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マインド・クァンチャ [日本の作家 森博嗣]


マインド・クァンチャ - The Mind Quencher

マインド・クァンチャ - The Mind Quencher

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/04/24
  • メディア: 単行本




単行本です。
〈ヴォイド・シェイパ〉シリーズ第5作目で、シリーズ最終作のようです。
前作「フォグ・ハイダ - The Fog Hide」 (中公文庫)のときには、作者のHP(だと思われます)に
「シリーズは5冊で完結しそうにない、というのが今のところの印象です」
と書いてあったので、油断していましたが、単行本を買ったときに、HPを見てみると、「マインド・クァンチャ」 のところに、
「シリーズ5作めです。当初予定していたストーリィはここまででしたので、これでシリーズ完結としても良いと思っています。次も書くかどうかは、まだ決めていません。お話は、またも山の中で展開します。主人公が強さを求めるとき、欠けていたものが偶然にも手に入ります。カバーは、満を持しての桜です。もちろん、『桜にして下さい』と僕が依頼してこうなりました。それでも、その桜がまた想定外に綺麗でした。シリーズもこれで終わりにするのが、綺麗かもしれません」
と書いてあって、終わるのかなぁ? と思っていたら、先日、シリーズ全体について
「単行本が5巻で完結」
と書いてあるではありませんか。
シリーズの世界観に馴染んだところで終わっちゃったなぁ。

この第5巻 は、ゼンが闘いに負けるところからスタートします。
滝から落ちて記憶を亡くし、山奥で姉弟に助けられて生きていた。
いつものゼンの思索の世界が拡がります。
そしていくつかの戦いを経て、都へ。

でも、作者の言う通り、ここで終わりというのが綺麗かもしれません。
主人公ゼンは、なにもないところからスタートし修行を積み(?)、ついに都へやってくる。
そこでは大きなものを得たけれど、逆に失ったものもある。失ったものを得るためには、大きなものを失うこととなる。
乱暴にまとめてしまうと、こういうことで着地を見せているわけですから。
静謐な世界観にずっと浸っていたいという気にさせるシリーズでしたが、この世界観が変容することなくぴたりと着地したので、これでよし、ということかと思います。


P.S.
「尊い方を、名前ではお呼びできません」(296ページ)なんて、当たり前のことですが忘れている人が多いことをさらっと書いているのも、やはり素晴らしい。


タイトル 単行本 文庫本
1 ヴォイド・シェイパ ヴォイド・シェイパ ヴォイド・シェイパ - The Void Shaper (中公文庫)
2 ブラッド・スクーパ ブラッド・スクーパ - The Blood Scooper ブラッド・スクーパ - The Blood Scooper (中公文庫)
3 スカル・ブレーカ スカル・ブレーカ - The Skull Breaker スカル・ブレーカ - The Skull Breaker (中公文庫)
4 フォグ・ハイダ フォグ・ハイダ - The Fog Hider フォグ・ハイダ - The Fog Hider (中公文庫)
5 マインド・クァンチャ マインド・クァンチャ - The Mind Quencher 未刊














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暗闇・キッス・それだけで [日本の作家 森博嗣]


暗闇・キッス・それだけで Only the Darkness or Her Kiss

暗闇・キッス・それだけで Only the Darkness or Her Kiss

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2015/01/26
  • メディア: 単行本


<裏表紙側帯あらすじ>
大学在籍中にコンピュータのインタプリタを作製、休学してソフトウェア会社を創 業、1980年代にコンピュータ業界で不動の地位を築いた、IT史上の伝説的存在ウィ リアム・ベック。会長職を譲り、第一線から退いたウィリアムは現在、財団による 慈善事業に専念している。探偵兼ライターの頸城悦夫は、葉山書房の編集者兼女優 の水谷優衣から、ウィリアムの自伝を書く仕事を依頼され、日本の避暑地にある彼 の豪華な別荘に一週間、滞在することになった。
ところが、頸城は別荘で思いもかけない事件に遭遇する。警察が手がかりをつかむことができない中で、さらなる 悲劇が--。取材のために訪れた頸城は、ベックの自伝執筆の傍ら、不可 思議な事件の真相をも追究していく。果たして、その結末は?


