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遠海事件 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? [日本の作家 や行]


遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? (光文社文庫)

遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか? (光文社文庫)

  • 作者: 詠坂 雄二
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/02/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
佐藤誠。有能な書店員であったと共に、八十六件の殺人を自供した殺人鬼。その犯罪は、いつも完璧に計画的で、死体を含めた証拠隠滅も徹底していた。ただ一つの例外を除いては──。なぜ彼は遺体の首を切断するに至ったのか? 遠海市で起きた異常な事件の真相、そして伝説に彩られた佐藤誠の実像に緻密に迫る! 気鋭の著者が挑発的に放つ驚異の傑作!


2023年4月に読んだ9冊目の本です。
KAPPA-ONE 企画に応募した「リロ・グラ・シスタ: the little glass sister」 (光文社文庫)でデビューした詠坂雄二の第二作です。

「リロ・グラ・シスタ: the little glass sister」は、独特の作風でした。
非常に硬質なイメージの世界観を、硬質な筆致で描き出していました。
向き不向きでいうと、個人的には文章が肌に合わないというか、読みにくさを感じていました。
ということで、以降出版される作品はなかなか手に取らなかったのですが、ふと気になってこの「遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか?」 (光文社文庫)を読むことに。

副題に「佐藤誠はなぜ首を切断したのか?」と麗々しく掲げているからには、首切り死体を扱っており、その点がセールスポイントということになります。
なぜ首を切ったのか、はミステリでは定番のテーマです。
この作品で提示される理由そのものは先例もあり、それほど驚きませんでした。
しかし、この形、佐藤誠の造型に落とし込んだ威力はすごい、と感嘆。

佐藤誠って、変な人物なのですが(まあ、連続殺人鬼ですから)、その造型に妙な説得力があるのです。
「とにかく世界に用意されたルールなんて大したものではないというか、個人には護りきれないものだって思ったんだ。ルールは自分が持っているものと重なって初めて護れるようになる。 ー略ー 仕事は、好き嫌いじゃなく、憧れとかも忘れて、自分のルールと重なるところのあるものを選ぶべきだって考えたわけさ」(138ページ)
という考え方とか、含蓄深いではないですか?

そこに「首切り」をはめ込んだとき、立ち上がってくる事件の構図は迫力満点でした。

文章は変わらず馴染みにくかったのですが、このような独特の世界は魅力的だと感じました。
他の作品も読んでみたいと思います。


<蛇足1>
「……そんな趣味があるのか」
「みすてりまにあなんすよ俺」(80ページ)
ひらがな表記のミステリマニアには、傍点が振られています。
でも、こういう書き方をする理由がわかりませんでした。

<蛇足2>
「佐藤の言葉を聞きながら、新村は自分の気付きへと尋ねていた。俺はどうだろう。書店員は性に合っているのか。」(140ページ)
もともと最近氾濫するようになった「気付き」という単語自体が好きではないのですが、ここの「気付き」は通常の使われ方と違うようで興味深いです。

<蛇足3>
「俺は本格書きとしてデビューしたんです。ですけどね……今時は昔なじみの本格なんて流行んねえんですよ。つうか、デビューした時でもうギリギリだったんすけどね。定義がどうの、語義拡散がどうたら、頭のいい人たちは新しい言葉作って語っちゃいますが」(233ページ)
作中の詠坂雄二のセリフです。
作中のセリフですから架空の話ではありますが、作者ご自身の率直な感想なのでしょうか?

<蛇足4>
以下、佐藤誠の考えが書かれたところです。
直接的なネタバレではありませんが、勘のいい方だと手がかりにはなってしまうと思いますので、気になる方はとばしてください。
「人間でいたいなら、殺してはいけない。
 他人を殺すのも人間性のうちだという主張は、あくまで闘争に限った話だと佐藤は思っている。彼我が対等である必要はないが、最低限たがいに殺意があり、叶うなら同じ目的──金銭、名誉、生存、なんでもいいがそういったものがあり、さらに殺される可能性を同意し合ったうえでの戦闘と生死なら、それはそれで立派な人類文化だ。
 だが私利私欲が動機で、しかも不意打ちから始めるような殺人は、人間性を謳えるような殺しではない。昆虫の捕食活動と変わらない。」
 佐藤は自分の殺しがそういったものであることを自覚していた。
 だから殺した屍体を同じ人間と見なしたことはないし、その処理にためらったことはない。純粋な疲労から手間取ったりしたことはあったにせよ。それが、早くしないと傷み、処理が難しくなるだけではなしに、犯罪の発覚を招いてしまう厄介な生ゴミだという以上の想いを巡らせたことはなかった。」(235ページ)





タグ:詠坂雄二
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