SSブログ

生きてるうちに、さよならを [日本の作家 や行]

生きてるうちに、さよならを (集英社文庫)

生きてるうちに、さよならを (集英社文庫)

  • 作者: 吉村 達也
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/10/19
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
「あなたが天国へ行った瞬間を知ってたわ。だって真夜中にきたわよね、私の部屋に。ごめんねって泣きながら……」「兄弟、おれに黙って、なぜ先に逝った。バカヤロー!」 親友の葬式で、勝手に死者との絆を強調する自己陶酔型の弔辞に嫌気がさした会社社長の本宮は、自分自身の生前葬を企画する。だが彼は知らなかった。妻の涼子が重い病に冒されて、余命幾ばくもないのを隠していることを……。

最近、本屋さんに差がなくなってきたなぁ、どの本屋さんに行っても変わり映えしないなぁ、と思うことが多いのですが、この本を買った、有楽町マルイのなかのTSUTAYAは違います。なんだか担当の人の思い入れたっぷりの棚になっています。ミステリ関係にもかなり力が入っていてうれしい限り。
そんな中、この本がどーんと陳列されていました。ほかの本屋さんではちっとも見かけない。日頃あまり買わない作家だというのに、思わず手に取って、買っちゃいました。作者のブログでもこの本屋のことが紹介されています。「読んでもらった人 今のところ 100%おもしろいと 絶賛ナノダ」という書店作成の宣伝文句もあります。
上に引用したあらすじを読んでも、この作品がミステリだとは思いませんよねえ。巻末の作品リストでは、この作品は心理サスペンスというくくりに入っています。
生前葬、と書いてありますが、生前葬ではなくて、「生きてるうちに、さよならを」パーティーだと作品中で説明されます。それを主人公が企画した途端、妻の命が短いことを知る。うーん、ミステリじゃなく、感動ストーリーみたい。
手記の形式で、章ごとに語りかける相手を変える、という趣向になっています。なかなか興味深い設定ではないでしょうか。どこにでもありそうな日常--とはいっても、一代で会社を上場企業に育て上げた社長なのですから、並みではありませんが--に、急に波風が立ち「まさに小説のような体験」をするさまを描いています。
ストーリーはうまくできていたなぁ、と感心しました。特に、すっと切り替わると同時に余韻の残る最終章はポイントが高いように思います。
ただし、読み終わってから振り返ってみると、そもそもこの手記自体が無理な存在に思えてしまいます。各章の語りかける相手も、不適切な人物が選ばれたりもしています。「具体的に誰に読ませるためなのかという答えは見つからないまま」と冒頭に記されているので、作者もそこのところの説明がうまくない、という自覚はあったのでしょう。振り返って後からつづられたという形式よりは、そのときそのときに同時進行で書かれた手記という体裁のほうが、この不自然さは解消されたのでしょうが、逆にそうなると俯瞰した回想がしづらい、という別の問題が浮上してきてしまうので難しいところですね。
結論として、ミステリとしてみたらちょっと残念ですが、TSUTAYAの宣伝文句に偽りなく、おもしろかったのです。

<2012.6.23追記>
有楽町マルイのTSUTAYAに行ってきました。この本を買ったときとはレイアウトが変わっていました。
せっかくなので(?)この作品の謳い文句をメモってきました。
「こんな作品を探していました!
当店最新のオススメ文庫!
最後の最後に記される真実。
こんなにも全ての感情に語りかけてくる作品があるなんて!!
今、一番読んで欲しい作品。」
あらすじをはさんで、
「最後の最後にあまりに耐え難い『おわりに』があります。
絶対に先に読まないでくださいね。
読んだら後悔しちゃいますよ。」

タグ:吉村達也
nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 2

まっきー☆

このTUTAYA、ワタシもたまに行きます。 すごく独特ですよね! でも陳列方法がちょっと他店と違い、ほしい本がなかなか見つからなくて、ちょっといらっとくることあります。( ̄ω ̄;)
個性的な本屋が少なくなる中、わが道を行ってほしいお店の一つですね~。 店先に本の並べ方についての説明とかあると嬉しかったりして。
by まっきー☆ (2012-06-24 10:23) 

31

まっきー☆さん、コメントありがとうございます。
そうですね、このTSUTAYAは、欲しい本があって探すときには不便ですね。正直わかりにくい。
一方で、特に目指す本がなく、なんかないかなぁ、程度でぶらっと見るには楽しいですね。たまに行って、意外な本がオススメされているのを期待しています。

by 31 (2012-06-24 16:23) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0