単行本です。
「ゾラ・一撃・さようなら」 (集英社文庫)に続き、頸城悦夫が登場します。
作者のHPには、「ゾラ・一撃・さようなら」について、
「いつかはハードボイルドを書いてみたいという気持ちがあって、ようやくそれが書けた、というのがこの作品です。日本を舞台にしたハードボイルドは無理だと思っていましたが、そろそろ書けそうなくらい日本が豊かになった気がします。」
と、この「暗闇・キッス・それだけで」 には、
「7年半もあいてしまいましたが、ようやく第2作が書けました。日本も豊かになったので、ハードボイルドが書けるようになった、と前作で思いましたが、やはりまだ少し足りないかも、と感じて、主要な登場人物を外国人にしました。これだけで、ずいぶん書きやすくなりました。第3作は、なるべく早く書くつもりです。」
と書かれています。
ハードボイルドと国の豊かさというものの関連が個人的にはぴんと来ないのに、なんとなく森博嗣が書くとそんなものかと思えてしまいます。ハードボイルドというのは(一部のハードボイルドは、というべきかもしれません)、ある意味スタイリッシュであることを目指すものでもあるので、そのためには土台に豊かさが必要ということかな? 豊かでなければ、スタイリッシュもへったくれもないですよね、生きていくのに精いっぱいで。
でも、豊かでない国や地域を舞台にしたハードボイルドも世界には数多くありますね。

ハードボイルドの定義次第、なのかもしれませんが、もともと森博嗣の筆致はハードボイルドっぽくないでしょうか?
また、減らず口、というのとは違いますが、独特の切り口の会話も、雰囲気があるように思います。

さて、というわけでハードボイルドらしさを出すため(?)、、この作品はビル・ゲイツを思わせる超お金持ちの家族が登場します。
金持ちならではのトリックとか出てくると楽しいなぁ、と思いながら読みましたが、ミステリとしては平凡な着地
ですね。

しかし、主役の頸城悦夫って、森ミステリィには珍しいキャラですね。
恋愛する男性キャラって、あんまりいないですよね。
珍しいシリーズになると思うので、今後にも期待です。

いろいろと名セリフのある作品ですが、一つだけ引いておきます。
「本気? そんなもの、私にはありませんよ。本気は、長いこと見失っています」(134ページ)



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サイタ×サイタ [日本の作家 森博嗣]


サイタ×サイタ (講談社ノベルス)

サイタ×サイタ (講談社ノベルス)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/11/06
  • メディア: 新書


<裏表紙あらすじ>
「キレイニサイタ」「アカクサイタ」
謎めいた犯行声明をマスコミに送りつける
連続爆発事件の犯人、通称・チューリップ爆弾魔。
その犯行が報道される中、SYアート&リサーチに持ち込まれた
奇妙な素行調査。対象者――佐曾利隆夫に以前の同棲相手への
ストーキング疑惑が浮上する。
張込みに加わったバイトの永田絵里子は、佐曾利を尾行中、
爆弾事件に遭遇する。そして第一の殺人事件が!


今頃何を言っているんだ、というところですが、ここから3月に読んだ本の感想となります。

「ムカシ×ムカシ」 (講談社ノベルス)に続くXシリーズ。
前々作「タカイ×タカイ」 (講談社文庫)から「ムカシ×ムカシ」 まで6年半でしたが、「ムカシ×ムカシ」 からは5か月の2014年11月に出版されました。
次がシリーズ最終巻らしいですね。早く出るといいなぁ。

非常にくねくねと進むストーリーが特徴的でした。
視点はたいがい、小川令子、真鍋瞬一、永田絵里子の活動に照準が合っていて、たまに鷹知祐一朗。そして椙田泰男が電話でゲスト出演(?) みたいな感じです。
ストーカーとか、連続爆弾魔(真鍋に言わせると、爆弾ではなく、単なる発火ということですが)とか、道具立ては派手で、一方の探偵サイドの小川令子、真鍋瞬一、永田絵里子の3人が探偵ですらないというか、きわめて普通の人というか、平凡な対応ぶりである点がポイントなのでしょう。

例によって真相がはっきりと明示されるわけではないのですが、かなりシンプルな真相が用意されていました。
なんとなく、ですが、シンプルな話をいかにくねくねと見せられるかに、森博嗣が挑んだんじゃないかなぁ、という気もします。もっとも、森ミステリィなどというものは、すべてこれ(シンプルなものをいかに難しく、複雑に見せるか)なのかもしれませんが。


<追伸>
カバー袖のことば

覗き見えても
望み消えても
明らかな死亡
あら悲し希望
きらめき美し
聞きつ恨めし
咲いた草花
多彩差はなく
赤青黄色
愚か愛厭き
泣いた経緯が
幼気ないが

2行ずつ、アナグラムなんですねぇ。


<2017.9追記>
今月文庫化されましたので、書影を。

サイタ×サイタ EXPLOSIVE (講談社文庫)

