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ヴィンテージ・マーダー [海外の作家 ま行]


ヴィンテージ・マーダー (論創海外ミステリ 28)

ヴィンテージ・マーダー (論創海外ミステリ 28)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2005/10/01
  • メディア: 単行本

<カバー袖紹介文>
楽屋から抜け出すことができたのはだれだ?
船上での窃盗、電車での殺人未遂、舞台上の変死……。
休暇中のアレン警部に事件が次々とふりかかる。
該博な演劇の知識を存分に発揮した、劇場ミステリの逸品。


2024年2月に読んだ2冊目の本です。
ナイオ・マーシュの「ヴィンテージ・マーダー」 (論創海外ミステリ)
単行本で、論創海外ミステリ28です。

まず舞台がニュージーランドというのが面白いですね。
演劇ミステリですのでそれだけでは地方色豊か、とはならないのですが、登場人物にマオリの医師ランギ・テ・ポキハを出したり、翡翠でできた緑色のマオリ族のシンボルティキ(人間が大きな頭を掲げ、腕と脚を曲げてうずくまる形を模した彫像で、多産と豊穣を象徴)を出したりして、雰囲気を盛り上げてくれます。
解決の前には、ポキハ医師がアレン警部を案内するシーンもあります。
あと、スコットランドヤードにアレン警部が、かなり敬意をもって扱われているところなど、
ニュージーランドとイギリスの関係が伺われて興味深い。
アレン警部は捜査に関する本を書いていて、それが知られているという設定にもなっています。

事件は上演中ではなく、上演後開かれた、主演女優で劇団オーナー座長の妻であるキャロリンの誕生パーティの席上で発生します。
舞台上の仕掛けで、シャンパンの巨大なボトルを被害者の上に落として殺害という派手な事件。
(このやり方で確実に殺せるのだろうか、と余計なことを考えてしまいますが......)

途中、アレン警部は登場人物(容疑者?)の出入りと動機をまとめた表を作ったりし(その表はロンドンにいるフォックス警部へ手紙で送られます)、いかにもな本格ミステリの風情が漂います──もっとも読者としてのこちらは怠慢なので、読み飛ばしてしまうのですが。

最終的に見せられる謎解きは正直あっけない。
しかも少々ズルい感じがします──劇場の見取り図が巻頭にあるので、参照しながら謎解き場面を読み返しても、なんだかかうまくごまかされたな、と思ってしまいました。
ただ、さすが演劇というか、殺害方法を含めて要所要所で非常に視覚的に特徴的なところがちりばめられており、それほど印象を損ねることはありません。
古き良き本格ミステリを読んだという気になりました。


<蛇足1>
「マオリもまた、ニュージーランドにおいては新参者なのですよ。私たちがここに住みついたのは、ほんの三十世代ほど前のことです。私たちは持ち込んだ自前の文化を、この土地に適合させてきました」
─ 略 ─
「どこから来たのですか?」アレンは尋ねた。
「ポリネシアです。その前は、イースター島に住んでいたようです。おそらく、東南アジアまでさかのぼることができるでしょう。祭司(トフンガ)や呪医(ランギティラ)によれば、最初はアッシリアだったそうですが、白人の人類学者による調査は、そこまで進んではいません。」(331ページ)
マオリもまたよそからやって来たというのは知りませんでした。

<蛇足2>
「白人文明の強烈な光にさらされて、マオリは古来からの姿を保つことができませんでした。彼らを真似ようとして、私たちは自分たちの慣習を忘れていきましたが、賢明にも、白人文化のなかにすっかり同化してしまうことはできませんでした。」(332ページ)
「賢明にも」と「できませんでした」というのが呼応していないようで落ち着きません。






原題:Vintage Murder
著者:Ngaio Marsh 
刊行:1937年
訳者:岩佐薫子




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