SSブログ

Nのために [日本の作家 ま行]

Nのために (双葉文庫)

Nのために (双葉文庫)

  • 作者: 湊 かなえ
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2014/08/23
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
超高層マンション「スカイローズガーデン」の一室で、そこに住む野口夫妻の変死体が発見された。現場に居合わせたのは、20代の4人の男女。それぞれの証言は驚くべき真実を明らかにしていく。なぜ夫妻は死んだのか? それぞれが想いを寄せるNとは誰なのか? 切なさに満ちた、著者初の純愛ミステリー。


2024年2月に読んだ7冊目の本です。
湊かなえの「Nのために」 (双葉文庫)
湊かなえの4冊目の著作です。ようやく読みました。
前作「贖罪」 (双葉文庫)(感想ページはこちら)を読んだのが2014年の5月でしたから、ほぼ10年ぶりです。

湊かなえの本は、イヤミスの語源と理解しております。
非常に巧緻に組み上げられていて驚嘆すると同時に、”イヤミス” ならではの強烈な読後感はあまり好みではなく、すさまじい構成力に魅了されつつも、手に取るのに臆してしまうところがあります。
なんどか本棚から手にとってはみたものの、読みださずに結局本棚に戻すことも幾度となく。それでこんなに間が空きました。

この「Nのために」も作者の構成力を十分に堪能できる作品になっています。

ただ、個人的にはあまり驚嘆できなかったです。
この作品、事件にいあわせた4人の人物の視点で語られることで見え方がかわる、というのを狙った作品です。

このような構成の作品の場合、語り手が変わることで事件の様相が変わってくる、あるいはくるくると変わる、というものだったりするのですが、この「Nのために」はそうではありません。
あっ、この言い方は誤解を招きますね。
くるくる変わることは変わるのです。ただ......
冒頭の証言で得られる、頭を殴られて死んでいる野口貴久、脇腹を刺されて死んでいるその妻奈央子、そして凶器と思しき血のついた燭台を持っていた西崎、そして現場に居合わせた人たち(杉下、成瀬、安藤)というのがスタート時点です。
この状況から、ミステリの読者であれば事件の構図は何通りか想定できるかと思います。
真相はどうだったのか、誰が誰に手を下したのかという点では変わるのですが、この想定の範囲内にとどまっており、読んでいるこちらとしては変わった感があまりなかった、とご理解ください。

解説からの孫引きになりますが、著者が「小説すばる」2014年6月号のインタビューで
「『Nのために』は、立体パズルを作りたいな、と思ったんです。登場人物たちは、最後まで誰が嘘をついているか分からない。人の気持ちの奥底を追求するというよりは、読む人だけが立体パズルを組み立てることができて、最後には、そうかこんな形式だったのかと分かる小説を」書きたかった
と説明しているそうです。

このためでしょう、「Nのために」はもっぱら、登場人物、語り手の心の中を覗き込むことに主眼が置かれています。
これは湊かなえの筆力のなせる技なのですが、それぞれの登場人物の心の中はとても興味深く、面白く読めました。そしてこれは作者の狙い通りなのですが、浮かび上がる相互のすれ違いも楽しめました(登場人物たちには気の毒な面もありますが)。
ただ、こういうパターンの作品の場合、個人的にあまりすっきりした読後感にならないことが通例で、この作品もそうでした。ぼくがミステリに期待するものとは違う方向性を持った作品ということかと思います──事件そのものの構図が問われているのではなく、つまり、謎が事件そのものではなく登場人物の心の中という作品群はあまり好みではないということですね。
これが驚嘆できなかった理由です。

一方で、「告白」 (双葉文庫)「少女」 (双葉文庫)「贖罪」と来たこれまでの湊かなえの諸作と違い、「Nのために」はイヤミスではありません。
これは結構大きなポイントで、今後湊かなえの作品を手に取りやすくなるのでは、と思います。

次は「夜行観覧車」 (双葉文庫)ですが、それほど間を開けずに読みたいと思います。



タグ:湊かなえ
nice!(11)  コメント(0) 
共通テーマ: