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漂流巌流島 [日本の作家 た行]


漂流巌流島 (創元推理文庫)

漂流巌流島 (創元推理文庫)

  • 作者: 高井 忍
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2010/08/11
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
宮本武蔵は決闘に遅れなかった!?  人使いの荒い監督に引きずり込まれて、チャンバラ映画のプロットだてを手伝う破目になった主人公。居酒屋で額を寄せ合い、あーでもない、こーでもないと集めた史料を検討していくと、巌流島の決闘や池田屋事件など、よく知られる歴史的事件の目から鱗の真相が明らかに……! 第二回ミステリーズ! 新人賞受賞作を含む、挑戦的歴史ミステリ短編集。


居酒屋で酒を飲みながら、あれこれ議論していくうちに、歴史上の出来事の裏の真相(?) に迫っていく。
この設定、鯨統一郎の「邪馬台国はどこですか?」 (創元推理文庫)と同じ趣向ですね。
歴史上の謎を解く、というのはまああってもここまで同じだと、二番煎じと思ってスルーするところなのですが、ミステリーズ! 新人賞の受賞作ということで、手に取りました。
ミステリーズ! 新人賞の前身である、創元推理短編賞は、恐ろしく受賞のハードルが高く、なかなか受賞作を出さなかった印象で、その後継となる賞を受賞したということは、かなり優れた作品であることが期待できると思ったのです。
読んでみて正解。とてもおもしろかったですね。

「漂流巌流島」
「亡霊忠臣蔵」
「慟哭新撰組」
「彷徨鍵屋ノ辻」
の四話収録。
上で引用した裏表紙あらすじでは、宮本武蔵の分だけが書かれていますが、文庫本の扉のあらすじには、ほかの3話のコメントもあり、それぞれ
「赤穂浪士は浅野内匠頭が殿中刃傷に及んだ理由を知らなかった!?」
「近藤勇は池田屋事件を無理矢理起こしていた!?」
「鍵屋ノ辻の仇討ちは上手くことが運び過ぎた!?」
というものです。

「邪馬台国はどこですか?」 をはじめとする鯨統一郎の諸作とは違った狙いのある作品だと思いました。
鯨統一郎の場合、通説といかにかけ離れた真相(仮説?) を提示し、そこまでいかに飛翔するか、飛翔してみせるか、というのが腕の見せ処になっていますが(その意味では作中で提示される真相は素っ頓狂であればあるほどよい)、この「漂流巌流島」 の場合、真相は堅実なものであって(当然のことながら、通説を信じている身には十分意外です)、いかに通説をひっくり返してみせるか、そこに眼目のある作品だと思いました。
それが証拠に、解説で有栖川有栖も指摘していますが、たとえば表題作「漂流巌流島」では、謎解きが始まるその前に、時代ものには決して似つかわしいとはいえない、一方ミステリではおなじみの単語がぽーんと出てきて、びっくりさせられるのです。
TV業界人という設定なので、さぞやいい加減に話が進むのでは、と思いきや、丁寧に史料にあたったりするところも、このひっくり返しにきっちり奉仕しています。すばらしい。
同じような設定でも、まったく違う狙いを成立させたところにも、受賞のポイントがあったのかもしれませんね。

四人の監督によるオムニバスという趣向がどんどん崩れていって、次々と難題が降りかかってくるという、いわばお約束の趣向も気に入りました。
ぜひほかの作品も読んでみたい作家です。


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