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貴族探偵対女探偵 [日本の作家 ま行]


貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)

貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)

  • 作者: 麻耶 雄嵩
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/09/16
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
新米探偵・愛香は、親友の別荘で発生した殺人事件の現場で「貴族探偵」と遭遇。地道に捜査をする愛香などどこ吹く風で、貴族探偵は執事やメイドら使用人たちに推理を披露させる。愛香は探偵としての誇りをかけて、全てにおいて型破りの貴族探偵に果敢に挑む! 事件を解決できるのは、果たしてどちらか。精緻なトリックとどんでん返しに満ちた5編を収録したディテクティブ・ミステリの傑作。


読了本落穂ひろいです。
2016年10月に読んだ麻耶雄嵩の「貴族探偵対女探偵」 (集英社文庫)
「貴族探偵」 (集英社文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2作で、「2014本格ミステリ・ベスト10」第一位。

大傑作「貴族探偵」 (集英社文庫)の続編ですから期待度大。
存分に楽しく読みました。

「白きを見れば」
「色に出でにけり」
「むべ山風を」
「幣もとりあへず」
「なほあまりある」
の5編収録です。

貴族探偵にライバル登場?ということでしょうか、女探偵高徳愛香が狂言回しを務めます。
推理合戦的な色彩を帯びてくるのは当然なのですが、さすが麻耶雄嵩というべきか、(高徳愛香にとって)無茶苦茶いじわるな設定になっています。
高徳愛香の設定は、名探偵と名高い師匠の死後孤軍奮闘している、というものなのですが......

第一話「白きを見れば」で高徳愛香が意気揚々と(?) 指摘する犯人は、なんと貴族探偵。
貴族探偵の執事の推理に(当たり前ながら)敗れ去ります。
続く第二話でも、勢い込んで推理を披露するのですが、そこでも指摘する犯人は、貴族探偵。
もちろん、貴族探偵の料理人の推理に否定されてしまいます。
というわけで、もう想像がつくと思いますが、第三話でも第四話でも、高徳愛香は貴族探偵を犯人として名指し続け、それぞれメイド、運転手に敗れ去るのです。
いや、お前、さすがに貴族探偵は犯人候補から外せよ。
まあ、みんなを容疑対象にするというのは正しい姿勢かとは思いますので、自分の推理が貴族探偵を指し示してしまうようなら、今一度じっくり考えなおすくらいのことはしたらどうでしょう。
この点でも名探偵には到底なれない人材なのではないかと思いますが......(笑)。

ところが最終話「なほあまりある」は少々様子が違います。
不明の依頼人から高額の依頼料でウミガメの産卵が見られる離島に派遣された高徳愛香。
その島には(お約束通りに)貴族探偵もいて。ただし、使用人はいない(!)。
第一話でもずっといなかった執事がヘリコプターで馳せ参じるので油断はできないものの、「親族の園遊会で不手際があって、知尻拭いに駆り出されている」(316ページ)ということであとからやってくる可能性は(物語上)排除されています。
では、誰が推理する???
なにしろ
「馬鹿馬鹿しい。私に推理しろと? 貴族に労働を強要するとは時代も傲慢になったものだ。何のために使用人がいると思っているんですか?」(58ページ)
と言ってのける貴族探偵ですからね。
一方の高徳愛香は、ミスするというのがフォーマットですし。
パット・マガーの「探偵を捜せ! 」(創元推理文庫)とは違う趣旨で読者は探偵が誰かを探りながら読むことになります。
これ、おもしろい。
この部分はミステリ優れた仕掛けとは言えないのかもしれませんが、この貴族探偵という特殊なミステリ作品において、とても有効な一撃を放っていると思います。

麻耶雄嵩は常に変なこと(褒め言葉です)をやってくれます。
この「貴族探偵対女探偵」も期待を裏切らない傑作だと思いました。



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