ホテル・ピーベリー [日本の作家 近藤史恵]
<裏表紙あらすじ>
職を失った木崎淳平は、鬱屈した心を抱えてハワイ島にやってきた。長期滞在型のホテル・ピーベリーは小さいけれど居心地が良く、他に四人の日本人旅行者がいた。だが、ある夜、客の一人が淳平に告げる。「楽しみにしてろよ。今におもしろいものが見られる」不吉な予感の通り、客の一人が溺死し、やがてもう一人――。様々な気候を併せ持つハワイ島の大自然と、人生の夏休みに絡め取られた人々の心の闇。巧緻な筆致で衝撃の真相へと導かれる。一気読み必至の傑作ミステリー。
近藤史恵のこの作品の舞台はハワイ。ハワイ、行ったことありません...
ワイキキのあるオアフ島ではなく、ハワイ島。
ハワイ島には、地球上の十三の気候帯のうち、氷雪気候とツンドラ気候を除く十一の気候帯すべてがあるらしいです(53ページ)。
四国よりずっと小さい島なのにすごいですね。作中でも「寒い」シーンがあちこちにあり、びっくり。
ハワイ島にある、ハワイで二番目に大きい町ヒロから車で20分くらいのところにあるホテル・ピーベリーが主舞台。
ホテル名のピーベリーというのは、コーヒー豆の品種のようです。
普通のコーヒーは、楕円形で内側に黒い線が入っていて、ふたつ一緒に莢に入っているところ、ピーベリーはころりと丸い形をしていて、莢の中に一つしか入っていない(以上113ページから115ページにある説明の要約)。
主人公である木崎の抱える葛藤(?) が、なかなか明かされないのですが(明かされるのは物語も半分過ぎたところ)、わかってみれば個人的にこれはないなぁ、と思える内容で共感できず。ではあったものの、ホテルの女主人(?) と関係を持ってしまってからの成り行きは、うじうじするけれども引き込まれましたし(殊に熱で休んでいる最中に関係を持った後、本当にセックスをしたのかどうか頭を抱えるあたり、身勝手な論理が目に付くのは気になりましたが、妙にリアル感ありました)、そのことも主人公の葛藤に結びついている(ように思われる)ところもさすが近藤史恵、という気がしました。
ミステリ的には、そんなにうまくいくかな、という犯行ですが、舞台設定には合っていると思いましたし、深夜に一人でプールで泳ぎ、「楽しみにしてろよ。きっとおもしろいものが見られる」(42ページ)なんて主人公に言う怪しげな宿泊客(青柳くん)もいい感じ。
ホテル・ピーベリーの変なルール(このホテルに客が泊まれるのは一度だけ。リピーターなし)も、しっかり謎解きに結びついていましたし(若干ネタバレかもしれませんが、ミステリでこういう変な設定をする場合には、謎解きにからめるのは当然のお作法なので、明かしてもよいと思います)、人間関係がそのまま謎解きに結びつく仕上がりはきれいだな、と思いました。
しかし、ホテル・ピーベリーみたいなところがあったとしたら、泊ってみたいか? と訊かれたら、どうでしょうねぇ???
<蛇足1>
「一歩譲って蒲生は事故かもしれない」(168ページ)
と語り手が書いていて、安直に百歩ではなく一歩となっていて日本語きちんとしているなぁ。元小学校教師という設定だからかなぁ、と感心していたら、続けて
「バイクになにか細工したり、彼に催眠薬を飲ませることができれば、事故を装うことは不可能ではない」(同)
とあって、がっかり...
「このカフェは自分の店だから愛着があって、一生懸命接客するが」(186ページ)
なんていうのもありますしね。教育者だったということに幻影を抱いてはいけませんね。
<蛇足2>
文庫カバーの写真、プールに男性が飛び込んでいる瞬間です。
なんで女性じゃないんだよー、と性差別的なことを考えてしまいましたが、たしかに女性が泳ぐシーンもあるものの、印象に残るのは謎めいた宿泊客が夜泳いでるシーンだし、これでいいのですね。
とすると、写真も夜のようですし、写真の男性は青柳くんという設定でしょうか??
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