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書物迷宮 [日本の作家 あ行]


書物迷宮 (講談社文庫)

書物迷宮 (講談社文庫)

  • 作者: 赤城 毅
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/10/14
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
世に出れば歴史の真相を覆しかねない本を、合法非合法を問わずあらゆる手段で入手するプロフェッショナル、“書物狩人 (ル・シャスール)”。スペイン内戦末期に出版された、ロルカの幻の詩集獲得のためグラナダ地方を訪れたル・シャスールは、依頼人である老婦人を前に、この本に隠された驚くべき秘密を語り出す。シリーズ第二弾!


「書物狩人」 (講談社文庫)(ブログへのリンクはこちら)に続くシリーズ第2弾。しかし、前作の感想を書いたのが2011年11月ですから、もうあれから3年以上たつのですね...
主人公である、書物狩人というのは、「書物狩人」 のあらすじから引用すると、
「世に出れば世界を揺るがしかねない秘密をはらんだ本を、合法非合法を問わずあらゆる手段を用いて入手する『書物狩人』」
ということになります。

この第2作は、
「書庫に入りきらぬ本」
「長い長い眠り」
「愛された娘」
「冷やしすぎた秘密」
の4話を収録しています。

「書庫に入りきらぬ本」は、非常に興味深い点がいろいろとある作品でした。
スペインの内戦、文化人のスパイ活動、ドイツの公文書館のあり方、アンダルシアの「深い歌 (カンテ・ホンド)」そして、「この年齢になれば、ポーカー・フェイスぐらいは、たしなみにうちです」なんていう素敵な老婦人。
「書庫に入りきらぬ本」と聞いて、なにを連想なさいますか? 膨大な冊数の本? あるいは非常に大きな判型の本?
ル・シャスールが手に入れる本は、かなり粋なものだと感じました。

「長い長い眠り」も興味深い点満載です。
そして、変わった本を対象にしています。古い時刻表、ですから、本、と呼ぶのが適切なのかどうか。満鉄の時刻表。
北京にある昔ながらの胡同(ホウトン)や、伝統的な家屋建築、四合院という舞台も素敵だし、北京原人をめぐるロマンティック(?) な物語も、中国の凄まじい権力闘争も、物語の大切な彩りです。

「愛された娘」では、ル・シャスールの車の前へ飛び出してきた少女の謎を解きます。
これまたロマンティックなストーリーが秘められているのですが、それを暴く書物をめぐる部分は、ちょっと無理があるんじゃないかな、と思えました。
とはいえ、そのことがタイトルにも素直に書かれている少女が「愛された娘」であったことの証として機能するあたりは素敵でした。

「冷やしすぎた秘密」では、DIA(アメリカの国防情報局)、AW(アヴ=ポーランド情報局)、ABW(アベヴ=ポーランドの国内保安局)が登場し、冒頭からきな臭い。
「長期にわたり地中に埋没し、湿気を含んで、ページを開くこともできない書類が、空気に触れれば、カビの発生によって、ますます劣化してしまう。これを防ぐために、速やかに冷凍するというのが、最近の文書保存の常識なのです。」
うーん、勉強になるなぁ。普段の生活にはまったく役に立ちませんが...

歴史が(虚実はともかく)、書物を通して滲み出してくるこのシリーズ、楽しいですね。
次の「書物法廷」 (講談社文庫)もすでに文庫化されていますし、その後も
「書物幻戯」 (講談社ノベルス)
「書物輪舞」 (講談社ノベルス)
「書物審問」 (講談社ノベルス)
「書物奏鳴」 (講談社ノベルス)
「書物紗幕」 (講談社ノベルス)
と快調に巻を重ねているので楽しみです。


<蛇足>
「世界史上、もっとも複雑で、もっとも暴力的な戦争の一つ」という記述が22ページにあります。
「もっとも~なものの一つ」という言い方、日本語の「もっとも」は本来、一番、すなわちただ一つを指す単語であり、「もっとも~なものの一つ」という表現はあり得ない、と聞いたことがあります。とすると、これは、英語などの、「one of 最上級」という表現を訳したものから広まった表現かと思います。
日本語は、奥が深い!?







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