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江戸萬古の瑞雲 [日本の作家 な行]


江戸萬古の瑞雲 多田文治郎推理帖 (幻冬舎文庫)

江戸萬古の瑞雲 多田文治郎推理帖 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 鳴神 響一
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/12/06
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
祝儀能殺人事件を解決した労を称えられ、稲生下野守から茶会に誘われた多田文治郎。世に名高い陶芸家・沼波弄山が主催する茶会は趣向を凝らした宴席へと続いたが、山場となった江戸では珍しい「普茶料理」の最中、厠に立った客が何者かに殺される。犯人は列席者の中に? 手口は? 文治郎の名推理が始まった。人気の時代ミステリ、待望の第三弾!


「猿島六人殺し 多田文治郎推理帖」 (幻冬舎文庫)(感想ページはこちら
「能舞台の赤光 多田文治郎推理帖」 (幻冬舎文庫)(感想ページはこちら
に続くシリーズ第三作です。

今回も限られて容疑者の中で展開する本格ミステリになっており、楽しめます。
これまでの三作の中ではいちばんおとなしい謎ですが、細かな犯行の段取りが合理的にできていて納得感アップです。

知らなかったのですが、沼波弄山という陶芸家は実在の人物なのですね。
このことを知っていれば、新井白石も出てきますし、虚実入り混じった作者の技巧をもっと強く楽しめたのかもしれません。
ラストの処理でもわかりますが、シリーズ登場人物たちの関係性もこなれて来て、あうんの呼吸で事態を捌いてみせます。

シリーズの今後に期待、なのですが、現在のところ続刊は出ていないようです。
シリーズをたくさん抱えておられる鳴神響一なので、ご多忙なのだと思いますが、時代物に大胆な謎解きを盛り込んだこのシリーズも、ぜひぜひ続けていただきたいです。


<蛇足1>
「あたしが一所懸命おつとめに励んでいるのは、先生に喜んでほしいからなのに」(137ページ)
今となっては少数派と思われる由緒正しい日本語「一所懸命」が使われていますね。
うれしい限りです。

<蛇足2>
「なるほど、重縁か。金持ち同士は円がつながるものなのだな。」(145ページ)
「重縁」という語を知りませんでした。
親戚/婚姻の関係にある家と重ねて婚姻・縁組を行うことをいうのですね。

<蛇足3>
『「貧の盗みに恋の歌……」
 文治郎は考えに行き詰ったときに口にする言葉をつぶやいた。
 貧しさに耐えられなくなれば盗癖のない者も盗みを働くし、恋に迷えば歌心のない者も歌を詠む。追い詰められればどんなことでもする、人という生き物の悲しい性をよくあらわしたことわざである。』(189ページ)
なるほどねー。
ただ、盗みと恋の歌の並列具合にちょっと違和感のあることわざですね。





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