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消えたボランド氏 [海外の作家 は行]

消えたボランド氏 (論創海外ミステリ 180)

消えたボランド氏 (論創海外ミステリ 180)

  • 作者: ノーマン・ベロウ
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2016/10
  • メディア: 単行本


単行本です。
論創海外ミステリ180。
「魔王の足跡」(国書刊行会)「本格ミステリ・ベスト10〈2007〉」第1位を獲得したノーマン・ベロウの邦訳第2作です。
今年6月に3作目となる「十一番目の災い」 (論創海外ミステリ)が訳されていますね。

メインの謎は人間消失です。
訳者あとがきから引用します。
「高い断崖絶壁の上から目撃者の目の前で飛び降りたはずの人間が、忽然と姿を消すのだ。当時、崖の下にも釣り人がいたが、何ひとつ落ちてこなかったと言う。目の前は一面の海、崖の下には大きな一枚岩、崖の途中には引っかかるような穴や裂け目などは一切ない。はてさて、どんな奇術あるいは魔術を使えば、人間をすっかり消失できるものなのか?」
すごく魅力的な謎ですね。
このあとがきには書かれていませんが、現場の状況で特筆すべきことがあります。
「それ以外は、何もかもが濃い霧にかすんでいたのだ。
 そう、濃い霧に……。
 正確に言えば、それは本物の霧ではなかった。強烈に圧縮された濃密な大気、巨大な煙霧だ。
 この季節になるとシドニーを含めた東海岸沿いに見られる現象で、この巨大な煙霧は夜明け前頃に現れ、正午には晴れる。だが、ときには一日じゅう居座ることもあり、刻一刻と濃さを増したかと思うと夜になってから、急に現れたのと同じく忽然と消え去る。それでもまた夜明けになると、新たに生まれた煙霧が取って代わることもある」(27ページ)
という状況です。
実はここを読んでちょっとびっくりしました。そんなに塵の多そうでない海沿いが舞台ですから。
普通の霧ではなく、煙霧ですか......
「シドニーを含めた東海岸沿い」ということですから、シドニーあたりでは今でもみられる光景なのでしょうか?
2013年に東京で煙霧が発生したときはとてもびっくりしたのを覚えています。
さて、その煙霧からノーマン・ベロウはトリックを考えたのかもしれませんね。

状況的に、どうやって人間消失を実現するか、と考えるとミステリを読み慣れた読者ならすぐに一つの方法が浮かぶかと思います。
とするとすぐに犯人まで特定されてしまうんですよね。
さてさて、真相はどうなのか? と予想を抱えつつ読み進むわけですが、ノーマン・ベロウ、飽きさせません。
探偵役が老俳優ベルモアで、名探偵を演じることを意識しつつ推理を進めていく、というのがおもしろいですし、場面展開も素早く、小刻みにいろいろと事件や動きが盛り込まれているので、読みやすかったですね。
また、それほど登場人物が多いわけではないのに(少なくもありませんが)、かなりプロットが錯綜しているので充実感もあります。

「魔王の足跡」の記憶がないので(読んだのは確かです!)、比べることはできないのですが、「消えたボランド氏」はすごくすっきりした作品で、読めてよかったな、と思いました。
「十一番目の災い」 が楽しみですし、ほかの作品もどんどん訳してもらえればと思います。


<蛇足1>
『「彼が、何をする前ですって?」ミス・バッグは険しい声で訊き返し、モンティには彼女がデルの発言の内容を尋ねているのか、“うっちゃる”という表現を非難しているのかがわからなかった。』(80ページ)
個人的には「うっちゃる」という表現を日常的には使わないので(また、周りの人も使いませんね。相撲で「うっちゃり」という語を耳にするくらいでしょうか)、ミス・バッグならずとも、読む際につまづいて、見返してしまいました。
「うっちゃる」かぁ、おもしろい表現を使うなぁ、と思ったのですが、原語はどうなっているのでしょうね? ふと気になりました。

<蛇足2>
「四十歳に近く、炊き付け用の薪をその上で割りたくなるような顔の“お嬢さん”は、いったん退がり」(215ページ)
な、なんという表現! 炊き付け用の薪をその上で割りたくなるような顔って、どんな顔でしょうか? 平べったい? それこそ日本人みたいに??



原題:Don't Jump, Mr. Boland!
作者:Norman Berrow
刊行:1954年
訳者:福森典子





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