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三冠馬 バラの脅迫状 [海外の作家 か行]


三冠馬: バラの脅迫状 (二見文庫 ブ 3-2 ザ・ミステリ コレクション)

三冠馬: バラの脅迫状 (二見文庫 ブ 3-2 ザ・ミステリ コレクション)

  • 出版社/メーカー: 二見書房
  • 発売日: 1988/10/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
競馬界では三大クラシックレースのひとつ、ケンタッキーダービーが間近となり、有力馬の馬主たちは盛大なパーティを催して前景気をあおっていた。そんな折、謎の脅迫状が馬主たちに送りつけられ、最有力馬の馬主が刺殺されるという事件が起きた。三大クラシックの実況放送のためにケンタッキー州ルイビルを訪れていたレース・アナウンサーのジェリー・ブローガンは事件解明のために調査を始めるが……注目の競馬ミステリ、第2弾!


2024年2月に読んだ10冊目の本です。
ジョン・L. ブリーンの「三冠馬: バラの脅迫状」 (二見文庫 ザ・ミステリ コレクション)
積読本サルベージですね。
奥付を見ると(といっても二見 ザ・ミステリ・コレクションなので、書いてある場所はカバーなんですが)1988年11月25日。昭和だ!

「落馬: 血染めの勝負服」 (二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション)に続く競馬シリーズの第2弾──なんですが、この2作で翻訳は止まってしまっていますね。
「落馬: 血染めの勝負服」も読んでいるはずですが、まったく覚えていません。ただ、続けてこの「三冠馬: バラの脅迫状」買っているので面白かったのでしょう。
このころ、ディック・フランシス以外の競馬ミステリーがいくつか訳されていたなぁ、と思い出しました。

ジョン・L・ブリーンは、アメリカのミステリ作家・評論家で、そういえば「巨匠を笑え」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)というパロディ短編集が訳されていました。こちらも読んでいます(こちらは確実に読んでいます)。

そういう作者の属性からか(?)、ミステリに出てくる名探偵の名前がところどころに出てきて楽しめます。
「このくそまじめな(そしておそらくたいへん有能な)刑事が、自称ピーター・ウィムジー卿を我慢して受け入れるとは思われない。」(81ページ)
「私はあんたのことをシャーロック・ホームズだとは思っちゃいないよ」(85ページ)
「いいかい、またエラリー・クイーンの真似をしているようだが、何も正確に説明してほしいとは言っていないよ。」(87ページ)
「モートン刑事は、あなたのことも話してくれましたよ。自分がマイク・ハマー(ミッキー・スピレーンの探偵小説の主人公)だと思っている競馬アナウンサーだとね」(165ページ)
「ぼくは、そんなこと考えていませんよ、自分がマイク・ハマーだともピーター・ウィムジー卿だとも……」(165ページ)
「おまわりさんのお友だちが、あんたがエラリー・クイーンのパロディをやるのを喜ばないからといって、あたしにあたるのはやめてちょうだい」(226ページ)

ただこういう名前がでている名探偵たち(マイク・ハマーはずいぶん違うところから持ってきていますが)の活躍した小説群とは違い、非常に活動的な謎解きになっています。
オールドローズバッドと署名された脅迫状。
オールドローズバッドというのは1914年のケンタッキーダービーに優勝した名馬の名前。ここから副題の「バラの脅迫状」というのがきています。

アメリカ競馬の三大クラシックレース=ケンタッキーダービー(バラの競走。ルイビルのチャーチルダウンズ競馬場)、プリークネスステークス(ミドルジュエル[中の宝石]。バルチモアのピムリコ競馬場で開催)、ベルモントステークス(ニューヨークのベルモント競馬場で開催)を舞台に、競馬界の様子がしっかりと描かれていて興味深い(と競馬の素人として思いました。詳しい方だと違う感想かもしれません)。主人公は競馬のアナウンサーなので、探偵役にうってつけですね。

事件そのものはミステリとして大きく取り上げるほどの仕掛け等はないように感じましたが、スピーディーな展開で、こういう軽くて肩の凝らないミステリでコージー以外のものも、もっとちょくちょく訳してほしいです。


<蛇足1>
「ルートトラック運転手の常店のような気安さがある」(7ページ)
常店が分からず調べましたが辞書には載っていないようですね。でも、意味は常宿を連想してなんとなくわかります。きっと「じょうみせ」と読むのでしょうね。違うかな?