サイタ×サイタ EXPLOSIVE (講談社文庫)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/09/13
  • メディア: 文庫



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ムカシ×ムカシ [日本の作家 森博嗣]


ムカシ×ムカシ (講談社ノベルス)

ムカシ×ムカシ (講談社ノベルス)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/06/05
  • メディア: 新書


<裏表紙あらすじ>
「やっぱり、河童の祟りですか?」
大正期、女流作家の百目一葉を世に出した旧家・百目鬼家。
当主の悦造・多喜夫妻が、広大な敷地に建つ屋敷で刺殺された。
遺された美術品の鑑定と所蔵品リストの作成依頼がSYアート&リサーチに持ち込まれる。
河童が出るという言い伝えがある井戸から、新たな死体が発見され、事件は、異様な連続殺人の様相を呈し始めるのだった。
百目鬼一族を襲う悲劇の辿りつく先は?


「タカイ×タカイ」 (講談社文庫)に続く、久しぶりのXシリーズ。
「タカイ×タカイ」 が出たのが2008年1月で、この「ムカシ×ムカシ」 が2014年6月なので、実に6年半ぶり。
と思ったら、続けて「サイタ×サイタ」 (講談社ノベルス)が11月に出ているんですよね。

読み始めて、このシリーズって、どういう建て付けだったかなぁ、と思ったりもしたのですが、すぐそんなことは忘れて、森ミステリィの世界へ。
「世の中さ、金に目が眩んで頭がおかしくなる奴がいる、というのが一般的な定説みたいだけれど、本当にそんな奴っているのかな?」「金に目が眩んだ奴も、計画的で、策略的で、まったく狂っていない。その一方で、金には無縁だとか、今日の酒代さえあればいいんだとか、そういう潔いことを言っている人間にかぎって、カッとなって人を殺したりするんじゃないかな」
「基本的に、殺人を犯す人間というのは、破滅的というか、自虐的だと思うな。自分を諦めている。自分を見捨てている。もうどうにでもなれっていう感じだろうね。癇癪を起して八つ当たりしているような状態に近い。原因は自分以外にあるにせよ、でも、その原因をもっと大きくして、取り返しのつかないようにしてやるぞっていう、そんな甘えっていうのかな、それは明らかに本人のせいだ」(どちらも68ページ)
なんて、ステキですよねぇ。(いや、ステキという表現はふさわしくないか?)

密室とかアリバイとか、出てはきますが、出てくるってだけですね。
それよりもやはり本作は、動機、でしょうねぇ。
森ミステリィの常として、動機は明確に語られるのではなく、登場人物が推測するだけなのですが、この動機はすごい。
上で引用した、68ページのセリフなんかに照らして考えると、なかなか味わい深い。

森博嗣って、本質的には、文章力の作家なのではなかろうか、とそんなことを考えました。
美文とか文章がうまいとか言われるようなタイプではないのですが、独特のレトリックや表現で、通常だとありえないことをすんなりと読ませてしまう。その意味では、作品全体を貫くトーンも重要です。
文章力というよりは、表現力かも。
冷静に考えれば、かなり荒唐無稽な作品が多いのに、そういう印象を持ちにくい。
いくつかのトリックも、考えてみればしょぼいものが多いのに、読んでいる間はかなり鮮やかな印象を持つ。
森ミステリィについては、「理系ミステリ」と変な表現をされることがありましたが、これはやはり文章の力で、小説ならではの作品群が屹立しているように思いますので、くだらない表現を踏襲すれば、理系の方ではありますが「文系」の力を発揮されているのではないでしょうか?

この作品で特徴的だと思った動機も、妙にリアルに感じられてしまいました。
怖い。



<蛇足>
「いわゆるダイイング・メッセージだね」
「お皿だから、ダイニング・メッセージじゃない」
「面白いね、それ」真鍋は少し感心した。なかなかインテリジェンスを感じさせるジョークだ。(175ページ)
ん? インテリジェンス? 感じませんけど...(笑)


<下記のブログにトラックバックしています>
灯台杜と緑の少年


<2017.09追記>
4月に文庫化されていました。今更ですが、書影を。

ムカシ×ムカシ REMINISCENCE (講談社文庫)

ムカシ×ムカシ REMINISCENCE (講談社文庫)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/04/14
  • メディア: 文庫



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フォグ・ハイダ [日本の作家 森博嗣]


