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パラドックス実践 雄弁学園の教師たち [日本の作家 門井慶喜]


パラドックス実践 雄弁学園の教師たち (講談社文庫)

パラドックス実践 雄弁学園の教師たち (講談社文庫)

  • 作者: 門井 慶喜
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/01/16
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
初等部から大学院までをそなえた伝統ある名門校、雄弁学園。最大の特色は通常の科目の他に「雄弁」を学ぶこと。新任の教師、能瀬雅司は生徒から難問を突きつけられ、雄弁術で証明しなければならなくなった。失敗したら生徒たちに失格の烙印を押されてしまうだろう。新米教師は無事「試験」に合格できるのか?


「パラドックス実践 - 高等部」
「弁論大会始末 - 初等部」
「叔父さんが先生 - 中等部」
「職業には向かない女 - 雄弁大学」
の4編収録の連作です。

第1作目の「パラドックス実践 - 高等部」は、第62回日本推理作家協会賞短編部門の候補作です。
これが協会賞の候補作ですか...意外。
意外とは言いましたが、おもしろいんですよ。楽しみました。
生徒から
「テレポーテーションが現実に可能であることを証明せよ」
「海を山に、山を海に変えられることを証明せよ」
「ほんとうにサンタクロースがこの世にいることを証明せよ」
という3つの命題を突きつけられて、はてさてどうやって回答すべきか煩悶する教師、という話です。
相手の言説を土台に、というか、逆手にとって話を展開していくところとか、ミステリっぽいというか、ミステリにもみられる要素もちゃんとあります。
でもね、肝心の中心的アイデアが、どうでしょう、これ? これで納得しますか? しないと思うんですよね。
でも、黙り込んでしまう生徒、強引にするすると話を進めていってしまう主人公。
たまたま(?)教室にいた部長(普通の学校でいうところの校長)が、すっと話を引き継いで展開させていってしまうところは、むしろ主人公を追いつめる立場かと思われた人物が助けるサイドに回るという意外性(?)を演出したりもしますが、いかんせん弱いですよねぇ、アイデアが。

他の作品もその点いずれもなんだか喰い足りない印象です。

おもしろいのは、学園を舞台にしていても、生徒ではなく教師に焦点が当たっていること。
副題にもある通り、「雄弁学園の教師たち」なのです。
また、「日常の謎」というには日常的ではない設定ですし、パラドックスというか、もはや詭弁の領域の論旨が展開されていきますが、結局のところ教師の普通の悩みが、普通でない経路をたどりつつも、普通に解決されます。
こういうひねくれたフォーマットはいいですね。

あっ、そうか、ここまで書いて気づきました。
そういう狙いの作品だったんですね。
パラドキシカルな言説を弄じつつ、きわめて平凡な(失礼)問題を平凡に解決して見せる。
フォーマットそのものが逆説的に組み立てられていたわけですね。



<蛇足>
ぼくは個人的に宮沢賢治があまり好きではありません。
ミステリとは相性の良い詩人・文学者なんですけどね。
特に、「雨ニモマケズ」が嫌いです。
「雨ニモマケズ」は、「パラドックス実践 - 高等部」でも触れられていますが、「職業には向かない女 - 雄弁大学」において、「雨ニモマケズ」の叙述が秘める厭らしさ(レトリックの下品さと言ってもいいかもしれません)を暴き立てているのは、(視点人物とは対立する観点の人物による言説ではあるものの)、すごくツボでした。ああ、すっきりした。
宮沢賢治がお嫌いな人は、ぜひ(笑)。


タグ:門井慶喜
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