<蛇足2>
「先にやっててくれないか。ジェット症候群にかかってるんだ」
「ロサンゼルスから、バルチモアまでくらいでか? 来いよ」(155ページ)
通常日本語では「時差ぼけ」といいますね。
ロサンゼルスとバルチモアの時差は3時間なので、時差ぼけになるような距離ではありませんね......


<蛇足3>
「この館のアンテナではイギリス放送協会(BBC)しか入りません。」(217ページ)
この当時ケーブルTVや衛星はなかったでしょうから、いわゆる地上波放送しかない頃、BBCしか入らないアンテナということは、放送局ごとにアンテナを設置しなければならなかったのでしょうか。
かなり不便な仕組みですね。


原題:Triple Crown
著者:John L. Breen
刊行:1985年
訳者:神鳥統夫








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櫻子さんの足下には死体が埋まっている [日本の作家 あ行]


櫻子さんの足下には死体が埋まっている (角川文庫)

櫻子さんの足下には死体が埋まっている (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/02/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
北海道、旭川。平凡な高校生の僕は、レトロなお屋敷に住む美人なお嬢様、櫻子さんと知り合いだ。けれど彼女には、理解できない嗜好がある。なんと彼女は「三度の飯より骨が好き」。骨を組み立てる標本士である一方、彼女は殺人事件の謎を解く、検死官の役をもこなす。そこに「死」がある限り、謎を解かずにはいられない。そして僕は、今日も彼女に振り回されて……。エンタメ界期待の新人が放つ、最強キャラ×ライトミステリ!


2024年2月に読んだ9冊目の本です。
太田香織の「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」 (角川文庫)
かなり人気のシリーズのようで本屋さんにいっぱい並んでいますね。
この感想を書いている時点で18冊(!)出ているようです。
そのシリーズ第1作。
2012年2月から3月にかけてE★エブリスタで発表されていたもののようで、キャラミスと呼ばれたりしているようです。

ライトミステリと書かれていまして、軽くすらすら読めます。
ちょっと頼りなくも思える語り手の男性(たいてい若い。この作品は高校生)と、一風変わった性格(?) をしている女性探偵役という組み合わせ。
このところ多いフォーマット通りの作品で新鮮味はまったくありませんが、書かれていた当時はまだ今ほどはびこっていなかったのでしょうね。
ただ、フォーマット通りといいつつも、よくある”日常の謎”系ではなく、殺人事件など死にまつわる事件を扱っているところがポイントかと。
なにしろ、女性探偵役であるお嬢様、タイトルにもなっている九条櫻子さんの趣味はなんといっても骨、ですから。
これに関連する蘊蓄が数多く披露されることもポイントとしてあげておいた方がよいかもしれません。
「国からの予算は限られているので、検死する度に大学側は赤字になるんだ。死体一体の正確な死因を割り出すのにかかる費用は大体二十万前後だ、場合によってはそれ以上にもなる。だが国から下りてくるのはたった七万円だよ。真実を解明するという、彼らの正義感と善意に依存している部分も多いんだ」(159ページ)
なんて、勉強になります。

もう一つ、語り手の男子高校生の語り口が、爺くさいこと。
「驚いている僕らに、『山路です』と名乗った巡査さんは、年齢は三十代のまだ若々しい青年で、」(139ページ)
なんて、高校生が三十代の警官をつかまえて「若々しい青年」など言わないでしょう(笑)。
それ以外にも、会話文は極めて現代的というか今風であるのに対し、おっと思うようなクラシックな語や言い回しが出てきます。
こういうミスマッチは、下手をすると文章がぎくしゃくしてしまって読みづらくなるところですが、読みにくくはありませんでした。
個性的なリズム感をお持ちの作家なのだと思います。

舞台が旭川で、旭川の場所や様子があれこれと盛り込まれているところも楽しかったですね。

『真実っていうのは骨に似ている。皮膚と脂肪と肉の中に隠されていても、ちゃあんとその奥で、全部を支えているんだ。物事にはどんな時もちゃんと理由と関連があるんだよ。生き物の身体に骨と筋肉があるようにね。』(38ページ)
櫻子が、唯一尊敬している叔父さんに言われた言葉として紹介されているセリフですが、櫻子さんの趣味が骨というのも、ミステリにはふさわしいのかもしれません。
ミステリで骨というと、やはりアーロン・エルキンズのギデオン・オリヴァー教授シリーズ(名づけてスケルトン探偵シリーズ)ですが、現代風に日本風に軽やかにアレンジされていると捉えるのかな?

