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宝石商リチャード氏の謎鑑定 [日本の作家 た行]


宝石商リチャード氏の謎鑑定 (集英社オレンジ文庫)

宝石商リチャード氏の謎鑑定 (集英社オレンジ文庫)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2015/12/17
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
酔っ払いに絡まれる美貌の外国人・リチャード氏を助けた正義(せいぎ)。彼が国内外に顧客をもつ敏腕宝石商と知り、誰にも言えない曰くつきのピンク・サファイアの鑑定を依頼する。祖母が死ぬまで守っていたその宝石が秘めた切ない“謎”がリチャード氏により解かれるとき、正義の心に甦るのは……? 美しく輝く宝石に宿る人の心の謎を鮮やかに解き明かすジュエル・ミステリー!!


ここから2021年9月に読んだ本の感想に移ります。
さいきん流行りのキャラ・ミスというやつでしょうか。
割と書店でシリーズが山積みにされていて気になっていましたので手に取りました。

Case1 ピンク・サファイアの正義
Case2 ルビーの真実
Case3 アメシストの加護
Case4 追憶のダイヤモンド
extra case ローズクォーツに願いを

という構成の連作短編集です。

引用したあらすじにジュエル・ミステリーとあり、タイトルにも謎という語が使われていますが、ミステリーとして読むのは酷な気がしました。
あえていうなら、日常の謎になるのかな、とは思いますが、あまりにもミステリとしては薄味です。
作者もミステリーを書こうとはされていないのではないかと思います。

それよりも、主人公である正義と、雇い主となる美貌の(男です)宝石商リチャード氏の関係に焦点が当たっていると思われます。
BL(ボーイズラブ)のテイストが軽くしています。
リチャード氏の一方的な片想いのような感じになっており、正義はまったく気づいていない(さらには女性ー岩石屋!ーに恋心を抱いている)という構図で、こういうの定石なのかもしれませんね。

いわゆるLGBTを扱っている作品も入っています。
「あなたの友達で、同性のパートナーと一緒に暮らしている人はいる? 多分いないでしょう。差別とか風当りとか、そういう問題だけじゃなくてね、こういうのは砂漠の真ん中で家庭菜園やるみたいなしんどさがあるのよ。何で私だけ、他の人がしなくていい苦労をしなくちゃいけないのって。こういうの隣の芝生って言うのかしらね。」(132ページ)
安易に「わかる」というのがよくないテーマではありますが、このセリフは蒙を啓く感じがします。
この人物は当時に別の興味深い論点も提供してくれています。
「真美さんは、彼女の家の教育方針のことを聞かせてくれた。『他人に迷惑をかけないこと』。『無用に目立たないこと』。普通に生きて、普通に学校に行って、普通に結婚して、普通に子どもを産んで、普通に育てて、普通に歳を取る。それが一番苦労せず、目立たず、楽に生きる方法なのだと。」(133ページ)

ところで、このリチャード氏という言い方、わざとだと思いますが、変ですね。
リチャード氏の名前は、リチャード・ラナシンハ・ドヴルビアン。イギリス国籍という設定です。
氏という敬称は姓につけるものなので、ドヴルビアン氏というべきで、リチャード氏というのはおかしいですね。
(同姓がいる場合に区別するためファーストネームの方に氏をつけることはありますが)

シリーズは好調でもう10冊以上出ているのですね。
続きを読むかどうか、迷っています。


<蛇足1>
「遠い外国の昔話ではなく、六十年代の東京の話だ。」(27ページ)
主人公である正義の祖母の話のところで出てくるのですが、60年代というのはちょっと計算ミスなのではないかなぁ、と思ってしまいました。
復員兵と結婚し三人の子供を産んだのち離婚、掏摸をして生計をたて娘を育てた、というのですが、
「もはや戦後ではない」と書かれたのが1956年度の『経済白書』の序文。
もう10年ずらした方がよかったのでは?
でもそうすると主人公との年齢差が合わなくなりますかね?

<蛇足2>
「ちょっとナルシストで嫌味なところはあるが、おかげで俺の大学生活はバラ色になりそうだ。」(96ページ)
上司であるリチャード氏を引き合いに出す場面なのですが、正しくは「ナルシシスト」ですね。
日本語ではこの作品のように「シ」が一つ落ちて「ナルシスト」とされることが多いですが。









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