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ゴルフ場殺人事件 [海外の作家 アガサ・クリスティー]


ゴルフ場殺人事件(クリスティー文庫) (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 2)

ゴルフ場殺人事件(クリスティー文庫) (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 2)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/07/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
南米の富豪ルノーが滞在中のフランスで無惨に刺殺された。事件発生前にルノーからの手紙を受け取っていながら悲劇を防げなかったポアロは、プライドをかけて真相解明に挑む。一方パリ警視庁からは名刑事ジローが乗り込んできた。たがいを意識し推理の火花を散らす二人だったが、事態は意外な方向に……新訳決定版。


2024年3月に読んだ8作目の本です。
アガサ・クリスティーの「ゴルフ場殺人事件」(クリスティー文庫)
アガサ・クリスティーの長編第2作で、デビュー作「スタイルズ荘の怪事件」 (クリスティー文庫)に続いてポワロが登場します。
2011年に出た、田村義進さんによる新訳ですね(もう1周り以上昔だ! )。
上にamazonから引用した書影(安西水丸による特別イラスト )を貼っていますが、今回購入したものは違うデザインです。

この作品はハヤカワではなく、創元推理文庫から出ていた「ゴルフ場の殺人」 (創元推理文庫)を大昔に読んでいます。
正直あまり印象に残っていません。失礼ながらあまり際立ったところのない作品だったのでは? というところですが、今回読み返して楽しかったですね。悪くない(←偉そう)。

なにより、ヘイスティングズ! ワトソン役だから頭がよくない、とか、頭が悪い、とかを超えて、これはすごい(ひどい笑)。
──どうしてこのエピソードを覚えていなかったのだろう?
ヘイスティングズの大活躍(悪い意味での)が楽しめました。
オープニングに出てくる ”くそったれ” が、ラストで響き合うように作られているのが見事。
──ところで、このあとヘイスティングズ、どうなったんでしょう? 次の作品は「アクロイド殺し」 (クリスティー文庫) だったのか。どうなってたでしょう?

ところでタイトルのゴルフ場、原題では Links。
日本でもリンクスといいますね。
なんですが、まあ、正直ゴルフ場でなくてもよかった気がしますね。ゴルフシーンが出てくるわけでもない。
死体発見現場がゴルフ場、といいつつ、まだ未完成で造成中。
割と新しいもの好きなクリスティーが取り上げているのですから、発表当時なにか耳目を引くような出来事があったのでしょうか?

ポワロ対フランスの名刑事ジローとの対決、という構図を作ってあるのが愉快ですね。
ことごとにつっかかってくるジロー。受け流すポワロ、という感じは少なめで、しっかり反論(あるいは指摘)し、わざと反発されるようなことを言ってのけるポワロが楽しい。
ポワロが指摘するポイントというのは、当然謎解きにおいて重要な位置を占めるわけですから、読者も注意しながら読みますよね。

注目すべきはやはり、度肝を抜くようなトリックはないけれども、クリスティーの持ち味である、人間関係を背景とした巧妙なミスディレクションが効果的に使われていることでしょうか。

クリスティーの作品の中ではそれほど評価されているわけではない作品でも、十二分の楽しめることが改めてはっきりしたように思います。素晴らしいことですね。



原題:Murder on the Links
著者:Agatha Christie
刊行:1923年
訳者:田村義進






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十日間の不思議 [海外の作家 エラリー・クイーン]


十日間の不思議〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

十日間の不思議〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/02/17
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ぼくを見張ってほしい──たびたび記憶喪失に襲われ、その間自分が何をしているのか怯えるハワード。 探偵エラリイは旧友の懇願を聞き入れて、ハワードの故郷であるライツヴィルに三たび赴くが、そこである秘密を打ち明けられ、異常な脅迫事件の渦中へと足を踏み入れることになる。連続する奇怪な出来事と論理の迷宮の果てに、恐るべき真実へと至った名探偵は……巨匠クイーンの円熟期の白眉にして本格推理小説の極北、新訳で登場。


2024年3月に読んだ7冊目の本です。
エラリー・クイーンの「十日間の不思議」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
「災厄の町」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)(感想ページはこちら
「フォックス家の殺人」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)(感想ページはこちら
に続くライツヴィルものの第3弾。新訳です。

旧訳版を読んだのは確か中学生の頃。ダルく、つまらないな、という感想だったという記憶。
今般新訳で読み直して、印象が大幅に変わりました。
ライツヴィルものはみんなこんな感じですね。面目ない。
とても面白く読みました。

この作品はいわゆる「後期クイーン問題」の象徴的作品です。
ミステリの構造としての問題は難しいのでおいておくとして(←こらっ)、苦悩する名探偵というのは、解説でも触れられているように「ギリシャ棺の謎」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)でも扱われていましたが、とても印象的です。
なにしろこの作品では、エラリー・クイーンは探偵廃業宣言をするのですから。

