魔神館事件 夏と少女とサツリク風景 [日本の作家 椙本孝思]
<裏表紙あらすじ>
覚えのない女性からの電話により、「魔神館」と呼ばれる洋館の落成パーティに参加することになった高校生・白鷹黒彦。果たしてそこは、12星座に見立てた石像と、妙な配置の部屋がひしめく妖しげな洋館だった。そんな館での夜、不可解な殺人事件が発生。嵐で孤立する中、その後もありえない状況で次々と人が殺されていく……犯人は参加者か、それとも館に佇む魔神像の仕業か!? 黒彦と世界最高の知性・犬神清秀の推理が始まる!
椙本孝思を読むのは初めてですが、本屋さんで、
「魔神館事件 夏と少女とサツリク風景」 (角川文庫)
「天空高事件 放課後探偵とサツジン連鎖」 (角川文庫)
「露壜村事件 生き神少女とザンサツの夜」 (角川文庫)
の3冊が、ドーンと平積みになっているので、気になっていたのです。
お屋敷物っぽいし、本格ミステリっぽいし、手に取ってみました。
12星座に見立てた石像があって、連続殺人なので、クリスティの「そして誰もいなくなった」 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)も意識した作品です。
いかにもな道具立てで、いかにもなストーリー展開です。
となると、着地はどうなのか、ということが興味の焦点となるわけですが...
途中、156ページあたりに、ミステリに対して刺激的な内容のせりふがあります。
「著者が頭の良さをひけらかそうとするのが気に入らないんだ。理論だとかメタファーだとかよく分からない言葉を並べて、さも複雑な思考をもって書きました。凄いでしょって言っているみたいで、気持ち悪いんだよ」
「……実際、書いている人は頭良いんじゃないですか?」
「まさかまさか。世間知らずのお坊ちゃんだよ。賢い人はまずあんなものは書かない」
続けて
「特に近年の、トリックや謎解きを、見せているのには、そういう傾向が強いね。お陰でそれを読む人にまで、自分は頭が良くて高尚な趣味を持っているんだと勘違いさせてしまう。そういう閉鎖的な世界観が嫌いなんだよ」
とか
「所詮娯楽なんだから、娯楽らしくするべきなんじゃないかな? 威張れるものじゃないし、威張る必要もない。」
とか。
でも、かくいうこういうせりふを含んだ本書こそが、典型的な(あるいは類型的な)ミステリですし、トリックや謎解きを見せる作品なのだから、なかなか曲者です。
で、着地はどうかというと、いやあ、実にばかばかしくて、良い。
アイデアとしては、前例のあるものなのです。
すぐに思いついたのは、日本推理作家協会賞も受賞している、あれ、です(ネタばれを防ぐため、伏せておきます。確認したい方は、←のあれのリンクをたどってください)。あれ、よりもずっとぎこちなく、あれ、よりもずっと稚拙ですが(なんといっても、あちらは名作ですから)、そこがなんともおかしくて、良い、です。よくこんなの作品にしたなぁ。
読後怒り出す人がいてもおかしくないと思いますが、個人的には許せてしまう。
そして本書は、ラノベっぽいキャラクター設定ですが、世界最高の知性・犬神清秀はともかく(この造型はあまり感心しません)、その妹果菜(はてな)と主人公黒彦をめぐるやりとりが印象的でよかったです。
このやりとりと、上述のアイデアがリンクしてくるあたり、なかなか楽しく読み終わりました。
この後の2作で、主人公たちの関係に進展があるのでしょうか?
ミステリとしての期待値は高くないですが(失礼)、なんとなく楽しみです。
タグ:迷探偵・白鷹黒彦の事件簿 椙本孝思
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