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145gの孤独 [日本の作家 あ行]


145gの孤独 (角川文庫)

145gの孤独 (角川文庫)

  • 作者: 伊岡 瞬
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2009/09/20
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
プロ野球選手として活躍していた倉沢修介は、試合中の死球事故が原因で現役を引退した。その後、便利屋を始めた彼は、「付き添い屋」の仕事を立ち上げる。最初の依頼は「息子のサッカー観戦に付き添ってほしい」という女性からのもの。しかし当の息子はサッカーに興味がないようだった。違和感と共に倉沢が任務を終えると、彼女からまたも付き添いの依頼が……。消せない罪を負う男と奇妙な依頼人たちのハードボイルドミステリ。


2023年8月に読んだ5冊目の本です。
「いつか、虹の向こうへ」 (角川文庫)で第25回横溝正史ミステリ大賞を受賞した伊岡瞬の受賞第1作、「145gの孤独」 (角川文庫)

「いつか、虹の向こうへ」は端正なハードボイルドという印象で、あらすじにもハードボイルドミステリと書いてあるので、この「145gの孤独」もそういう作品だと思って読み始めました。

主人公は、死球で友人西野を再起不能にしてしまい、その後自分もまったく振るわず引退した元プロ野球選手倉沢。
糊口をしのぐための今の仕事は便利屋。西野の妹の晴香が手伝ってくれている。
ハードボイルドのテンプレをなぞったかのような設定に苦笑するかたもいらっしゃるかもしれませんが、こちらはそういういかにもなハードボイルドも楽しいと思うので、歓迎。

ところが、事件らしい事件が起こらない。
少年の付添や老婦人の家の整理という便利屋の仕事も、事件らしくなるかと読み進んでも尻すぼみ。
あれ?
ハードボイルド調の日常の謎という感じとも違う。
倉沢を便利屋に引き込んだ(?) 戸部や晴香が組んで、何やら便利屋の仕事には裏の事情がありそう、という展開でちょっとおやっと思うものの、安易ですぐに見当がついてしまうなぁ、と思っていたら、西野をめぐるエピソードが、こちらの嫌いな内容。
そして戸部自身の事情で、戸部の娘との4人の東北行と変な風に話はねじれていく。

戸部の事情も含め、便利屋としてのそれぞれの仕事は緩やかながら関連付けられていましたが、読み終わった感想は、ミステリではない、というもの。
ミステリ的展開に持ち込めそうな要素はちりばめられているのに、いずれもそういう展開を回避してくる。

横溝正史の名を冠したミステリの賞を受賞した後の受賞第一作にこういう作品を持ってくるとは、大胆だな、と思いました。

「プロの選手は、シーズンオフ中は次の春を目標に走り込みや筋力トレーニングをこなす。投手にとって意外に困るのが指先だ。指先が軟な皮膚に戻ってしまえば、マメができる。春先にマメをつぶして投げられないようでは、一軍スタートの切符がもらえない。シーズンオフの間も指先を硬くしておくために、いつも利き腕の人差し指と中指を叩いたりこすりつけたりする癖がつく選手がいる。」(230ページ)
など、細かな部分でおっと思わせてくれ、話にはどんどん引き込まれ、面白く読みました。
でも、ミステリとは思えないという事実にとても戸惑っています。


<蛇足>
「その……、その何て言うか、ポークは本当に連れていくんですか?」(361ページ)
ペット(?) のハナという仔豚を指して言うところですが、ポークは食肉になった段階の呼び方ですね。
生きて動いている豚なら、pig でしょうね。
ただこのあと倉沢はハナのことを取り上げて「食う」というネタの寒いジョークを連発するので、あえてポークかもしれませんが(笑)。




タグ:伊岡瞬
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