アリバイ [海外の作家 か行]
2024年2月に読んだ6冊目の本です。
論創海外ミステリ204。
ハリー・カーマイケル「アリバイ」 (論創海外ミステリ)。
ハリー・カーマイケルを読むのは
「リモート・コントロール」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら)
「ラスキン・テラスの亡霊」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら)
に続き3冊目です。
とてもシンプルなタイトルで、おおアリバイ崩しかと思うのですが、そう単純にいかないところがポイントだと思いました。
冒頭が思わせぶり。車で帰宅途中の弁護士ヘイルがパトリシアと言う足をくじいた女性と遭遇し、誘われる。靴とカバンを忘れたといわれ、ヘイルは取りに戻ってあらためてパトリシアの家へ向かうが......
章が変わって、おなじみの保険調査員パイパーが、ワトキンという男から妻を探してほしいという依頼を受ける。
妻は夫の元を離れ、偽名で暮らしていた。冒頭のパトリシアというのがその妻で、やがて死体が見つかって......
冒頭のシーンからすると、ヘイルが犯人かと思いそうなんだけれど、タイトルが「アリバイ」。
ということは、夫には鉄壁のアリバイがあるので、ああこちらが犯人だな、と。ヘイルもなかなか物語に登場しませんしね(笑)。
ところが夫のアリバイ、これがなかなか崩せそうもなくて。
このアリバイが崩れないというだけではなく、パイパーの捜査自体も、さまざまな情報が入り乱れるもののなかなか進まなくて(ですが退屈することはなく、すいすい読み進むことができます)、警察からも冷たい対応をされて、さてどうなってしまうのだろう、と心配になるのですが、たどりつく真相はかなり良くできていまして、いたく感心しました。
アリバイというタイトルから地道なアリバイ崩しを期待すると肩すかしとなりますが、うまく構成された本格ミステリになっていると思います。
ハリー・カーマイケル、もっと訳してほしいですね。
<蛇足1>
「たかだかブランデー三杯とリシュブール一杯を食事の後に飲んだだけだ。」(9ページ)
フランデー三杯だと、まあまあのアルコール量なのでは、と思いますが、欧米人は日本人に比べるとアルコールに強い体質なので、こういう感覚なのかもしれませんね。
リシュブールというのがわからなかったのですが、有名なワインなのですね。
ブルゴーニュにある「神に愛された村」と喩えられるヴォーヌ・ロマネ村にある8つのグラン・クリュのちの一つのようです。Richebourg。── ロマネ・コンティ(Romanee Conti)もそのうちの一つなんですね。
<蛇足2>
「イギリスのパブにおけるセクハラ事情なら、本を一冊かけるくらいよく知ってるよ」(207ページ)
この本が出版された1953年当時、セクハラという語はイギリスにもなかったのではないかと思うのですが......
<蛇足3>
「クリフォードおじさんはカムデン・タウンの小さな二軒長屋にひとりで暮らしていた。」(209ページ)
二軒長屋???
ひょっとして "semi-detached" の和訳でしょうか? 先日読んだ「善意の代償」 (感想ページはこちら)では二戸住宅と訳されていましたね。
<蛇足4>
「考えてみろよ、アダムが手に取ったのがイチジクの葉じゃなくてビールのホップだったら、この世はいまよりずっと平和だったと思わないか……なあ?」(264ページ)
本書をしめくくるクインのセリフですが、これ、賛同できますかね(笑)??
原題:Alibi
作者:Harry Carmaichael
刊行:1953年
訳者:水野恵