と、面白く読めるようになったのですが、未だに不満も残ります。
それは、やはり犯人の計画がバカバカしく思えてしまうこと。
この犯人、あるプランに沿うように(沿うように見えるように)まわりを自在にあやつり、あまつさえエラリー・クイーンまで手玉に取って犯行を進めていく、という非常に奸智に長けた設定になっています。
このプランがねぇ......ミステリ的には ”あり” だとは思いますし、こういう稚気は好きなんですけど、やはりねぇ......
また他人をあやつるという性質上、かなり危なっかしい犯行の連続です。特にエラリー・クイーンが絡むところは相当危なっかしい。451ページで絵解きされる場面など、そんなにうまくいかないだろうな、と思ってしまう。
好意的に捉えると、エラリー・クイーン向けのプランだとはいえると思いますし、エラリー・クイーンがそのプランに箔付けしてしまうというのも皮肉が効いていていいです──だからこその廃業宣言ですから。
それでも、初期国名シリーズのように謎解きに特化したような作風だと受け入れやすかったのかもしれませんが、このライツヴィルものはもっと人間よりな作風になっているので、ちょっと困りましたね。
(といいながら、この犯人の稚気に乗っかって、「十日間の不思議」というタイトルにしたエラリー・クイーンの稚気はもう好ましいことこの上なしです)

ライツヴィルものとして面白いなと思ったのは、
前作、前々作の「災厄の町」「フォックス家の殺人」は、エラリー・クイーンは成功を収めるのだけれど、真相を伏せたが為に世間的には失敗と見られる事件であったのに対し、この「十日間の不思議」は逆に、世間的には大々的な成功として持てはやされるような状況になったのに、(最終的には犯人を突き止めたとはいえ)実際には犯人の手玉に取られて失敗を喫していること、ですね──ラストシーンのあと、エラリー・クイーンが真相を世間に暴露するということもありえなくはないですが、作中でその可能性を退けるセリフがありますので、世間的には成功のままとなっていると思われます。
ひょっとしたらこの構図を作るために、「後期クイーン問題」は産み出されたのかも、と考えるのも楽しい。
こう考えると、バカバカしいと思ったプランも、エラリイ・クイーンを陥れるための(犯人ではなく)作者の企みの反映なのかもしれません。

”問題作” として不朽の名作だな、と感じました。


<蛇足1>
「きみはぼくを心腹の友だと思っている。」(31ページ)
”心腹の友” あまり見ない表現ですね。
知らなくても見ただけでぱっと意味がわかる表現です。

<蛇足2>
「どうにも落ち着かないのは、ヘイトとフォックスの事件を首尾よく解決したのに、事件の性質上、どちらも真相を伏せるしかなく、そのためエラリイのライツヴィルでの活躍は世間からはなはだしい失敗と見なされていることだった。」(53ページ)
「災厄の町」「フォックス家の殺人」を振り返ってのコメントですが、この「十日間の不思議」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)も含め、ライツヴィルものはエラリイ・クイーンの(表面上)失敗の記録なのかもしれませんね。
エラリー・クイーン、損な役回りですね。かわいそうかも。自業自得!?



原題:Ten Day's Wonder
作者:Ellery Queen
刊行:1948年
訳者:越前敏弥





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映画:オッペンハイマー [映画]

オッペンハイマー 1.jpg


映画「オッペンハイマー」の感想です。
第76回アカデミー賞で、作品賞をはじめ監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr)、撮影賞、編集賞、作曲賞と最多7部門で受賞を果たした作品です。
描くは、マンハッタン計画を主導した、原爆の父オッペンハイマー。

いつものようにシネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者、J・ロバート・オッペンハイマーを描く人間ドラマ。ピュリッツァー賞を受賞したカイ・バード、マーティン・J・シャーウィンによる伝記を原作に、人類に原子爆弾という存在をもたらした男の人生を描く。監督などを手掛けるのは『TENET テネット』などのクリストファー・ノーラン。『麦の穂をゆらす風』などのキリアン・マーフィのほか、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jrらが出演する。

---- あらすじ ----
ドイツで理論物理学を学び、博士号を取得したJ・ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィ)は、アメリカへ帰国する。第2次世界大戦中、極秘プロジェクト「マンハッタン計画」に参加した彼は、世界初の原子爆弾の開発に成功する。しかし実際に原爆が広島と長崎に投下されると、その惨状を知ったオッペンハイマーは苦悩する。冷戦時代に入り、核開発競争の加速を懸念した彼は、水素爆弾の開発に反対の姿勢を示したことから追い詰められていく。


描く対象が原爆の父ということで、なかなか日本で映画が公開されず、アカデミー賞を受賞して初めて日本での上映がきまったと理解しています。
実際に観た映画館では、以下のような掲示がされていました。

DSC_0996_.jpg

なんだかんだ日本では議論を呼ぶ映画だとは思いますが、全体を通してみてよくできた映画だな、と思いました。
オッペンハイマーが追いつめられていく取り調べ(裁判ではない、と繰り返し言われていますが、オッペンハイマーに認められていた機密情報へのアクセスが認められなくなったことに対する異議申し立ての審査会のようなものであることがだんだんわかってきます)のシーンとオッペンハイマーの敵役となるルイス・ストローズ閣僚任命に当たっての公聴会(? こちらも裁判ではない、と繰り返し言われます)のシーン、そして、それらに伴う過去の回想シーンとで成り立っています。
映画の構造がすぐには明らかにならないことが、3時間に及ぶ長い映画の牽引力となっていました。

