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リケジョ探偵の謎解きラボ 彼女の推理と決断 [日本の作家 喜多喜久]


リケジョ探偵の謎解きラボ 彼女の推理と決断 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

リケジョ探偵の謎解きラボ 彼女の推理と決断 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2019/04/04
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
研究第一のリケジョ探偵が帰ってきた! 留学帰りの研究者・友永久理子と同棲を始めた保険調査員の江崎は、結婚に向けて着々と準備を進めていくが、二人の生活には様々な問題があり……。一方、仕事においても、江崎に回ってくる案件は相変わらず厄介な不審死ばかり。頭を悩ませる江崎が、久理子にアドバイスを求めると、彼女は犯人の思考を ”トレース” し、科学の力で事件の謎に迫る!


2024年2月に読んだ5冊目の本です。
前回感想を書いたハリー・カーマイケル「アリバイ」 (論創海外ミステリ)と順番が逆になってしまいました。
喜多喜久「リケジョ探偵の謎解きラボ 彼女の推理と決断」 (宝島社文庫)
「リケジョ探偵の謎解きラボ」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)の続編にして完結編(多分)です。

あらすじに書いてあるように「二人の生活には様々な問題があ」るとは思いませんでしたが、連作短編を通して、江崎が受ける仕事の解明と、久理子と江崎の生活の両方が描かれていきます。
裏側の帯に、各話の1行紹介があるので、それとともに各話について。

「Research01・契約と選択」 なぜスズメバチは季節外れの時期に凶暴化したのか。
犯人側の視点から犯行前まで描いておいて、その後江崎視点に切り替わります。
蜂といえばフェロモンと結びつけやすい生き物なので、犯行手段は理系的には平凡というか容易に想像がついてしまうもので、むしろどうやってそれを突き止めるかという興味になるのでしょう。
久理子と江崎の生活の方にも絡んでくるので単純には言い切れないとは思いますが、この事件の決着のつけ方は印象に残りました。

「Research02・死の階段」 脳梗塞で夫を亡くした妻は、前夫も同様に失っており……。
健康に留意が必要な夫の生活を身体に悪い方向に導いて死に至らしめる──なかなか悠長な殺人計画の疑いをかけられています。
江崎との会話で涙を浮かべたその妻に
「ウソ泣きではないだろう、と僕は感じていた。彼女が心に傷を負っていることは間違いないように思えた。
 問題は、涙の理由だ。二人の夫を失った悲しみなのか、それとも金のために二人を殺めたという良心の呵責なのか。今後の調査を通じて、それをじっくりと見極めていかねばならない。」(127ページ)
と述べるところ立ち止まりました。そうか、良心の呵責の涙か......そういう涙もあるのですね。

「Research03・失踪の果つる地」 七年間姿を見せず、死亡扱いとなりそうな男の失踪の謎。
ミステリとしての印象は弱いのですが(読んでいただくとわかりますが、事件らしい事件がないので)、決着というのか物語の行方が印象に残ります。
途中、DNAと遺伝子を「DNAが本で、遺伝子がそこに書かれた文章ってのはどうですか。意味のある文章が集まって物語になる。これってつまり、遺伝子からタンパク質ができて、最後には生物ができあがるのと同じでしょう。」(214ページ)と譬える箇所があります。
DNAは本ですか? どちらかというと文字のような気がしますが......そして生物が本なのでは?
さておき、その薬物退社に関わる酵素(CYP)、遺伝子の並びの傾向から出身地が判明するというのは本当でしょうか? すごいことですね。

「Research04・生命の未来予想図」 がん保険の生前給付金を受け取る患者が続出する病院の闇。
ここまで夫婦関係に起因する事件(?) を扱ってきたあとに、違う角度の事件。
このがんと保険をめぐる仕掛け(?) は素人にも簡単に予想がつく内容になっていまして、ちょっと食い足りなかったですね。

久理子と江崎の生活の方のエピソードが、意図的にだとは思うのですが、全体を通じて非常にあからさまにヒントがばらまいてあって、読者は江崎よりもかなり先回りできてしまうんですよね。
第1話から第3話まで夫婦にまつわる事件ばかりでそのたびに江崎がいろいろと考え、そして陰が差しこんで来ようとも、この二人にお似合いの、というか、江崎にお似合いのとでも言うべきベタで甘々なラストは、喜多喜久らしいといえば喜多喜久らしく、これでいいのかな、と思えました。


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