フォグ・ハイダ - The Fog Hider

フォグ・ハイダ - The Fog Hider

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/04/24
  • メディア: 単行本




単行本です。
〈ヴォイド・シェイパ〉シリーズ第4作目です。シリーズの世界観にもだいぶ馴染んできました。
この「フォグ・ハイダ」 は、主人公ゼンが都にいく途上の小休止、といったところでしょうか。
山賊に襲われます。
仲間、と呼ぶのは適切ではないと思いますが、一緒に戦う同志のようなものができます。おお、ゼンもかわりつつあるということでしょう。
注目すべきはやはり、戦闘シーンとならんで、ゼンのこねくり回したような思考につきあう人物が出てくることですね。こんな七面倒な会話に付き合う人、そんなにはいないでしょうが、ちゃんと毎回出てきます。今回は僧侶。よき話し相手、相談相手といった塩梅です。
早く都に行ってみてほしいような、ずーっとこのまま都にたどり着かずうろうろしていてほしいような、複雑な感じを抱えたまま、次巻を待ちます。



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キウイγは時計仕掛け [日本の作家 森博嗣]


キウイγは時計仕掛け (講談社ノベルス)

キウイγは時計仕掛け (講談社ノベルス)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/11/07
  • メディア: 新書


<裏表紙あらすじ>
建築学会が開催される大学に届いた奇妙な宅配便。中には、γと刻まれたキウイにプルトップが差し込まれたものがたったひとつ、入っていた―。荷物が届いた日の夜、学長が射殺された。学会のため当地を訪れていた犀川創平は、キウイに刻まれたギリシャ文字を知り、公安の沓掛に連絡する。取材にきていた雨宮純、発表のため参加の加部谷恵美、山咲早月。ほか、海月及介、国枝桃子、西之園萌絵らも集う邂逅の一巻。

前作「ジグβは神ですか」 (講談社ノベルス)(感想ページへのリンクはこちら)から1年でシリーズ新作がでました。ホッ。
舞台が建築学会ということで、まあ懐かしいメンバ勢ぞろいです。それぞれ時が流れて、立場が変わっているのがポイント(?)。 加賀谷なんて普通の(?) 社会人で、公務員してます。
これだけでなんだか楽しくなりました。
割れたコーヒーカップを使ってるなんてかわいいなぁ。加賀谷よ、海月とうまくいくといいねー、なんて。

事件の方は、すっきりしたのか、しなかったのか、微妙な決着(?)を見せますが、このシリーズだとそういう処理でも驚きません。むしろこの作品は細かく説明している方かな?
シリーズ最初の頃は、ちゃんと説明されてないことに不満を持ったりしましたが、今やそんな不満も感じなくなっています。

今回も「ジグβは神ですか」の感想で書いた言葉で締めたいと思います。
シリーズの無事完結を、切にお願いします。



P.S.1
犀川先生、朝食はあまり食べないんですね。(184ページ)
いや、だから何だということはないんですが、ふっと気になりました。
一方で、萌絵の方は、
「自宅には年配の執事が一人いる。彼が、朝食の用意をしてくれる。もちろん、夕食も。さらには、昼の弁当もである。」
そうか、諏訪野って料理もしたんですね。
ところで、本当に蛇足なんですが、「から鑑みて」という表現にはがっかりしました。

P.S.2
西之園萌絵先生の授業でも生徒が寝るということで、萌絵が
「コスプレして、歌でもうたってやろうかしらって思うくらい」(243ページ)
というのも、かなりインパクトのあるシーンですね。

<2017年10月追記>
2016年1月に文庫化されていました。今更ながら、書影を。

キウイγは時計仕掛け KIWI γ IN CLOCKWORK (講談社文庫)

キウイγは時計仕掛け KIWI γ IN CLOCKWORK (講談社文庫)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/11/15
  • メディア: 文庫



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赤目姫の潮解 [日本の作家 森博嗣]


赤目姫の潮解 LADY SCARLET EYES AND HER DELIQUESCENCE

赤目姫の潮解 LADY SCARLET EYES AND HER DELIQUESCENCE

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/07/25
  • メディア: 単行本



単行本です。
“潮解”の意味が分からず、調べました。
「結晶が空気中の水分を吸収して溶けること」(goo辞書)とか「固体を大気中に放置するとき,その固体が空気中の水分を吸収し,その水分に固体が溶け出す現象」(世界大百科事典) とか書いてありました。ふーん。
これを知っても、たいして内容の理解には役立ちませんでしたが...