原爆の父であるオッペンハイマーに共産党とのつながりがあって、戦後英雄視されたのち、赤狩りなどに巻き込まれていった、ということは知りませんでした。権力争いの一環として狙われたもの、という設定になっていましたが、そもそも共産党とつながっていそうな人物を中心に据えたのですね。それくらいアメリカも焦っていた、ということでしょうか。

原爆は戦争を終結させるのに必要だったというのがアメリカサイドの統一的な意見というのは(頭で)理解していますが、劇中、オッペンハイマーを追いつめるためとはいえ、この一般的見解とは違う意見が出てくることが興味深い。
トルーマン大統領とオッペンハイマーの、ホワイトハウスでの面談シーンなども印象的でした。そもそもこの統一見解は、そう考えるしかないということから生まれでてきたものだったのかもしれませんね......
同時にこの部分では、水爆をめぐるオッペンハイマーの意見は、もう少し丁寧に描いてもらえるとさらによかったように思いました。
映画のエンディング、アインシュタインとオッペンハイマーの会話と、最後のオッペンハイマーのセリフがとても印象的だったので、なおさらそう思った次第です。

かなり気を配って語られている物語にはなっていて(映画の題材であるオッペンハイマー自身が、そうすることを要求するキャラクターだったのかもしれませんが)、全体を通してよくできた映画という印象であることは間違いないのですが、それでも、原爆実験成功のシーンなどあちらこちらで、観ていて体温が下がっていくような、身体の芯が冷えていくような感覚を覚えてしまいました。

ところで、核爆発をめぐる連鎖反応の議論って、その後究明されているのですよね?
結果はわかっていても、核実験がかなりサスペンスフルになっているのはこの連鎖反応の議論が一役かっているわけで、素人としてその議論の決着が気になりました......(実際に行われた実験で証明されている、ということだったりして......)

最後に、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・Jr等、そうそうたるメンバーが出演しているなかで、ジョシュ・ハートネットの名前があって、おっと思いました。
なんだか久しぶりに見た名前の気がします──といいつつ、映画を観ている間は、それがジョシュ・ハートネットだと気づいていなかったんですが。



製作年:2023年
製作国:アメリカ
原 題:OPPENHEIMER
監 督:クリストファー・ノーラン
時 間:180分


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クラウドの城 [日本の作家 あ行]

クラウドの城

クラウドの城

  • 作者: 大谷 睦
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/02/22
  • メディア: 単行本

<裏側帯あらすじ>
世界は奪われた。
データセンターを撃て!

イラク帰りの元傭兵・鹿島丈(かしまたける)が勤め始めたデータセンターで連続密室殺人が発生。封鎖された“クラウドの城"で、鹿島は殺人者と対峙する。IT文明の終着地で、世界を“実効支配"する“バベルの塔"データセンターの内実を描き切った大注目作!


2024年2月に読んだ6冊目の本。
積読にしていた単行本です。
大谷睦「クラウドの城」(光文社)
前回感想を書いた麻加朋「青い雪」 (光文社文庫)と、第25回日本ミステリー文学大賞新人賞同時受賞でした。

こちらも2024年3月に文庫化されています。
文庫の書影はこちら。

クラウドの城 (光文社文庫 お 62-1)

クラウドの城 (光文社文庫 お 62-1)

  • 作者: 大谷睦
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2024/03/13
  • メディア: 文庫


タイトルの「クラウドの城」とはデータセンターのことを指しています
「政府や企業、メディアは総て情報はクラウド、空の雲みたいに浮かんでいて、地球のどこからでもいつでも利用できると宣伝しています。その表現、比喩自体は正しいが、現実のクラウドは地上のデータセンターにある」(118ページ)
「原発と同じで、データセンターを物理的に攻撃されれば現代社会はとてつもない打撃を受ける。だから、データセンターの所在は一般には隠されている。分からないような名を付けられ、地図上でも無名の四角い建物としか記されていない」(119ページ)
と説明された主人公は
「なるほど、データセンターとはクラウドの城だったか。自分は、城に詰める新入りの城兵だった。」
(119ページ)
とう感想を抱きます。

その主人公鹿島が元警察官で傭兵あがりという日本のミステリーでは珍しい設定。
なのでハードボルドタッチなのですが、描かれる内容は本格ミステリ。
舞台は北海道の山林を切り開いて建設中の竣工間近のデータセンター(鹿島はそこの契約社員の警備員)。
セキュリティが厳重な場所で起こる密室殺人。殺されたのはファシリティーマネジャー。
現場への立ち入りは、警察であってもアメリカ本社の許可がいる、と。道警もそれを受容している状況。
日米の防衛にも絡む重要施設ということで、鹿島の傭兵時代の知人たちも絡んでくる。

おもしろそうでしょう?
とてもおもしろかったんです。
────終盤までは。

鹿島の恋人が重病であることが明かされ、データセンターと警備・セキュリティの状況がはっきりしてきて、鹿島の過去のエピソードがあれこれ出て、日米政府の意向まで関わってきて......
とてもワクワクして読みました。
こんな頑丈な密室をどうやって破ったのか。

ところが、終盤謎解きで失速しました。残念。
肝心の密室トリックがあまりにも安直。これでセキュリティ強固というのは......
また、大掛かりな舞台背景の割に登場人物が限られているので犯人の意外性にもともと欠けやすいことに加えて、もっともっと人間関係を書き込まないとサプライズに繋がりにくい犯人像の設定。
うーむ。

