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丑三つ時から夜明けまで [日本の作家 大倉崇裕]


丑三つ時から夜明けまで (光文社文庫)

丑三つ時から夜明けまで (光文社文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/11/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
犯行現場は完全なる密室、容疑者には完璧なアリバイ──こんな事件、犯人は幽霊以外ありえない! 霊能力者ばかりを集めた静岡県警捜査五課は、そんな不可能犯罪に出動する特殊部隊だ。捜査一課の刑事である私と上司の米田は、今日も難事件の現場で五課の七種(しちぐさ)課長と丁々発止の推理合戦を繰り広げるのだが……。驚愕の設定と二転三転する真相。異色ユーモアミステリー。


読了本落穂ひろいです。
2018年3月に読んでいます。
大倉崇裕「丑三つ時から夜明けまで」 (光文社文庫)

「丑三つ時から夜明けまで」
「復讐」
「闇夜」
「幻の夏山」
「最後の事件」
の5編収録の連作短編集です。
巻頭に掲げられている登場人物表をみるとびっくりします。
登場人物の名前が、七種(しちぐさ)、怒木(いするぎ)、車(のり)、私市(きさいち)、入戸野(にっとの)、神服(はっとり)、座主坊(ざしゅぼう)そして目(さっか)。
珍名奇名というのか、難読苗字というのか、その集まり。
そして話の内容が一種の特殊設定ミステリ、ですね。
肉体から離脱した精神エネルギー「幽霊」の存在し、その力で殺人まで成し遂げられてしまう世界。
幽霊を取り締まる専門部隊として結成されたのが静岡県警捜査第五課。
「捜査五課のメンバーは、すべて特殊技能採用され、通常の刑事たちと区別される。霊視から浄化まで、選りすぐりの霊能力者が集められ、チームを組んで行動する。」(26ページ)と説明されています。
まるで西澤保彦(笑)。

冒頭の「丑三つ時から夜明けまで」は導入ということだと思いますが、捜査五課と(通常の事件を捜査する)一課との対立までうまく物語の溶け込んでいます。
霊感の強い、捜査一課の私が視点人物であることが非常に効果的です。

「復讐」でもその点はしっかり受け継がれています。
犯人は人間なのか、幽霊なのか。
さまざまな可能性が考えられ、読者(ならびに登場人物)から見た事件の様相もそれに合わせて変化していく、というかたちになっています。
捜査一課だけれども、霊感が強く五課にも近しいように思われる私が謎解き役をつとめるという構図がうまく決まっていますね。

「闇夜」はカラスが効果的に使われています。
幽霊の能力(何ができて、何ができないか)が事前に明らかになっているわけではないので(その物語によって、能力の限界も変化するようです)、このあたりでこの作品集は特殊設定ミステリとは少々違うかな、という気がしてきます。
いや特殊設定ミステリではあるのでしょうが、謎解きを主眼とするものもあれば、その世界の広がりを楽しむものもあり、幽霊という特殊設定を持ち込むことで作者が楽しく遊んでいるような気配を感じます(これだけ読みやすい作品に仕立て上げるのには相当苦労されているのだとは思いますが)。

「幻の夏山」は、山が舞台で、死んでしまった凶悪犯による復讐の矛先が私の上司である米田に向けられる、という話で、今回幽霊が使う能力は憑依。
緊迫した話なのですが、ユーモラスな雰囲気がどことなく漂っているのがポイントですね。

「最後の事件」はタイトルが思わせぶりです。
連作で「最後の事件」ときたら、どうやって幕引きするのだろうという興味で読み進めるわけですが、一方でミステリ読者としてはある一つのパターンがどうしても念頭にちらついてしまう。
さてさて、首尾はどうだったか、それは実際に読んで確かめていただきたいところですが、この「最後の事件」、集中では2番目に発表されているものを加筆修正のうえ最後にもってきたということを廣澤吉泰の解説で知り、びっくりしました。

いったんシリーズはここで終わったわけですが、私視点の物語はまだ続けられそうな気もします。
続編、書いてもらえないでしょうか?




タグ:大倉崇裕
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