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サンキュー、ミスター・モト [海外の作家 ま行]


サンキュー、ミスター・モト (論創海外ミステリ)

サンキュー、ミスター・モト (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2015/01/07
  • メディア: 単行本

<帯>
その男の名はミスター・モト
戦火の大陸を駆け抜ける日本人特務機関員。映画化もされた人気シリーズの未訳長編。待望の邦訳!
チャーリー・チャンと双璧をなす東洋人ヒーローの活躍。


単行本です。
論争海外ミステリ137

ずっと読んでみたかったんですよね、ミスター・モト。
古いアメリカの作品なのに(第二次世界大戦前です)、日本人が主人公の作品、興味湧くでしょう?
「天皇の密偵―ミスター・モトの冒険」として長編第四作が角川文庫から出ていたことがあるようですが絶版で、手に入りません。
2014年に論創社から本書の翻訳がでて、ようやく念願かないました。

主人公はミスター・モト、ではありません。
若きアメリカ人、トム・ネルソンですね。弁護士でしたが、やめて北京で暮らしています。悠々自適っぽい。
ヒロイン、エレノア・ジョイスも設定されていまして、ボーイ・ミーツ・ガール物語でもあります。
ミスター・モトは、若い主人公を教え、諭す役割を担っているようです。
あと、ピンチに陥ると都合よく助けてくれる(笑)。

カリカチュアではあるのですが、さまざまな人種が入り乱れる当時の北京の状況が生き生きと描かれていました。
分類するとなるとスパイものに入れるのかな、と思えましたが、活劇調ではありませんし、かといってル・カレのようなシビアな感じでもない。
どことなくのどかな感じ。
ちょっと違うのですが、あえて探すのならば、クリスティのスパイものが近いかも。
緊迫感のあるはずの展開でも、どことなくおっとりとした気分。

しかし、ミスター・モト、格好良くないんですよ。
「彼は小柄でどちらかというとずんぐりとした日本人で、仕立ての良い服を身につけていた。」(12ページ)
「前歯の金充填は、彼が笑うたびに日光を反射してぎらぎら光った。」(63ページ)
「ミスター・モトのしゃべる英語はやかましく、アクセントが変なので、イライラした。」(64ページ)
「今でもはっきりと、ミスター・モトの顔にあたっている光が、勤勉でかつ用心深い彼の細い目を照らし出し、ずんぐりした鼻が脇のコーヒー色の頬の上に影を作っているさまを、思い出すことができる。しかも彼は笑っていた。これは日本人特有の奇妙な反応で、思いもよらないときに歯茎をむき出しにして、ばかばかしいお笑いに転じさせてしまうのだ。」(101ページ)
最初の部分から抜き出すだけでも、こんな感じです。
また、なにかというと「申し訳ございません」という冴えないありさまで、冴えない外見から鋭い推理を放つとか、快刀乱麻を断つとかいうわけでも、武術に秀でているわけでもない。
映画化もされて人気を博したキャラクターとはとても思えません。
不思議です。
もっとも、それだけにラストもラスト、最終ページで明かされるモトの行動は強い印象を与えますが。

どうもこの「サンキュー、ミスター・モト」 (論創海外ミステリ)だけでは、ミスター・モトの魅力がつかみきれませんでした。
KADOKAWAさん、復刊お願いします!


<蛇足1>
「君はこの法律事務所の最も優秀な若手共同経営者だった。」(57ページ)
トムがアメリカから受け取った手紙の一節です。
トムはとても若いように思われたので、「共同経営者」というのに驚いてしまいました。
そして気づきました。これ、法律事務所によくある partner の訳なんですね。
なるほど、パートナーといえば確かに共同経営者ということになるのかもしれませんね。

<蛇足2>
「クラブこそが、僕が求めていた答えだった。―― 略 ――クラブはまさにイギリスものもので、カナダの荒野からシンガポールのゴム農園まで、ありとあらゆる辺境をイギリス領としていった植民者の開拓能力を称える貢物であった。―― 略 ――そこに入れる人種は制限されていた。アングロ・サクソン人種の牙城であり、かつてキップリングが唱えていたような、いささか時代遅れの帝国の雰囲気に満ちていた。ヨーロッパ人だけという気楽さが、まだここには存在していた。」(92~93ページ)
アメリカ人も、ヨーロッパ人なんでしょうか?
当時の状況からして人種的にはアングロ・サクソンなのでしょうが、ヨーロッパ人というのは不思議ですね。
(さらにいうと、イギリス自体がヨーロッパかどうかという議論があり、一層複雑ですが(笑))

<蛇足3>
「東洋は非情な土地で、死人が出たというニュースも、その静謐を揺るがすには、あまりに冷淡過ぎた。」(95ページ)
この文章すぐには意味をとりかねました。

<蛇足4>
『ゲームが終了したときには、クロウ大尉は僕に三十ドル負けていた。ここで僕はまた拳銃を思い出した。そしてあることを思いつき、思わず口に出してしまった。
「拳銃をくれれば、チャラにしてもいいよ」』(95ページ)
三十八口径のピストルなのですが、30ドルというのは高いのか、安いのか、さっぱりわかりませんが、なんとなく気にかかりました。



原題:Thank you, Mr. Moto
作者:John P. Marquand
刊行:1937年
訳者:平山雄一




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