あまりの尻すぼみぶりにがっかりではあるのですが、こんなにワクワクしながら読めたのは久しぶりな気がするくらい、のめり込んで読んだので、次作に期待します。
(もうこの作品が文庫化されましたが、2作目はまだ発表されていないようですね)


<蛇足1>
「CEO主催のアジア・太平洋戦略会議、通称APAC(エーパック)に出席するためだ。」(98ページ)
会議の略称がAPACとのことですが、一般的にAPACは Asia-Pacific の略ですね。戦略だったり、会議だったりは含まれないのですが、この作品の世界的企業<ソラリス>では、おそらくですが、地域ごとの戦略会議が開かれていて、地域名だけでその会議のことを呼ぶのでしょう。”会議” まで略すのは珍しい気もしますが。

<蛇足2>
「クロスボウは、意外に大きい。バーネット社の標準的製品で全長三十六インチ、幅二十インチもある。ポッド内に持ち込むには、一苦労だったと思量された。」(104ページ)
外国の製品なので仕方ないのかもしれませんが、ここでインチ表示は不親切だな、と。直前103ページに矢のサイズが書かれているのですが、そこでは「矢二十インチ(五十・八センチ)」などとセンチメートル換算値が添えられています。
”思量”という語も、ここ以前に103ページにも出てくるのですが、おやっと思いました。
ぼくが勤めていた会社は割と古い語を使うのですが、その際は ”思料” だったからです。どちらも使うようですね。

<蛇足3>
二十年前の通信速度が自足三キロの幼児のよちよち歩きなら、今のパソコンは宇宙ロケットです。約一万三千倍も速くなるとは、幼児とロケットの違いです。」(121ページ)
こう説明されるとデータ量が爆発的に増大していることが驚異的だとわかりますね。

<蛇足4>
「鹿島さんのIDカードでドアロックを解除して、共連れで外に出たらよいのでは」(139ページ)
「生まれて初めて、共連れで出た。人に話さないでくれよ」(140ページ)
捜査中いろいろと試しているときの会話に出てくる語ですが、「共連れ」というのですね。

<蛇足5>
「赤川インターで降り、道道を南へ走った。」(147ページ)
北海道なので当たり前なのですが、道道というのですね。

<蛇足6>
「G9からG1、メリットいかがですか」
『こちらG1、メリット5です』(164ページ)
無線機を利用した会話です。
メリットがわからず、調べました。
通信の感明度(感度・明瞭度の略)なんですね。
瀬戸内市消防無線交信要綱というページを拝見すると以下の記載がありました。
メリット1:通話内容がほとんど聞き取れない。
メリット2:音声が断続し通話内容があまり聞き取れない。
メリット3:音声が若干断続するが、通話内容は十分に聞き取れる。
メリット4:歪みが多少あるが、明瞭に聞き取れる。
メリット5:非常に明瞭に聞き取れる。
これは感覚的なものなので定義なども幅があるようですね。
メリット1:ほとんど聞き取れない。
メリット2:一部聞き取りにくい
メリット3:多少雑音ぽいが理解できる
メリット4:ほぼ理解できる
メリット5:問題なく理解できる
としているページもありました。

<蛇足7>
「いろいろ、すみませんでしたね。何せ、田舎なので、人間関係が濃ゆいんです」(180ページ)
「濃ゆい」と言う表現が目をひきました。
もともとは九州、西日本の方言と理解していましたが、いまや全国的に使われているのかもしれませんね。

<蛇足8>
「責任者の処分なしに、本社は政府と話すらできないって。私は、とんだ土産首だ」(181ページ)
「土産首」という語、ネットで調べても出てこないのですが、意味はしっかりわかります。
面白い表現だと思いました。





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青い雪 [日本の作家 あ行]

青い雪

青い雪

  • 作者: 麻加 朋
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2022/02/22
  • メディア: 単行本

<裏側帯あらすじ>
雪降る夜、ひとりの女が身を投げた。それがすべての始まりだった。 非業の運命に翻弄されながらも、強く生きる人々を描く慟哭の長編ミステリー。
夏の数日をともに過ごす三組の家族を、悲劇が襲う。最年少の五歳の少女が失踪したのだ。事件性も疑われるが、手掛かりが乏しく、行方は知れぬまま。穏やかな避暑地での日々は永遠に失われてしまった──。三組がそれぞれに秘めた複雑な家庭の事情と、長い時を経て現れ出た一通の告発状。絡み合った謎が氷解したとき、明らかになる真実とは?