謎解き要素が軽めなのはミステリ好きとしては物足りないのですが、苦い現実をしっかりさらしているところとか、あちらこちらで尖った部分が気になるシリーズのようです。


<蛇足1>
「人間の頭蓋骨(とうがいこつ)の一部だ。」(134ページ)
一般的には ”ずがいこつ” と読みますが、専門用語としては "とうがいこつ" と読むのですね。

<蛇足2>
「何故と言われても、ディアベル閣下の歌声に優る美声はないし、聖鬼Mk-IIを越えるバンドはこの世に存在しないからに決まってるじゃないか」(167ページ)
あきらかに、聖飢魔Ⅱをイメージしていると思われるのですが、聖飢魔Ⅱやデーモン閣下という名前を使うことはできなかったんでしょうか? あるいは作者は実在の固有名詞的なものは使わないようにするという小説作法の持ち主なのか?

<蛇足3>
「裏側に『ナナ』と書かれた横に0164から始まる、十桁のかすれた数字が並んでいる。」(172ページ)
十桁に「じっけた」とルビが振られています。
正しくはここにある通り「じっけた」であることは承知しているのですが、ついいつも「じゅっけた」と読んでしまいます。









タグ:太田香織
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映画:デューン 砂の惑星PART2 [映画]

デューン 砂の惑星PART2.jpg


映画「デューン 砂の惑星PART2」の感想です。
前作「DUNE/デューン 砂の惑星」の感想を書いていなかったことに今さらながら気づきました。

いつものようにシネマトゥデイから引用します。

---- 見どころ ----
『メッセージ』などのドゥニ・ヴィルヌーヴが監督、『君の名前で僕を呼んで』などのティモシー・シャラメが主演を務め、フランク・ハーバードの小説を映画化したSFの第2弾。宇宙帝国の統治者である皇帝に命を狙われる主人公が、惑星デューンの砂漠に暮らす先住民フレメンの女性らと共に反撃を開始する。ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソンなど前作の出演者のほか、オースティン・バトラー、フローレンス・ピュー、レア・セドゥなどが共演に加わる。

---- あらすじ ----
その惑星を支配する者が、全宇宙を制すると言われる砂の惑星デューン。宇宙帝国を統べる皇帝とハルコンネン家に命を狙われるポール(ティモシー・シャラメ)は、先住民フレメンのチャニ(ゼンデイヤ)と共に数奇な運命に翻弄(ほんろう)されながらも、皇帝とハルコンネン家への反撃に立ち上がる。


前作で父(家長)を殺されて井下ている主人公ポールと母が、砂漠の民フレメンと立ち上がる物語。
一行でいうとこういう話です。

前作「DUNE/デューン 砂の惑星」を観てからわりと時間が経っていますが、予習せずに観ました。
それでも幸いなことに、すぐに物語の大枠は思い出せました──まあ、単純ですから(少なくともここまでは)。

166分という長い映画ですが(映画館の区切りだと予告編や広告も含めてになるので3時間でした)、矢継ぎ早にいろんなエピソードが盛り込まれ、次から次へと。
あまりにも展開が早く思えたので、ひょっとしてシリーズ完結かな、と途中で誤解してしまったくらい。
盛りだくさんかつスピーディーな展開なので、まったく退屈せずに観終わりました──物語の緩急のつけ方はあまり好みではなかったんですけどね。

ポール側の視点に比べると、敵対勢力となる皇帝サイドの場面はそれなりに時間はとってあるものの、語られる内容自体はつまみ食い気味で超駆け足。
ポールとチャニの、ボーイ・ミーツ・ガール物語もさらっと(相応に時間も取られているのですが、全体の配分と物語量の多さから、そう感じてしまうのです)。
物語としてのバランスは悪いように思いましたが、そのぶん、映像の迫力で補う、というところでしょうか。

この種の物語は、壮大であっても、ストーリーの基本は単純なものの方がよいような気がしていますので、この映画シリーズは王道なのでしょう。
しっかりした原作のおかげかも──といいつつ未読ですが。

それにしても、砂漠がとても、とても美しい。
人間にとって厳しい環境というのは美しいのですね。

続編が必ず作られると思います。絶対観たいですね。


製作年:2023年
製作国:アメリカ
原 題:DUNE: PART TWO
監 督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
時 間:166分

<2024.4.3>
ポスターの画像を追加しました。

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