ボーナス・トラック [日本の作家 か行]
<裏表紙あらすじ>
草野哲也は、雨降る深夜の仕事からの帰り道、轢き逃げ事故を目撃する。雨にさらされ、濡れた服のまま警察からの事情聴取を受けた草野は、風邪をひき熱まで出てきた。事故で死んだ青年の姿が見えるなんて、かなりの重症だ…。幽霊との凸凹コンビで、ひき逃げ犯を追う主人公の姿を、ユーモアたっぷりの筆致で描く、第16回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞の著者デビュー作。
あらすじにもありますとおり、日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を獲った作品です。
日本ファンタジーノベル大賞というのは、受賞作のリストを見ると非常に個性豊かな作品が並んでいまして、それをみるだけでも結構楽しめるのですが、ミステリというのとはちょっと違うかなぁ、という印象。
恩田陸「六番目の小夜子」 (新潮文庫) (第3回候補作)、「球形の季節」 (新潮文庫) (第5回候補作)や小野不由美「東亰異聞」 (新潮文庫) (第5回候補作)という例もあることなので、ミステリと無縁とは限りませんが、越谷オサムという作家もミステリを書いている作家という印象はあまりなく...あらすじを読む限り、やっぱりミステリ色は薄そうなのですが、でも、創元推理文庫ですから、ミステリなのかな、と淡い期待。
結論から言うと、やっぱりミステリの範疇にいれるのはちょっと無理がありそうです。確かに轢き逃げ犯を突きとめようとしますが、行き当たりばったりだし。その意味では、創元推理文庫に入れなくてもよかったのにな、という気がしなくもありません。
しかし、しかし、創元推理文庫でなければ、ぼくはこの本を手に取っていなかったかもしれません。それは、もったいない。この本を読み逃すなんて。なので、創元推理文庫から出してくれてありがとうと編集の方には言いたい。
ということなのでミステリを期待するのはダメですが、じゅうぶん楽しみました。
タイトルのボーナス・トラックは、音楽CD(アルバム)なんかにはいっている“おまけ”の曲のことで、幽霊になってしまった横井亮太にとって、生きていたころが本編で、幽霊になってからはそのボーナス・トラックだ、という比喩から来ています。
時としてボーナス・トラックが価値あるものだったりするように、亮太にとっても、幽霊になってからの時間が貴重なものであることが読者にも十分つたわって、読後感がきわめていい仕上がりになっています。
ユーモラスにすすむストーリーや登場人物たちの愉快なやりとりにも、じんと来るところがあったりして、読めてよかったです。
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