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パラダイス・ロスト [日本の作家 柳広司]


パラダイス・ロスト (角川文庫)

パラダイス・ロスト (角川文庫)

  • 作者: 柳 広司
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/06/21
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大日本帝国陸軍内にスパイ養成組織“D機関”を作り上げ、異能の精鋭たちを統べる元締め(スパイ・マスター)、結城中佐。その正体を暴こうとする男が現れた。英国タイムズ紙極東特派員アーロン・プライス。結城の隠された生い立ちに迫るが……(「追跡」)。ハワイ沖の豪華客船を舞台にした初の中篇「暗号名ケルベロス」を含む全5篇。世界各国、シリーズ最大のスケールで展開する、究極の頭脳戦! 「ジョーカー・ゲーム」シリーズ、待望の第3弾。


「ジョーカー・ゲーム」 (角川文庫)(感想ページはこちら
「ダブル・ジョーカー」 (角川文庫)(感想ページはこちら
に続くシリーズ第3弾です。

このシリーズの大ファンなので、読めただけでも大満足なのですが、作品も快調なので言うことなし、です。
そういえば先日読んだ岡田秀文「海妖丸事件」 (光文社文庫)の解説で宇田川拓也が、この「パラダイス・ロスト」 (角川文庫)収録の「暗号名ケルベロス」を、船上の事件を扱ったミステリとして紹介していましたね(感想ページはこちら)。

4話収録なのですが、いずれもスパイの騙し合いが知的ゲームとして展開されています。

「誤算」は、パリを舞台にレジスタンスを背景に(前面に?)した作品です。
最後のD機関員のセリフ
「但し、次はもう少し骨のある任務をお願いします。」
というところでニヤリとはしますが、「誤算」で描かれている今回の任務、想定に反して(D機関員としてはこれすら想定の範囲内と言わねばならないのでしょうが)難度が非常に高い物だったように思います。

「失楽園」はシンガポールのラッフルズ・ホテルが舞台ですね。
恋人が殺人容疑で逮捕されてしまった米海軍士官の視点で描かれますので、さて、誰がD機関員なのか、を探す楽しみがあるのかな、と思いつつ読んだのですが、そういう狙いの作品ではありませんでした。
殺人事件の真犯人を突き止める、というストーリーの裏に、D機関員の活躍が忍ばせてあるのが、最後に浮かび上がってくる、という流れを堪能しました。

「追跡」は、日本が舞台です。
英国タイムズ紙極東特派員プライスの視点で描かれます。
プライスが取材しようとしている対象がD機関、しかも結城大佐というのですから、豪儀ですね。
相手が結城大佐というだけあって、周到な仕掛けがあるのですが、しかしなぁ、結城大佐って、そんな前からこういう事態を想定していたのでしょうか? 驚くばかりです。

最後の「暗号名ケロべロス」は前篇、後篇に分かれていますが、分ける必要がよくわかりませんでした。
サンフランシスコから横浜へ向かう《朱鷺丸》という豪華客船が舞台です。
一九四〇年六月という時期で、ドイツがポーランドに侵攻し世界大戦がはじまったのが、前年九月で、日本が未だアメリカと開戦していないタイミングです。
“中立国”であるアメリカから、“中立国”である日本籍の船に、ドイツ人が乗っていて、危険な大西洋航路を避け、太平洋をぐるっとまわって母国に帰ろうとしている。
そこへイギリスの軍艦が近づいてきて威嚇。そのさなか、船上で殺人事件が発生。(この段階で被害者の正体は明かされているのですが、エチケットとして伏せておきます)
ここまでが前篇です。
後篇に入って、イギリスの士官が乗り込んでくると同時に、殺人事件の真相究明が行われます。
ここでもD機関員のすごさが発揮されます。
前篇のオープニングで描かれる船の襲撃シーンが、頭を離れないので、非常にスリリングな物語になっていました。

シリーズ第4作「ラスト・ワルツ」 (角川文庫)もすでに文庫化されています。
ラスト、とつくくらいなのでシリーズ最終作なのでしょう......そのあとは出ていませんので。


<蛇足>
「極めつけは二本の釣り竿だ。」(59ページ)
これ、正しくは「極め付き」で「極めつけ」は間違いだと聞いたことがあります。柳広司にしては手抜かりですね。
なお、この文章、作中ではおもしろい意味が込められていまして、ニヤリとしました。




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