三つの棺 [海外の作家 ジョン・ディクスン・カー]
<裏表紙あらすじ>
ロンドンの町に静かに雪が降り積もる夜、グリモー教授のもとを、コートと帽子で身を包み、仮面をつけた長身の謎の男が訪れた。やがて二人が入った書斎から、銃声が響く。居合わせたフェル博士たちがドアを破ると、絨毯の上には胸を撃たれて瀕死の教授が倒れていた! しかも密室状態の部屋から謎の男の姿は完全に消え失せていたのだ! 名高い〈密室講義〉を含み、数ある密室ミステリの中でも最高峰と評される不朽の名作
2014年に出た新訳です。
帯には訳者あとがきからの引用で、
1981年に17人のミステリ作家、評論家が選出したオールタイム不可能犯罪ミステリ・ランキングで、ヘイク・タルボット『魔の淵』、ガストン・ルルー『黄色い部屋の秘密』などをおさえて第1位に輝いたのが本書。なにしろ選出にあたったのが、フレデリック・ダネイ、ハワード・ヘイクラフト、エドワード・D・ホック、リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク、フランシス・M・ネヴィンズJr.、ビル・プロンジーニ、ジュリアン・シモンズ、オットー・ペンズラーといった錚々たるメンバーなので、その品質保証には全幅の信頼がおけると言えよう(本書「訳者あとがき」参照)。
と書かれています。
名作と誉れ高いこの作品、当然、旧訳でも読んでいます。が、例によってうろ覚え...
〈密室講義〉にのみ気をとられていたことがよくわかります。
--この種の講義の常として、いくつかの作品のネタバレがされているので要注意です。まあ、いずれも古典的名作ではありますが、未読の方には嫌な状況ですね。
ただ、忘れていた自分を弁護するわけではありませんが、この作品、すごく込み入っているんです。メインとなっているのはシンプルなアイデアなんですが、その周りに贅沢にちりばめられた小技の数々、数々、数々、こりゃ、また、忘れるわ、きっと。
それでも、今回読み返すこととなって、メインとなっているアイデアと、周りの小技の組み合わせの剛腕ぶりには、さすがカーと、ため息がでちゃうくらいの凄いレベル。
凄い状況、謎を作り上げるぞー、というカーの強い意気込みが感じられます。
吸血鬼伝説、というか、墓場からの甦りを成し遂げた人物グリモー教授が被害者となる、という結構強烈な話なんですが、もうバリバリ、カー全開です。
何とも言えない恐ろしげな雰囲気がカーの魅力の一つですし。
その分、小技には無理に次ぐ、無理が見られてしまいます。
「コートと帽子で身を包み、仮面をつけた長身の謎の男」にまつわるところなんか、出現する現象の凄さに、思わず叫びだしたくなるようなアイデアなんですけど、図入りで説明されても、うーん、これはないなー。
「二発目はお前にだ」というセリフとともに殺されるフレイ(グリモー教授と因縁のあった奇術師)も、わくわくする中身なんですが、こちらもなー。このトリックは成立しないだろう、きっと。
と建て付けはあんまりうまくないような気がするのですが、読んでいて、こりゃだめだ、という気にはなりません。
素敵な不可能状況のために、これでもか、これでもかと趣向を詰め込んでいくカーに圧倒されるからです。
数々の仕掛けの凄さは、 SAKATAM さんのHP「黄金の羊毛亭」をご覧になると、技巧に感心できます。
個人的には一番感心したのはタイトルですね。
新訳、復刊でカーの作品がどんどん読めるようになることを引き続き期待します。
<蛇足1>
「びっくり箱のなかにいた禿頭のように跳び上がった」(200ページ)って、どういう比喩なんでしょう?
<蛇足2>
ヒズ・マジェスティーズ劇場というのが201ページに出てきますが、これ、現在の Her Majesty's Theatre と同じでしょうか? オペラ座の怪人を上演している劇場です。
<蛇足3>
「足の指のつけ根ですばやくなめらかに歩くところを見ると、おそらく空中ブランコか綱渡りをする男だ」(221ページ)って、どういう歩き方なのかなぁ、気になる。
原題:The Three Coffins
著者:John Dickson Carr
刊行:1935年
訳者:加賀山卓朗
コメント 0