2024年2月に読んだ5冊目の本。
積読にしていた単行本です。
麻加朋青い雪 (文庫)

第25回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
大谷睦「クラウドの城」 (光文社文庫)と同時受賞でした。

2024年3月に文庫化されました。それで慌てて(?) 読みました(笑)。
文庫の書影はこちら。

青い雪 (光文社文庫 あ 74-1)

青い雪 (光文社文庫 あ 74-1)

  • 作者: 麻加朋
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2024/03/13
  • メディア: 文庫


冒頭のプロローグで、不思議な(?) 出来事が描かれ、その中で女の人が「青い雪」と言います。
これがタイトルの由来だな、とわかるのですが、その後場面は大きく切り替わって、長野県の土筆町で過ごす3家族の子供たちの視点になります。
柊寿々音、石田大介、的場希海、的場秀平。大人の登場人物の視点の場面もごく一部ありますが、概ねこの子供たちで、なかでも中心人物は寿々音。
第一章は寿々音11歳、第二章が18歳、第三章が27歳と、成長していく過程が描かれていきます。

すずねは、うそつき。すてられた子。(48ページ)
[すずねはあくまのこ ははおやはブルースノウ うらみは消え い](112ページ)
すずねに向けられた悪意に満ちたメッセージが物語の底流になり、ブルースノウという語で、プロローグとのつながりが気になってきます。

プロットが非常に丹念に作りこまれているな、と感心しました。
選考委員としてのコメントだと思うのですが、帯に書かれている薬丸岳の「人物の心情を丹念に描き、感動できる物語を紡いでいく力量を評価した」という言葉も納得できます。

ところが、ミステリーにしようとしたためだと思うのですが、真相を伏せるために、ある主要登場人物の心情が(一部を除き)後回しにされています。
薬丸岳のいう感動の大きなポイント(の一つ)と言えるこの人物の心情が後回しというのは、物語の構成としてはよくないように思いましたし、これを含め視点の切り替えが真相を隠すためだけに、あまりにも作者の都合だけで選ばれているように感じられてしまいます。
ひょっとしたらこの物語はミステリーとして語られない方がよかったのかもしれません。

といいつつ、プロローグを振り返ってみたくなるエピローグはとてもよかったですし、最後にさらっと明かされる「青い雪」の意味はとてもすてきだと思いました。
この作者、ミステリー味を薄めていく方向で活躍されるのかもしれませんね......


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映画:ゴジラxコング 新たなる帝国 [映画]

ゴジラxコング 新たなる帝国 1.jpg


映画「ゴジラxコング 新たなる帝国」の感想です。
前作「ゴジラvsコング」も観ているのですが、感想は書けていません。

いつものようにシネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
ゴジラとキングコングの二大怪獣が対決する『ゴジラvsコング』の続編。ゴジラとキングコングが再び激突したことで、それぞれがテリトリーにする地上世界と地下空洞の世界が交錯し、新たな脅威が出現する。監督のアダム・ウィンガード、アイリーン役のレベッカ・ホール、バーニー役のブライアン・タイリー・ヘンリー、ジア役のケイリー・ホトルら、前作のスタッフとキャストが顔をそろえるほか、『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』などのダン・スティーヴンスらが新たに出演する。

---- あらすじ ----
巨大生物の調査研究を行う未確認生物特務機関「モナーク」が、異常なシグナルを察知する。モナークが警戒を強める中、かつて激闘を繰り広げたゴジラとキングコングが現れ、再び戦いを繰り広げる。さらにゴジラとキングコングそれぞれがテリトリーにする地上世界と地下空洞の世界が交錯し、新たな脅威が出現する。


この見どころとあらすじ、重複が激しいですね。
映画のHPの紹介文の熱がすごいので、長くなりますが引用しておきたいと思います。

世界は今、目撃する。
一線を越え、激突のその先へ。

ワーナー・ブラザースとレジェンダリー・ピクチャーズ、東宝が提携し、『GODZILLA ゴジラ』(2014)より展開してきた、ハリウッド版『ゴジラ』シリーズと『キングコング:髑髏島の巨神』(2017)の壮大な世界観がクロスオーバーする「モンスター・ヴァース」シリーズ。続編となった『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』は、2019年に全世界同時公開され、ド迫力の怪獣バトルロイヤルに世界中が熱狂し、大ヒットを記録。そして2021年には、映画史上で最も有名な2大モンスターの夢の対決が実現! ゴジラとコングが激突したシリーズ『ゴジラvsコング』が公開され、全世界での累計興行収入が500億円を突破! まさに、ゴジラとコングの究極対決に相応しい地球規模でのメガヒットを記録しました。

2023年11月3日(金・祝)には日本で製作されたゴジラ映画の記念すべき30作品目となる山崎貴監督作品『ゴジラ-1.0』が公開され、興行収入60億円を突破。その勢いは国内にとどまることなく、北米で邦画実写映画の新記録を打ち立てるのみならず、「第96回 アカデミー賞」で日本映画初となる「視覚効果賞」を受賞するなど、世界各地で今もなお話題沸騰中です。

そして時は2024年。<ゴジラ70周年×「モンスター・ヴァース」シリーズ10周年>という史上初のビッグアニバーサリーイヤーを迎え、世界各地で“ゴジラ旋風”が巻き起こる中ついに、全世界待望、「モンスター・ヴァース」シリーズ最新作にして超大作、『ゴジラxコング 新たなる帝国』が4月26日(金)に日本公開!

