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妃は船を沈める [日本の作家 有栖川有栖]


妃は船を沈める (光文社文庫)

妃は船を沈める (光文社文庫)

  • 作者: 有栖川 有栖
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2012/04/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
「妃」と呼ばれ、若い男たちに囲まれ暮らしていた魅惑的な女性・妃沙子には、不幸な事件がつきまとった。友人の夫が車ごと海に転落、取り巻きの一人は射殺された。妃沙子が所有する、三つの願いをかなえてくれる猿の手は、厄災をももたらすという。事件は祈りを捧げた報いなのだろうか。哀歌の調べに乗せ、臨床犯罪学者・火村英生が背後に渦巻く「欲望」をあぶり出す。


本書は二部構成です。
成立過程が「はしがき」に書かれていますが、なかなか興味深いです。
本書の第一部となった「猿の左手」を雑誌に中編として発表した二年後に、その後日談を思いついて、第二部となった「残酷な揺り籠」を発表。「この作品と前の作品をつなげたら長編になるのではないか。それがあるべき形では」ということで、「幕間」を書き足して、通しタイトル「妃は船を沈める」をつけて長編が完成した、と。

第一部「猿の左手」でおもしろいのは、やはりウィリアム・W・ジェイコブズの短編「猿の手」(いろいろなアンソロジーに収録されています。たとえば「怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版]」 (創元推理文庫)あたり。なので、何度も読んだことがあります。最近(?)では、「乱歩の選んだベスト・ホラー」 (ちくま文庫)というミステリファンにはよく効きそうなタイトルのアンソロジーで読みました。感想のページへのリンクはこちら)の新解釈が披露されていることでしょうか。
はしがきでは、北村薫と実際に作中のような談義を交わしたとのことで、なんとも贅沢な話。
古典ともいえる作品に新解釈が出されるということ自体とても興味深く、その中身もミステリ作家らしいもので楽しめましたが、やはり普通の解釈の方が「猿の手」にはふさわしいように思えましたが、いかがでしょうか?
もちろん、新解釈だけが目的の作品ではなく、現実の事件の構図が新解釈と二重写しのようなものになっているのがポイントです。
第二部のタイトルは、冒頭で地震が発生し、火村が「赤ん坊だって地震は容赦しないからな。この国は、残酷な揺り籠みたいなもんだ」というところからとられていますが、もうひとつ、作中の設定からもとられていてもいます。
みどころは、やはり火村の推理。
「なんて不思議な推理でしょう」「砂の上に築かれた楼閣なのに、ちゃん建っているように見える。建つわけないのに。あなたは、どこからでも、どうやってでも、解いてしまうんですね。」
と言われます。手がかりの解釈が通常のロジック展開とはひねったものになっているのがとても興味深かったです。


P.S.
「火村英生に捧げる犯罪」 (文春文庫)の感想をかいたときに(リンクはこちら)、この「妃は船を沈める」 を短編集としてカウントしていましたが、「長編」でしたね。



タグ:有栖川有栖
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