作者のホームページ『浮遊工作室』を拝見すると、
「女王の百年密室」 (新潮文庫) (講談社文庫)
「迷宮百年の睡魔」 (新潮文庫) (講談社文庫)
に続くシリーズ第3弾のようです。
サエバ・ミチルもロイディも普通の意味では出てきません。
世界というか雰囲気が共通ということですね。
作者によると、『内容は、ファンタジィなのかSFなのか、よくわかりませんが、自分としては「幻想小説」のつもりです。 』とのことで、非常に難解です。

砂で描かれた曼荼羅、一夜で動くオアシス。ちょっと見覚えのある意匠も出てきますが、時間も空間も人物も融通無碍。視点もすーっとすりかわっていきます。さらには人間だと思ったのが人形だったり、人形と思われたのが人間だったり。
でも不思議と視点の変更で混乱はしません。いや、それよりもっともっと混乱というか、悩むことがあるんですけどね。

21ページに
「突然不思議なお話をされるのです。でも、ちゃんと意味があるの。あとになってそれがわかります」
というせりふが出てきますが、この本自体を、シリーズ全体を、いやいや、森ミステリィを象徴するせりふですね。

「はっきり申し上げれば、私は、端末にすぎません」
「入出力を受け持っているデバイスです」(176P)
なんていう登場人物も出てきますが、生命体というもののとらえ方を提示している作品なんだろうな、と思っています。
意識と身体の分離、というテーマは、森ミステリィのテーマの一つですが、その回答? でしょうか。
どなたにもおすすめできる、というものではありませんが、森ファンなら必読、ということで。


<2018.08追記>
2016年7月に文庫化されていました。遅まきながら、書影を。
赤目姫の潮解 LADY SCARLET EYES AND HER DELIQUESCENCE (講談社文庫)

赤目姫の潮解 LADY SCARLET EYES AND HER DELIQUESCENCE (講談社文庫)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/07/15
  • メディア: 文庫




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神様が殺してくれる [日本の作家 森博嗣]


神様が殺してくれる

神様が殺してくれる

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2013/06/27
  • メディア: 単行本


<裏表紙側帯あらすじ>
連続殺人、舞台はリール、パリ、ミラノ、フランクフルトそして東京。
パリで往年の大女優が絞殺された。両手首を縛られ現場で拘束されていた重要参考人リオン・シャレットは「神様が殺した」と警察で証言。彼は同時に殺人者として僕の名前も挙げた。が、僕に身に覚えはなく、殺人はまったく不可能だった。リオンは大学の寮の僕のルームメイトで、当時から多くの人をその美しさで幻惑した。僕は卒業以来2年半、一度も会っていない。容疑者の特定はおろか手がかりもないまま、やがて起こった第2の殺人。ミラノで有名ピアニストが絞殺された。またもや現場には昏睡したリオンがいた。インターポール(国際刑事警察機構)に勤務する僕は、現地の警察と連携しながら、独自に捜査を始める――。

単行本です。
6月に出た森博嗣の新刊で、ノンシリーズです。
「神様が殺してくれる」 なんとも魅力的なタイトルです。
フォーマットは普通のミステリです。
ミステリ的には、古典的とまでは言えないかもしれませんが、定番のネタを扱っています。でも、それでいて「なーんだ××か」という印象ではなく、「おっ、そう来たか!?」と思えました。また、ちゃんと森博嗣ならではのテイストに仕上がっています。大満足。振り返ってみれば、森博嗣って、このネタ好きなのかも...
この事件、この作品を、森博嗣ではなく、ほかの作家が書いたとしたら、かなり重苦しい作品に仕上がっているのではないかと思います。
海外を転々とする舞台、日本人がほとんど登場しないこと、も、真相対比軽やかな(乾いた? )印象を与える要因だとは思いますが、なにより森博嗣だから、という気がします。
考えようによってはアンフェアとも言えなくもないかな。けれど、語り手の設定も含めて、このストーリー、プロットなら、こうだよなー、と思えました。
シリーズものもいいけれど、こういうノンシリーズもちょくちょく書いてほしいです。

<蛇足>
一人称の語り手は嘘をついてもよい、というのは今やミステリでは常識だと思うので、その観点から、この作品の語り手である“僕”は、いつの段階で真相に気づいたのだろう、と考えるととても興味深いです。
真相を知ってから考えてみると、“僕”なら相当早い段階で真相にたどり着いていてもおかしくないからです。
タグ:森博嗣
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スカル・ブレーカ [日本の作家 森博嗣]