怪獣と人類が共生する世界で、未確認生物特務機関:モナークが察知した異常なシグナル。
交錯する<地上世界/ゴジラテリトリー>と<地下空洞/コングテリトリー>。
ついに一線を越える<王ゴジラ>と<王コング>の激突のその先には、我々人類が知る由もなかった未知なる脅威が待ち構えていた。「vs」ではなく「x」、そして[新たなる帝国]が意味するものとは? 世界は今、目撃する── 。


まずなにより「ゴジラvsコング」の続編というのが驚き。
あの物語に続きを構想したのですね。

「ゴジラvsコング」のときも感じたのですが、ゴジラにせよキング・コングにせよ、オリジナルからはかなりかけ離れた地点にたどり着いていますね。
だいたいキング・コングが、ゴジラと対峙できるくらいの大きさというのがまず謎。
たしかエンパイアステートビルの上の避雷針(?) の部分に捕まって美女を抱いていたような、それくらいの大きさではなかったですか? もうビルをなぎ倒すくらいの大きさになっています。
大きくしないと、「ゴジラvsコング」ということにはならないので、仕方ないのですが。

また、HPの紹介文にもある通り、今回タイトルが「ゴジラvsコング」から「ゴジラxコング 新たなる帝国」へと、vs だったのが、x に変えられているのがポイントなのですが、これに関する設定もかなり疑問。
ゴジラとキング・コングが対決するわけではないのですね。
ゴジラ、とっても聞き分けがいい(笑)。
ゴジラとキング・コングが戦うシーンもあるのですが、モスラの協力を得て(?) 、ともに共通の敵を倒すべく地下世界へ行くことになります。
まあキング・コングの方は人間を守るというか、人間と共存するというスタンスでもまだ問題ないと思うのですが、ゴジラの方までこの「ゴジラxコング 新たなる帝国」で描かれているような設定になっているのは、かなり疑問を感じてしまいます。
もちろんゴジラは巨大ですし、人類にも甚大な被害をもたらすのではありますが、なんというか、こんなに人類(やキング・コング)に都合の良い動きかたをするようにしてしまっていいのだろうか?
また共通の敵を倒したあと、そそくさとねぐら(として設定されているイタリアのコロッセオ)に戻るのですが、いや、そこはキング・コングと戦うでしょう、普通(笑)。

と突っ込み始めたらきりがないような作品なのですが、すこぶる面白かったです。
こういう肩の凝らない、馬鹿馬鹿しい(念のため、褒め言葉です)映画も必要ですよね。
とても楽しく観ました。



製作年:2024年
製作国:アメリカ
原 題:GODZILLA X KONG: THE NEW EMPIRE
監 督:アダム・ウィンガード
時 間:115分
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8・1・3の謎(ポプラ社) [海外の作家 ら行]



<カバー裏あらすじ>
ダイヤモンド王・ケスルバッハがホテルで惨殺された。部屋にはルパンの名刺と謎の数字「813」が。事件をめぐって鬼刑事ルノルマン、名探偵ホームズ、そして冷酷無比の殺人鬼が決死の闘争を繰り広げる。そこにはヨーロッパ中を巻き込む大陰謀が隠されていた……解説/池上永一


2024年2月に読んだ4冊目の本です。
モーリス・ルブランの「8・1・3の謎 怪盗ルパン全集シリーズ(3) 」
子ども向けのものを改めて読んでいます。

いやあおもしろい。
味わいというのはありませんが、とにかくスピーディーに物語がどんどん進んでいく快感。

それもそもはず。
本の冒頭、南洋一郎による「この本を読むひとに」という文章に、
この「8・1・3の謎」は、”8・1・3” と ”Les Crimes D. Aresene Lupin” の2冊を1冊にまとめたもの、と書いてあります。
子どもの頃手に取った版にもこの文章はあったはずで、ということはこの文章も読んでいるはずなのですが、記憶にありませんでした。
その後、大人向けの普通の翻訳では、たとえば新潮文庫などでは、「813」 (新潮文庫)「続813」(新潮文庫)と2冊あるのに、子供向けのポプラ社版では続編が見当たらなかったので不思議に思っていました。
2冊を1冊にまとめたんですね──Wikipediaによると原書は、もともと1冊だったものを2分冊にして今の形になっているようですね。

次から次へと繰り広げられる謎また謎の展開の連続に、ハラハラドキドキ。
訳されたのが昔だけに、全般に古めかしい印象な残りますが、それも味わいのひとつ。
今の子供たちも夢中になって読んでくれているといいな、と思いました。


<蛇足1>
「それだとすれば、まるで、キツネとオオカミのだましっこだ。」(99ページ)
キツネとタヌキではないのですね。

<蛇足2>
「ふたりは足音をしのばせて王子ピエール(じつは貧乏詩人ボープレ)の寝室にしのびこみ、カーテンのかげにかくれた。」(104ページ)
「美しいみどりの芝生のベンチに腰をかけているのは、美少女ジュヌビエーブと王子ピエール(じつは自殺しそこなった貧乏詩人ポープレ)である。」(135ページ)
”(じつは貧乏詩人ボープレ)”や”(じつは自殺しそこなった貧乏詩人ポープレ)”という表記に笑ってしまいました。
書かれている内容はその通りなのですが、大人向けの小説ではこういう書き方はしませんよね。

<蛇足3>
『ルパンは、手錠をかけられて引きたてられていきながら、そこに立っていたドードビル兄弟の兄のそばを通りながら、くちびるも動かさず、たくみな腹話術で、
「リボリ街二十七番地……ジュヌビエーブ……たすけろよ」
 と、他人に聞こえない声でささいた。』(169ページ)
腹話術なので唇を動かさず、というのはいいのですが、他人に聞こえない声、というのはどうなんでしょう?
それは腹話術とは違うスキルのように思えます。
最後の ”ささいた” は ”ささやいた” ですね。

