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傍聞き [日本の作家 な行]


傍聞き (双葉文庫)

傍聞き (双葉文庫)

  • 作者: 長岡 弘樹
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2011/09/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
患者の搬送を避ける救急隊員の事情が胸に迫る「迷走」。娘の不可解な行動に悩む女性刑事が、我が子の意図に心揺さぶられる「傍聞き」。女性の自宅を鎮火中に、消防士のとった行為が意想外な「899」。元受刑者の揺れる気持ちが切ない「迷い箱」。まったく予想のつかない展開と、人間ドラマが見事に融合した4編。表題作で08年日本推理作家協会賞短編部門受賞!


「迷走」
「傍聞き」
「899」
「迷い箱」
の4作収録短篇集で、表題作である「傍聞き」が日本推理作家協会賞の受賞作です。

解説でもいくつか引用されていますが、「傍聞き」、協会賞の選評でかなり褒められています。
「真相に至るキーワードを堂々と題名に掲げながら、なお読み手を欺く腕前に感服した。私自身、眉に唾して読んだのだが、まんまといっぱい食わされた。きれいな投げ技である。推理小説ならではの面白さを持ちつつ、家庭小説としての味わいも好ましく、読者を選ばない作品だろう。」(有栖川有栖)
「他の作品に比べて頭ひとつ分もふたつ分も抜きん出た作品だったからです。最後の最後まで、『傍聞き』というタイトルが生かされていた点についても、この作品しかないだろうと思って選考に臨みましたが、果たしてそのとおりになったことに選考委員として満足しております。」(北森鴻)
「『傍聞き』が高得点で抜きん出た。警察小説という枠組のなか、日常的犯罪の意外な犯人、犯罪者の心性、ヒロイン刑事の家庭問題などの要素を立体交叉させ、タイトルを生かした結末に運び、しかもそこに<救い>を読ませることに成功している。」(野崎六助)
「私は不勉強で『傍聞き』という言葉を知らなかったのだが、人の話をそばで聞くとはなしに聞くことを『傍聞き』と呼ぶらしい。
 この作品では『傍聞き』が前後三度出てくるのだが、そのバリエーションの見事さ、鮮やかな手際は、ほとんど名人芸といっていいほどに思う。繊細だし、なにより温かい。警察小説としても家庭小説としても人情小説としても抜群の出来ばえを見せている。
 ここ何年間、私が読んだなかで、優にベストと呼んでもいい作品で、あらためて短編小説のすばらしさを教えられた気がした。
 作者には最大級の敬意を表したい。」(山田正紀)
ただ一人馳星周だけが辛口で
「突出した輝きはない、が、瑕瑾がなく、よくまとまっている。総じて得票数も多かった『傍聞き』だ。
 わたし以外の選考委員たちがこの作品を受賞作にと口を揃えた時、わたしには反対する気持ちも理由もなかった。」
で、個人的な読後感は、実は馳星周に近いです。
まさに「突出した輝きはない、が、瑕瑾がなく、よくまとまっている」作品です。
こういう優等生的な作品、書くのは難しいのだろうなと想像はするのですが、わがままな読者としては、歪でもどこか強烈な印象を持った作品に惹かれてしまいます。

ほかの3作も、よく練られていると思いました。
「迷走」では救急救命士、「傍聞き」では刑事、「899」では消防士、「迷い箱」では更生保護施設長と、それぞれプロを主人公に据えているのも、最近そういう作例が増えてきてはいますが、ポイントだと思います。
ただ、よく練られているがゆえにでしょう、どことなく作り過ぎな感が...
ミステリで作り過ぎというのは決してマイナスではないと常々思っているのですが、あらすじでいうところの「人間ドラマ」と組み合わせると、ちょっと食い合わせが悪いのでしょう。

「傍聞き」で協会賞を受賞されたので、この方向で進んでいかれるのかもしれませんが、一度、ミステリに淫したような、作り過ぎ大歓迎という感じの作品も書いてみてもらいたいな、と思いました。


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