スカル・ブレーカ - The Skull Breaker

スカル・ブレーカ - The Skull Breaker

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2013/04/24
  • メディア: 単行本



単行本です。
前作「ブラッド・スクーパ - The Blood Scooper」の感想(リンクはこちら)の際、シリーズの呼び方はなんというのか、と書きましたが、この本の巻末の広告によれば、第1作のタイトルを使って「ヴォイド・シェイパ」シリーズ、というようですね。
いやあ、それにしても、相変わらずよくわからない...でも、そのよくわからなさが心地よいというか、やめられない感じがします。
ふとしたことで知り合ったヤナギという侍とその剣の師匠 (?) タガミのエピソードがやはりおもしろいですね。タガミとゼンの会話など、このシリーズの真骨頂という趣(とかいいながら、このシリーズの眼目がどこにあるのか、上述の通り、わかってはいないのですが)。
この「スカル・ブレーカ」 では、世話になった宿で出入りがあります。このシーンもまた、印象的。タガミとの会話が、効いているのか、それとも関係ないのか。なかなか考えどころ満載です。
静謐なこのシリーズならでは、と言えるでしょう。
また、だんだんと、主人公ゼンの出自が明らかになってきます。シリーズが、ゆったりとではありますが、進んでいる感覚がします。
次作が楽しみです。


<2015.3追記>
3月20日に文庫化されました。

スカル・ブレーカ - The Skull Breaker (中公文庫)

スカル・ブレーカ - The Skull Breaker (中公文庫)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/03/20
  • メディア: 文庫



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ジグβは神ですか [日本の作家 森博嗣]


ジグβは神ですか (講談社ノベルス)

ジグβは神ですか (講談社ノベルス)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/11/07
  • メディア: 新書


<裏表紙あらすじ>
芸術家たちが自給自足の生活を営む宗教施設・美之里。
夏休みを利用しそこを訪れた加部谷恵美たちは、調査のため足を運んでいた旧知の探偵と再会を果たす。
そんななか、芸術家の一人が全裸で棺に入れられ、ラッピングを施された状態で殺されているのが発見される。
見え隠れするギリシャ文字「β」と、あの天才博士の影。
萌絵が、紅子が、椙田が、時間を超えて交叉する――!

森博嗣のGシリーズの第7弾、なのですが、前作、「目薬αで殺菌します DISINFECTANT α FOR THE EYES」 (講談社文庫)がノベルズ版で出たのが2008年9月で、今後が2012年11月ですから、4年間隔が空いたわけですね。すごいなー。もう書かないのかと思っていました。
作者のホームページの、このシリーズの説明(?)を見ると(勝手に貼っていますが、リンクはこちら)、「前作の発行から4年が経ちましたが、当初から予定していたことで、作品の中でも同様に月日が流れています。 」と書かれていますので、作者の壮大な意図のもと、シリーズが着実に出版されているのですね。
だいぶこのシリーズの先行き(?)を、この作品のなかで瀬在丸紅子の口から語らせている(と思われます)ので、どうやってそこまで持っていくのか楽しみになってきました。いずれはそういう狙いを持つシリーズを森博嗣は書くのだろうとは思っていましたが、Gシリーズがその役目を担うとは。このシリーズは、海月くんのキャラクターがおもしろくて、探偵ぶりも気に入っていて、それを求めて読んできたのですが、これからは別の興味も加わります。
しかし、「作中でも同様に月日が流れて」なんてことになると、最終的には80年以上待つことになるのかな? それだと読めません...早く出してね、続き。
最近の森ミステリには顕著ですが、ミステリ離れ、というか、ミステリには重きを置いていない作風となっています。たとえばこの作品では、あらすじにあるような、ラッピングされた死体、なんていかにもミステリの興趣をそそる設定というか、状況だと思うのですが、うーん、解決されたのか、されていないのか、一応提示される説明は、ちっともミステリらしくない、というか。非常に象徴的な解釈だと思いますし、シリーズの位置づけ的にはこうでなくては、という理由が提示されているのですが、ミステリとして構築するんだったら、もっと意外感の演出が必要なのではないでしょうか。裏返しの説明になりますが、ミステリに重きを置かない以上、今のかたちでよい、ということになります。
もともと森博嗣の作品を読む楽しみの一つに、風変わりな登場人物とそのロジック、言い分を楽しむ、というのがありますので、この方向性でも読み続けますので、シリーズの無事完結を、切にお願いします。
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