<蛇足4>
「その中指は本物の指と色のちがわない、ゴムのうすいサックがかぶせてあるので、毎朝のきびしい身体検査にも、刑務所長の目をごまかせるのだ。」(171ページ)
当時の技術でこんな精巧なものが作れたのでしょうか?
なんとなく疑問に思ってしまいます。

<蛇足5>
「あと三十分だ。一秒おくれても死刑はおこなわれる。いそげ、いそげ……ルパンは両足をばたばたさせた。」(324ページ)
タクシーで急ぐルパンの描写です。
脚をばたばさせるなんて、ルパン、子どもか!? きっと南洋一郎の趣味でしょうね(笑)。

<蛇足6>
「ルパンはほっとした。おれは無実の人間のいのちを助けたのだ。なんともいえない、いい気持だった。」(325ページ)
いやいや、自分で捕まえて死刑に追い込んだくせに、ぎりぎり死刑執行を食い止めたからって「なんともいえない、いい気持」だなんて、ちょっとルパン勝手すぎませんか(笑)。
これ助けられていなかったら、怪盗紳士なのに、実質殺人に手を染めたことになりますよね。




原題:8・1・3 / Les Crimes D. Aresene Lupin
作者:Maurice Leblanc
刊行:1910年(Wikipediaによる。1917年に分冊化)
訳者:南洋一郎











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ミステリと言う勿れ (9) [コミック 田村由美]


ミステリと言う勿れ (9) (フラワーコミックスアルファ)

ミステリと言う勿れ (9) (フラワーコミックスアルファ)

  • 作者: 田村 由美
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2021/07/09
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
入れ替わりを続ける双子の姉妹の「見分け」を依頼された整。しかし彼の気づきが、鳩村家に潜む危険な事実をあぶりだす──!!
そして、整がいつの間にか関わってしまったある事件が思わぬ過去と結びつき…


シリーズ9冊目です。
「ミステリと言う勿れ (9)」 (フラワーコミックスアルファ)

episode13-2 誰も寝てはならぬ
episode12.5 enclosure(エンクロージャー)
episode14 誰が誰に誰を誰と
episode14-2 囁く夜
を収録しています。

episode13-2 は、前巻「ミステリと言う勿れ (8)」 (フラワーコミックスアルファ)からの続きです。
おいおい、と言いたくなるようなトリック(と呼んでいいのでしょうか?)を堂々と描き切ったところはすごいと思いますが、トリック自体がおいおい、と言いたくなるようなものだけあって、種々無理が多く、鳩村家の設定ともどもあまりに非現実的すぎて困ってしまいます。
ただ、後半のサスペンスはなかなかよかったです。
終盤で登場する意外な人物(シリーズを通して考えると意外ではないのでしょうけれど)もよかった。

episode12.5 は幕間的なエピソードですね。今後活かされるのでしょう。
オープニングにコンビニが登場するのですが、そのコンビニが「88」。
セブンイレブンからの連想なのでしょうけれど、なんと読ませるのでしょうね?

episode14と続くepisode14-2は、青砥刑事が巻き込まれる大事件です。これも次巻へ続くようですので感想はそのあとで。かなり入り組んだストーリーになりそうで、ワクワクします(青砥刑事には申し訳ないですが)。
144ページに、整が
「刑事しか
 来ないのはなぜ
 僕の家」
と俳句──いや、川柳ですね──を頭の中で詠むシーンがあって笑ってしまいました。
友だち、いなそうですもんね......

ところで、ストーリーが込み入った話が多くなってきたからか、整の説教臭さがずいぶん減ってきたように思います。
この点は今後も注目ですね。




タグ:田村由美
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名探偵コナン (11) [コミック 青山剛昌]


名探偵コナン (11) (少年サンデーコミックス)

名探偵コナン (11) (少年サンデーコミックス)

  • 作者: 青山 剛昌
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 1996/07/18
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
オレの名は工藤新一 ちょっとは名の知れた高校生探偵… だったはずなのに 気がつけば、いつの間にやら小学生に逆もどり 子供の姿でも頭は大人、小っちゃいなりに難事件を解決だ! なんたって真実は、いつも一つなんだから!!


名探偵コナン第11巻 (少年サンデーコミックス)です。

FILE.1 話すテーブルクロス
FILE.2 生放送中の死
FILE.3 幻の道
FILE.4 緊急推理ショー
FILE.5 大事な人!?
FILE.6 凶器のありか
FILE.7 二つの謎
FILE.8 修行の間
FILE.9 桜と壁の穴
FILE.10 宙に浮く力
の10話収録。

FILE.1は、第10巻の FILE.9~10 からの続きです。
タイトルにもなっているテーブルクロスによるダイイング・メッセージや犯人追及の手がかりとなるポイントそのものは他愛のないもののように思えるのですが、マンガによくある登場人物たちの命名を活用している点は要注目な気がします。


