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二万パーセントのアリバイ [日本の作家 か行]

二万パーセントのアリバイ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

二万パーセントのアリバイ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 越谷 友華
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/08/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
埼玉県草加市で男児の変死体が見つかった。現場付近で採取された精液のDNA鑑定の結果、16年前に同様の手口で男児を殺した坂本一寛だと判定された。しかし坂本は現在、仙台の刑務所で服役中だ。捜査一課の荒巻は捜査を進めるうち、坂本が児童養護施設で育ったことを知る。いっぽう、16年前の被害者遺族の松原は独自で犯人探しをするが――。鉄壁のアリバイに挑む不可能犯罪ミステリー。


更新に少し間が空いてしまいましたが、読了本落穂拾いを続けます。
2014年『このミステリーがすごい!』大賞隠し玉。
同じく隠し玉の影山匙の「泥棒だって謎を解く」 (宝島社文庫)と同時発売でした。
ちなみに、このときの大賞は
梶永正史「警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官」 (宝島社文庫)
八木圭一「一千兆円の身代金」 (宝島社文庫)
です。

この作品、タイトルがいいですよね。
完璧な状態で100%。完璧も完璧、絶対確実である場合に120%とか言ったりしますが、この作品は、なんと二万%!
100%からすると、それの200倍強固であるわけです。
作者の並々ならぬ意気込みと自信が伺えるというものではありませんか。

アリバイ崩しの例だと斎藤栄の「真夜中の意匠」 (徳間文庫)という作品など、容疑者が1つアリバイが崩されると別のアリバイを申し立て、それが崩されるとまた別のアリバイを申し立てる、と確か4つくらいのアリバイが用意されていた、という筋立てで、さしずめ400%のアリバイ。
でも200倍ですからね。200個もアリバイを申し立てたりはしないでしょう。
清涼院流水の「コズミック」 (講談社ノベルス)には1200個の密室が出てきますけどねぇ(笑)。

さて、どんな趣向を凝らしてくれるのか、とミステリファンとしてはわくわくします。

ところがです、蓋を開けてみると、容疑者が刑務所にいた、というだけ。
拍子抜けとはこのこと。
確かに完璧なアリバイではあるのでしょうが、ミステリ的には先例がいくつかあり、失礼ながら平凡。
二万、にも意味はありません。
「坂本には現時点で、二〇〇パーセントどころか、二万パーセントのアリバイがある。」(167ページ)
という地の文が出てきますが、何の説明もなく、単に100%を強調しているだけです。
これでは誇大広告、詐欺に近い。
では、トリックが特に優れているのだろうな、と思ったら、このアリバイを成立させるトリックがなんとミステリ的にはあまりにもお粗末なシロモノ。
よくこんなの出版したなぁというレベルでした。

吉野仁の解説によると、「もとは一種のホラーテイストを帯びていた小説」で、「刑務所に服役している男の生き霊が新たな事件を起こしたのではないか、という設定が含まれていたものの、いまひとつその設定が生かされていなかった。」「欠点を修正し、『不可能犯罪の謎』を前面に打ち出す形で刊行された」らしいです。
誰がアドバイスしたのか知りませんが、あまりにもミステリのセンスなさすぎで驚きます。

この作品は受賞作ではなく、隠し玉です。
編集者だか評論家だか知りませんが、きちんと導いてあげてほしい。
なにより、こんな作品でデビューしてしまったら作者が不幸です。
まあ、隠し玉に期待するほうが間違っているのでしょうが、それにしても残念です。


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