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モーリスのいた夏 [日本の作家 ま行]


モーリスのいた夏 (PHP文芸文庫)

モーリスのいた夏 (PHP文芸文庫)

  • 作者: 松尾 由美
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2011/09/17
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
高校二年の夏休み、村尾信乃はアルバイトのため優雅な避暑地を訪れる。そこで美少女・芽理沙に引き合わせられたのは“人くい鬼”なる異様な生き物。生きている人に危害は与えず、大人には見えないというのだが…。そんな中、立て続けに起きる不可思議な事件。“人くい鬼”の仕業ではないと信じる二人は、真犯人を捜して調査を始めた。ひと夏の奇跡を描く、爽やかなミステリー。『人くい鬼モーリス』を改題。


2023年7月に読んだ本の感想が終わったので、読了本落穂ひろいを。
落穂ひろい。なのですが、「ロートケプシェン、こっちにおいで」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)同様手元の記録から漏れていまして、いつ読んだのかわかりません......
松尾由美の「モーリスのいた夏」 (PHP文芸文庫)
もともと理論社のミステリーYA! という叢書から「人くい鬼モーリス」というタイトルで出ていたもので、ジュブナイルということになると思われますが、解説で風間賢二が書いているように、「大人の読者でもじゅうぶん楽しめる作品」です。

はじめて松尾由美の感想を書いた「雨恋」(改題後のタイトル「雨の日のきみに恋をして」 (双葉文庫)。感想ページはこちら)のところで、
「松尾由美といえば、変な作品! (念のため、褒め言葉です)
ミステリでは、『バルーン・タウンの殺人』 (創元推理文庫)『安楽椅子探偵アーチー』(創元推理文庫)も変だったし、サスペンスでは『ブラック・エンジェル』 (創元推理文庫)も、『ピピネラ』 (講談社文庫)も相当変わっていました。」
と書きましたが、この「モーリスのいた夏」も相当変わっています。

主人公である女子高生信乃のところに持ち込まれる夏のバイト。別荘地で過ごす小学四年生の女の子芽理沙の家庭教師。気難しいといわれる芽理沙に気に入られて、別荘地で出会う不思議な事件。
というわりと典型的な話ですが、そこで芽理沙に紹介されるのが、モーリスと名づけられた人くい鬼(!)。
芽理沙の祖父が遺した手記にモーリスのことが記載されていて、恐る恐る、疑いを抱きつつも信乃は理解を深めていく。
モーリスは、自分の手で死体をつくりだすことは絶対にないが、死んでまもない人や動物の「残留思念」または「魂」をエネルギーとしてとりこみ、死体を消してしまう、というなんとも殺人犯にとって都合のいい生き物。

と思っていたら実際に殺人事件(らしきもの)が起きて、死体が消えてしまう。
死体がどうやって消えたのか、警察が捜査を進めていくのですが、モーリスのことを知っている信乃と芽理沙は、モーリスを守らなければと......

いわゆるひと夏の冒険として、タイトに仕上がっているところが最大の長所かと思います。
ひと夏の恋も、ちゃんと出てきます。
そしてこの種の物語の典型ではありますが、最後を手紙で締めくくるのも、美しいと思いました。

なにより
「信乃ちゃんの場合、することや言うことに独特の面白みがある。雰囲気をなごませるというか、素頓狂というか」(16ページ)
面と向かってこう評される信乃と、素直だったりわがままだったり、くるくると変わる芽理沙のコンビが楽しい。

人くい鬼は出てきますが、きちんとミステリとしての手順も踏まれており、カメラなどの小道具も要所を締めてくれていました。

松尾由美、癖はありますが、いいですよ!


<蛇足1>
「『人くい鬼』の『く』はひらがなだから気をつけてね。漢字の『人食い鬼』じゃなく。そのちがいは、生きている人間は絶対に食べないということ」(48ページ)
割と最初の方で芽理沙が信乃に説明するところです。
ひらがなと漢字の違いという説明をしていますが、「くう」と「食う」にはそういう含意はないと思われますので、この作品内での説明、ということかと思います。

<蛇足2>
「そのうちお招ばれする機会があると思うから、楽しみにしててね」(82ページ)
何の抵抗もなく、すっと「およばれ」と読みましたが、招という字を「よばれる」というように読むとは習わなかった気がします。意味からしてぴったりですけれども。





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