FILE.2~4は、テレビ局を舞台にした殺人事件を扱っています。
犯人役として松尾貴史が登場。実在のタレントで、顔も似せてありますから、ちょっとびっくり。
でも、こういうのおもしろいですよね。
半倒叙で、松尾が使ったトリックがわからないという形式になっていますので、このチェスタートンばりのトリックが売りと思われるのですが、このトリックは少々無理があるように思います。

FILE.5~7は、新一とデートに出かけるといった蘭が気になって、つけていったコナンが、待ち合わせ場所である喫茶店で巻き込まれる殺人事件。
殺人事件の方は、巧妙なミスディレクションが効いています。
それよりもなによりも、蘭のデート相手が(コナンにとって)大問題ですが、意外な着地を見せるのがおもしろい。カバー袖の作者のことばに
「コナン・ドイル、アガサ・クリスティー、モーリス・ルブラン
 名だたる推理作家の名前がキャラにはついているのに
 なぜ、エラリィ・クイーンはないんだ? と言われる…
 フッフッフッ実はとっておきのキャラ用に温存していたのさ。
 ホラ、彼女だよ。この巻でやった登場した蘭の…」
と書いてあるのが若干ネタバレ気味ではありますが、とても楽しめました。

FILE.8~10は、道に迷った毛利、蘭、コナンの三人が身を寄せた山寺で起こる不可解な殺人事件。
霧天狗という魔物が出るという山泥寺(連載されているのが少年サンデーだからでしょうか笑)。
豪快なトリックが見どころです──豪快なトリックは、だいたい無理があるもので、このトリックも無理なんじゃないかと思えるのですが、とても楽しかったのでOKです。


裏表紙側のカバー見返しにある青山剛昌の名探偵図鑑、この11巻はエラリィ・クイーン。青山剛昌のおススメは「エジプト十字架の謎」とのことです。





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伽羅の橋 [日本の作家 か行]

伽羅の橋 (光文社文庫 か 54-1)

伽羅の橋 (光文社文庫 か 54-1)

  • 作者: 叶 紙器
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2013/02/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
介護老人保健施設の職員・四条典座(のりこ)は、転所してきた認知症の老女・安土マサヲの凄惨な過去に驚く。太平洋戦争の末期、マサヲは自分の子ども二人と夫を殺したというのだ。事件の話は施設内で知られ、殺人者は退所させるべきだという議論になる。だが、マサヲが家族を殺したと思えない典座は彼女の無実を確信、“冤罪”を晴らすために奔走するが──!? 傑作本格ミステリー!


2024年3月に読んだ2冊目の本です。
叶紙器「伽羅の橋」 (光文社文庫 )
第2回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。

昭和二十年八月十四日、終戦間近の大阪を襲った大空襲のさなかに起こった事件を平成六年に解く、というストーリーで、謎解き役を務める主人公:四条典座が、猫間川とそこにかかる橋の来歴や残されていた手紙を手掛かりに、図書館での調べものや老人たちへの聞き込み、そして古い住宅地図の探索と、一歩、一歩真相に迫っていく様子を楽しむことができます。
これ、実際に作者がこの作品を書くための調べ物をこのような形で少しずつ迫っていったのでは? と思えてきます。
これが楽しい。

不可能興味の焦点は、空襲下で京橋から桃谷までどうやって二十分という短時間で移動できたか、という点にあり、103ページに地図が掲げられているとはいえ土地鑑がないとわかりづらいのが難点ですが、ハーレー・ダヴィッドソンを祖とする九七式側車付自動二輪とか暗渠とか、さらには桃谷地区を襲った水害被害まで、徐々に徐々に真相に迫っていきます。

物語のクライマックスは、阪神淡路大震災。
大阪の空襲と悲劇・惨事が二重写しに。
この中、典座が謎解きを関係者にしてみせ、細かな手がかり、ヒントを着実に回収していきます。

気になった点を挙げておきますと、視点がうろうろしてしまう点。
特に当事者の視点で物語ってしまうと、その段階で真相を明らかにすべきに思えてしまいます。あまりに作者にとって都合の良い視点の切り替えです。
心の中に踏み込まなくても、サスペンスは十二分に高まったように思うのでここは残念。
(この点以外でも視点がちょくちょく切り替わって分かりづらい箇所がところどころに)

気になる点はあるものの、戦争そして震災を背景としたイメージが強く印象に残りますし、謎を追い、解いていく楽しさにあふれた作品でしたので、また新作を発表してもらいたい作家さんです。



<蛇足1>
「制服のジャージから私服のジャージに穿き替え、〇ニクロのワゴンセールで買った、一枚五百円なりの白Tシャツを着て、スクーターにまたがった。」(122ページ)
あからさまにユニクロですが、小説の地の文で「〇ニクロ」という表記は珍しいように思います。

<蛇足2>
「元々料理をしなかった東にとって、連れ合いこそが文字通り竈神(かまどがみ)だったということかと。」(311ページ)
竈神という語自体は知っていましたが、ここのように台所を預かる主婦そのものを指す例は知りませんでした。
おもしろいですね。

<蛇足3>
「ずっと、みなさんのお話を、ドアの外でうかがっておりました。申し訳ないことでございます」(508ページ)
「申し訳ない」を丁寧にいうには、「申し訳ありません」「申し訳ございません」ではなく、「申し訳ないことでございます」である、と説いている文章を読んだことがあります。





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