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体育館の殺人 [日本の作家 青崎有吾]


体育館の殺人

体育館の殺人

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/10/11
  • メディア: 単行本


<表紙袖あらすじ>
放課後の旧体育館で、放送部部長が何者かに刺殺された。
外は激しい雨が降り、現場の舞台袖は密室状態だった!?
現場近くにいた唯一の人物、女子卓球部の部長のみに犯行は可能だと、警察は言うのだが……。
死体発見現場にいあわせた卓球部員・柚乃は、嫌疑をかけられた部長のため、学内随一の天才・裏染天馬に真相の解明を頼んだ。
なぜか校内で暮らしているという、アニメオタクの駄目人間に──。
エラリー・クイーンを彷彿とさせる論理展開+抜群のリーダビリティで贈る、新たな本格ミステリの登場。若き俊英が描く、長編学園ミステリ。

単行本です。
第22回鮎川哲也賞受賞作。
タイトルを見てもなんとも思わなかったのですが、辻真先の選評の「中村青司建築シリーズのパロディとわかったときは笑わされました」というのを読んで、ようやく気づきました。館シリーズですか... 体育館は確かに「館」がつきますけどね(笑)。 目の付け所がいいですねえ。ちっとも思いつきませんでした。
内容は館シリーズの雰囲気ではなく、学園ミステリです。そして最大のポイントが、あらすじにもかかれている、論理展開。エラリー・クイーンの名前を引き合いに出すのも納得の、中身だと思いました。
探偵の設定には魅力を感じませんでしたが、その探偵の繰り出す論理は素晴らしい。特に、傘をめぐる推理の冴えは特筆できます。探偵が2回も取り上げ、2回も論理を展開して見せるのですよ。1粒で2度おいしい手掛かりって、読んだことあったかな? と思えるくらい、冴えわたっています。もう、これだけで十分に受賞の価値はあると思いました。
あえて疵を指摘しておきますと、動機、でしょうか。ロジック派のミステリでは、動機がいい加減でもあまり大きな疵とはならないと思っているので、作品の評価自体を損ねることはないと思いますが、この動機はないんじゃないかなぁ。舞台は高校ですよ、中学校ではなくて。 作者は21歳の現役大学生ということなので、高校生についても当然身近でしょうから、あるいは最近の高校生にはリアルなんでしょうか? 謎です。
なので、エピローグも、あまりすっきりとは読めませんでした。
僕の指摘が正しいとしても、ロジック重視のミステリとしてはこれは小さな疵なので、鮎川賞の受賞作としてこの快作を読めたことを素直に喜びます。楽しかったです。

「2013本格ミステリ・ベスト10」 第5位です。


<おまけ>
そういえば、プロローグとエピローグがある作品なのですが、両者に特に相関がないのがちと残念でした。 この2つが響きあうようにすればもっと素敵だったかも。

<2013年10月追記>
soma1104 さんからご指摘をいただきました。↓のコメントをご覧ください。
プロローグとエピローグの相関についての考え方が、狭すぎたようですので、上の<おまけ>を削除します。

<2015年03月追記>
文庫化されたので書影を。
体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/03/12
  • メディア: 文庫


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コメント 4

soma1104

いやいやいや、めちゃくちゃ相関あるでしょう、プロローグとエピローグ。プロローグで語られているのは、エピローグで指摘される真犯人(というか黒幕というか)のほうの心情・状況なんですから。

もちろん、「ここに登場する一人の人物」=本編内の犯人であるかのように読めてミスリードが図られているわけですが、でも、本編側の犯人なら、(傘の濡れないルートで、先に舞台袖に着いて待ち伏せていたわけで、)朝島友樹が「扉の向こう側で待ち構えている」という状況は生まれていないはずです。

あ、とおりすがりの者です。「んなこたあ分かったうえで、でも響き合ってないって言ってんだよ」ってことだったらごめんなさい。
by soma1104 (2013-10-21 14:47) 

31

soma1104さん、ご訪問&コメントありがとうございます。

さて、プロローグが黒幕のモノローグというのはご指摘のとおりだと考えています。その前提で感想も書いています。
今のかたちだと、プロローグは黒幕のモノローグ、エピローグは黒幕の暴露、という配置です。これでは、響きあっている、とはいえないと思って感想を書きました。
ご指摘の通り、どちらも「本編の外枠」という位置づけである、ということにおいては相関あり、といえるでしょうが、プロローグとエピローグは通常そういう相関は持っているもので、ミステリにおいて、殊に、思わせぶりなプロローグを配置したような場合には、プロローグとエピローグは、その体裁や登場する人物の位置づけも含めて、呼応するかたちをとってほしかった、という趣旨です。
ネタバレを避けるため、ぼやっとしか書いていないので、とてもわかりにくい感想で恐縮です。

こういう古めの記事にもコメントいただけるのは、とっても嬉しいです。
またとおりすがったら、ぜひコメントをお願いします。

by 31 (2013-10-22 21:23) 

soma1104

なるほど、発言の趣旨、理解しました。
31さんのはからいを無に帰すようなネタバレコメントを寄せてすいません(笑)。

わたしはというと、プロローグによるミスリード(本編内犯人の犯行は相当に計画性の高いものだという枠設定)に最後まで囚われていたクチでして、そこで、「俺は、フェアプレイってのが嫌いなのさ」というラスト一行のセリフが、プロローグの仕掛けの〈ずるさ〉にたいして自己言及的に対応しているのだろうなあ、というふうに読めたのでした。いや、これも31さんの期待する呼応のしかたとはちがうと思いますけども。

ともあれ、丁寧な返信ありがとうございました。
by soma1104 (2013-10-22 22:31) 

31


soma1104 さん、再びコメントありがとうございます。
なるほど、プロローグとエピローグに、そういうメタな意味合いが含まれている、と読むことができるのですね。
おもしろいです。
ぼくの読み方がちょっと浅かったようです。ブログを修正しました。



by 31 (2013-10-26 22:34) 

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