SSブログ

深山の桜 [日本の作家 か行]


深山の桜 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

深山の桜 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 神家 正成
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2016/03/04
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
日本から約一万二千キロ、アフリカ大陸。国際連合南スーダン派遣団の第五次派遣施設隊内では盗難が相次いでいた。定年間近の自衛官・亀尾准陸尉と部下の杉村陸士長が調査に乗り出すが、さらに不可解な事件が連続して発生する。果たして相次ぐ事件は何を意味するのか。日本から特別派遣されてきたオネエの警務官・植木一等陸尉も調査に加わり、事件の謎に挑む。『このミス』大賞優秀賞受賞作!


今回の読了本落穂拾いは、前回感想を書いた「いなくなった私へ」 (宝島社文庫)と同時に第13回 『このミステリーがすごい!』大賞の優秀賞に選ばれた「深山の桜」 (宝島社文庫)

「いなくなった私へ」と対照的に硬質。
硬質も硬質。国連平和維持活動として海外派遣された自衛隊の宿営地が舞台ですから!

本書のタイトル、「深山の桜」は「与えられた任務を黙々とこなる自衛隊員の姿を、だれも訪れない山奥で人知れずひっそりと咲く桜の花になぞらえたもの。」と解説で大森望が簡潔にまとめている通りで、自衛隊の徽章につかわれる桜星にちなんでいますね。
「忍耐の忍の字は、刃と心でできている。忍とは刃を持つ者に求められている心なの。自衛隊は日陰者でいいのよ。国を護るという日の当たらない仕事を続けるには、地道な努力を怠らず、迷いや苦しみを外に表さず、言い訳もせず、他人に理解されない戦いを最後まで続ける矜持を持たなきゃいけないの」(224ページ)と植木も語っていますが、同じ224ページに引用されている吉田茂の言葉は強烈ですね。
自衛隊のみなさまの日頃に敬意を表したくなります。

自衛隊の置かれている理不尽な環境(憲法や法律の制約)というのはよく言われていることですが、それが圧倒的なディテールに支えられて提示されるのがまずポイント。
非常に硬い印象で物語が進んでいき、”盗難事件” の緊迫感が伝わってきます。
すごくいい。
一転、後半になると、植木一等陸尉が日本から派遣されてきて、トーンが和らぎます。
一方で、宿営地をめぐる状況は一層緊迫化。植木が来なければ読者の息が詰まっちゃったかも、と思える。

犯人の行動を考えたとき、この事件は果たして効果的だったのか、もっと良い手はなかったのか、と考えてしまいましたが、読者がこういうことを考えるのも、作者の計算のうちかもしれません。
ミステリ的な仕掛けという点では注目を集めることはないかもしれませんが、満足しました。
神家正成、注目したくなりました。


<蛇足1>
本書冒頭、自衛隊に送られた脅迫状メールの末尾が
「懸命なるご判断をなされることを心より願っております。」(77ページ)
となっています。
"賢明なる" の誤植であろうと思いますが、自衛隊のおかれている境遇に鑑みると、"懸命なる" でもよいのかも、などと思ったりもしました。

<蛇足2>
「ケ・セラ・セラ」という語について登場人物が語るシーンがあります。
「なるようになる。けれどそれは、どうにでもなれ、などという、決して風任せの日和見的な言葉ではなく、こうなるはずのものは、こうなる--。自分の意志こそが物事に意味を与えるものなのであり、自分が信じるようになる--という意味と自分はとらえています。決して他人任せの見責任な言葉ではありません。」(195ページ)
「ケ・セラ・セラ」は、単純に「なるようになる」と解釈していましたが、セットの英語 Whatever will be, will be からすると、この登場人物のいうようにとらえるほうがニュアンスとしては近いのかな、と思えてきました。

<蛇足3>
「一九八九年に制式採用された八九式5.56ミリ小銃(ハチキュウ)」(184ページ)
「制式」に、ん?、と一瞬思いましたが、すぐに、そうだった、正式ではなくて制式だった、と思い出しました。

<蛇足4>
「油圧ショベル」という語が185ページに出てきます。
ショベルにも大小いろいろなものがありますが、ずっと子供のころから、シャベルだと思っていました。
ショベルのほうが一般的なようで、JISも表記はショベルらしいです。
wikipedia によると、どちらも使うようですね。
英語では shovel 。スペルからショベルが正しいと思われがちですが、発音はシャベル、なんですよね......




nice!(14)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 14

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。