行ってほしいと思ってしまいました。
ヒマラヤに行ってから、アルプスでの出来事を振り返るシーンがありますので、不必要なシーンというわけではありません、念のため。それだけヒマラヤの緊迫シーンを待ち望んだということです。

待望のヒマラヤの赴くのはようやく上巻150ページを過ぎてからです。
なんですが、山というよりは高原地帯が舞台となります。

ヒマラヤに着くと、主人公滝沢を待ち受けているのはチベット独立運動。
チベットというとダライ・ラマのイメージしかありませんが、大丈夫です。しっかり作品中に説明されます。
「もちろん中国におけるチベット文化圏は、チベット自治区だけに限定されるわけではない。四川省の西半分と青海省のほぼ全域、それに周辺の省に存在するチベット族の自治県までがチベットに含まれるはずだ。」(上巻297ページ)
「それにおなじチベット文化圏といっても、他の省は昔から国会意識にとぼしい辺境だった。なかにはチベットが独立国家であった時代から、国民政府に支配されていた地域もある。もちろん住民はチベット中央政府への帰属意識にとぼしく、むしろ税負担の少ない国民政府の支配を歓迎していたともいう。だいたいチベット文化圏すべてを独立国の版図と考えるのなら、インドやネパール領内にまで国境外縁をひろげざるをえなくなる。」(上巻297ページ)
独立運動の指導者リンポチェが活仏(トウルク)とよばれているだけあってとても印象的です。

先ほど書いた通り、山というよりは高原の逃避行が話の中心になっていきまして、中国軍との駆け引きにドキドキ。
そしていよいよ待ってましたの山岳行。
ヒマラヤ、雪山を舞台にしているので、世界は白一色。その舞台を背景として、実にカラフルなストーリーが展開します。
雪山に登るなんて考えもしないくせに、山岳小説読むの、好きなんですよね。
雪山を踏破するだけでも大変なのに、中国軍との戦闘まで加わって、緊迫感のあるシーンの連続で、ハラハラし通しです。

永らくの積読が申し訳なくなるくらいおもしろかったです。


<蛇足1>
「だが家族の居場所は、なかなかわからなかった。それでようやく、日本はいま午後だという事実を思いだした。」(上巻97ページ)
ここの意味がピンと来ませんでした。
午後だと、居場所がわからないのでしょうか? 
今ほど携帯電話が普及していなかった頃の話ですので、居場所、行き先はわかっていても捕まらない、程度ではないかと思うのですが。

<蛇足2>
「――もしかするとイギリス人というのは、中国人と同程度に老獪なのかもしれない。」(184ページ)
イギリス人と接触した滝沢の感想なのですが、あまりのナイーブさに(日本語のナイーブではなく、英語もともととの意味合いのナイーブです)苦笑いします。




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